第044話「脱皮」
朝、泥底の主が通過する振動を確認してから、拠点を出た。
鎧鱗毒蛇としての最後の狩りだ。
棚の下層、岩壁の窪みに蛙が潜んでいた。
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種族:ミストトード
レベル:4
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壁面から飛び降りると、ミストトードが喉を膨らませて白い霧を吐いた。
前に狩った個体と同じ反応だ。霧で視界を潰して、その隙に跳ぶ。
俺は振動感知で蛙の位置を掴み、霧の中を突っ切った。蛙が跳ぶ前に頭部へ噛みつき、毒牙を深く押し込む。
外殻粉砕を乗せる必要もなかった。蛙の頭蓋はこの牙には薄い。しばらく毒を流し込むと、ミストトードの脚から力が抜けた。
俺はミストトードを食った。
通知が来た。
『進化条件を満たしました』
進化条件が届いた。
喉の奥から胴体の芯まで、熱が一気に広がる。進化が始まる前の嫌な膨らみ方だ。ここで動けなくなったら、泥底の主が戻ってきた時に終わる。
俺は壁走りで拠点の窪みまで戻った。
もう一つ、通知が来た。
『進化先候補が確認されました』
目を閉じると、3つの名前が浮かんだ。
『毒蝕蛇 / 霧纏蛇 / 沼喰大蛇』
初めてだった。
前の進化では、通知が来て体が勝手に変わるだけだった。今回は進化先が3つ並んでいる。選べるらしい。
毒蝕蛇。毒を軸にして、噛んだ相手を内側から崩す方向。
霧纏蛇。霧と速度で姿を隠し、相手の死角へ回る方向。
沼喰大蛇。体を太くし、分厚い鱗で泥底を進む方向。
どれも使えそうだ。
――いや。
迷うかと思ったが、答えはすぐに出た。
俺は壁走りで棚に登り、鱗硬化で攻撃を弾き、外殻粉砕で殻を割ってきた。毒も霧も使うが、最後に残っているのは、耐えて、砕いて、食う動きだ。
速さだけで消える蛇でも、毒だけで溶かす蛇でもない。
沼喰大蛇。
そう決めた瞬間、体の奥の熱が弾けた。
◇ ◇ ◇
脱皮だった。
痛みはない。
ただ、体が動かない。古い鱗が背中の中央から裂けて、中から新しい表皮が押し出されていく。
体が長くなっている。元の2倍近い。尾の先端まで新しい鱗が伸び、頭の形も変わった。顎が横に広がり、牙の根元が太くなる。
鱗の質も別物だ。1枚1枚が厚く、表面に細かい凹凸がある。泥を弾きながら掴むための形に見える。
最初に顎を動かした。大きく開く。鎧鱗毒蛇の時より口が横に広がっていて、噛める相手の幅が変わっている。
次に体を持ち上げた。胴体は明らかに太くなった。前より動き出しは遅いが、腹が泥に沈まない。広くなった腹と鱗の凹凸が、体重を泥の上へ散らしている。
大蛇。
ついに名前に大蛇がついた。
……名前の通りだな。沼を喰う蛇。
ステータスを確認した。
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【ステータス】
種族:沼喰大蛇
レベル:1
HP:80 / MP:28
攻撃力:36 / 防御力:55
素早さ:20 / 知力:21
魔力適性:なし
【スキル】
捕食継承 Lv1 / 毒牙 Lv3 / 締め付け Lv3
鱗硬化 Lv2 / 壁走り Lv3 / 振動感知 Lv3
熱感知 Lv2 / 外殻粉砕 Lv1 / 毒液圧縮 Lv1
酸耐性 Lv1 / 粘着無効 Lv1 / 毒霧 Lv1
鱗弾き Lv1 / 急旋回 Lv1 / 嗅覚強化 Lv1
反響定位 Lv1 / 掘削 Lv2 / 前脚打撃 Lv1
鎌刃見切り Lv1 / 吸着抵抗 Lv1 / 鑑定 Lv1
次の進化まで:0%
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HP80。防御55。
レベル1の初期値で、もう前の最終値を超えている。
……おいおい。
硬い。これはちゃんと硬い蛇だ。
攻撃力36は、鎧鱗毒蛇レベル10の42より下がった。素早さ20も、前の32からかなり落ちている。この体で棚を全力で駆け回るのは厳しい。
その代わり、HPと防御力は最初から高い。レベル1でこの数字なら、ここから積み直す意味がある。攻撃力も素早さも、餌を食って戻せばいい。
脱ぎ捨てた古い殻が拠点の床に散らばっていた。鎧鱗毒蛇だった頃の鱗だ。今の鱗と並べると薄い。昨日までこれでよく泥底をうろついていたな、という気分になる。
壁走りも試した。拠点の壁面を3メートルほど登る。登れるが、速度は前より落ちている。壁面を縦横に走り回る戦い方は、今の体には合わない。
次に泥底を這った。
沈まない。
鎧鱗毒蛇の時に避けていた泥濘が、そのまま道になる。速さは落ちたが、通れる場所は増えた。棚の上だけが戦場ではなくなる。
今日はもう遠くへ行かない。新しい体の感覚を掴むのが先だ。
拠点の岩壁に体を預けた。鎧鱗毒蛇の時と同じ窪みなのに、太くなった胴体が岩に当たる。寝床までサイズ変更を要求してくるのは聞いていない。
沼喰大蛇。
明日から、またレベル1から積み直す。
沼の泥底を進めるなら、狩り場は一気に広がる。




