冒険者の日常:聖職者、だいたい黒
ヒューマンの青年、グリディは深々と頭を下げた。
「……分かりました。その依頼、この私グリディが承りましょう」
目の前の少女はほっとしたように微笑む。だがその横で、ドラゴンボーンの女性リフィーはわずかに眉をひそめ、そっと耳打ちした。
「ねぇグリディ。その子からお金取る気じゃないでしょうね?」
「何を仰るのです。寄付は余裕のある方からのみですよ」
穏やかな笑顔のまま、グリディは少女の手を取り、膝をついて指先に口づけた。少女は頬を赤く染め、慌てたように去っていく。
その背を見送りながら、グリディの表情が変わる。
「見ましたか、リフィー」
どこか企みを帯びた笑みに、リフィーは嫌な予感を覚えた。
「あの指輪、本物の金です。宝石が毎晩一つずつ消えるなら……最近急に羽振りの良くなった者がいるはず」
「……まともなこと言うじゃない」
「指輪の匂いも覚えました。あとは辿るだけです」
酒場を出た瞬間、グリディはふっと笑みを浮かべた。視線の先には、朽ちた廃屋。
「ここから、金の匂いがしますねぇ」
制止も聞かず踏み込むと、中では男たちが盗品を分け合っていた。
「なんだテメェら!」
怒号と共に襲いかかる男たち。しかしリフィーは即座に大盾を構え、すべての攻撃を受け流す。弾かれた男たちは床に叩きつけられた。
「防がなくても私の魔法で一撃でしたのに」
「怪我したら回復代請求するでしょ」
「ええ、その通りですよ」
リフィーは大きくため息をついたのと同時に、グリディが光の魔法を放った。眩い光が男たちを貫き、邪悪な気配は一瞬で消え去る。
「これで一件落着です」
グリディはさらりと金品を拾い集める。
「ねぇ、それ持ってかないよね?」
「何をおっしゃるんですか。
私は聖職者ですよ?」
やがて少女が駆け寄ってきた。
「ありがとうございます!形見が戻りました!」
大事そうに金のブローチを握る姿に、二人は微笑む。
「報酬ですが、このブローチ以外をどうぞ!」
「おや……これはありがたい寄付ですが、すべては受け取れません」
意外な言葉にリフィーが目を丸くする中、グリディは優しく少女の手を包んだ。
「どうか日々の祈りを。神は貴女を見守っています」
少女はうっとりと頷き、去っていく。
その背を見送り、リフィーは低く問う。
「……何が目的?」
グリディはくっくっくと笑った。
「あの盗品、ブローチ以外はすべてメッキですよ」
「え?」
「価値はほぼゼロ。ならば——祈りに来てもらい、寄付を現金で頂く方が効率的でしょう?」
リフィーは顔をしかめる。
「……最低」
こうして二人は今日もまた、寄付という名の稼ぎを求めて歩き出すのだった。




