第044話「脱皮」
朝、主の通過を確認し、拠点を出た。最後の狩りだ。
岩棚の下層、岩壁の窪みに蛙が潜んでいた。
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種族:ミストトード
Lv:4
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壁面から飛び降りた。ミストトードが喉を膨らませ、白い霧を吐いた。四十日目の個体と同じ反応だ。
振動感知で位置を掴み、霧の中を突っ切った。蛙の頭部に噛みつき、毒牙を押し込む。外殻粉砕を乗せる必要もなかった。蛙の頭蓋はこの牙には薄すぎる。五秒で止まった。
食った。
通知が来た。
『進化条件を満たしました』
体の奥が熱い。膨張感が胴体の芯を這い上がってくる。ここで動けなくなるわけにはいかない。壁走りで拠点の窪みまで戻った。
もう一つ、通知が来た。
『進化先候補が確認されました』
目を閉じると、三つの名前が浮かんだ。
『毒蝕蛇 / 霧纏蛇 / 沼喰大蛇』
初めてだった。前の二回の進化では、通知が来て体が変わるだけだった。今回は道が三つ見える。体の内側で、三つの方向が分かれている。
毒蝕蛇。毒を軸に全身を染める方向。体が薄く、長くなる感覚がある。
霧纏蛇。霧と速度で姿を消す方向。鱗が軽くなり、輪郭がぼやける感覚がある。
沼喰大蛇。重さと硬さで沈まない方向。体が太く、鱗が分厚くなる感覚がある。
選んだつもりはない。だが体はもう決まっていた。
壁走りで岩棚に登り、鱗硬化で攻撃を弾き、外殻粉砕で殻を割る。四十四日間、俺が積み重ねてきたのは「耐えて、砕いて、食う」だ。速さで消える蛇でも、毒で溶かす蛇でもない。
沼喰大蛇。
熱が弾けた。
◇ ◇ ◇
脱皮だった。
痛みはない。体が動かない。古い鱗が背中の中央から裂けて、中から新しい表皮が押し出されていく。
長い。元の二倍近い体長になっている。尾の先端まで新しい鱗が這い、頭部の形が変わった。顎が横に広がり、牙の根元が太い。鱗の質感が別物だ。一枚一枚が厚く、泥を弾く凹凸がある。
最初に動かしたのは顎だった。開閉する。重い。だが鎧鱗毒蛇の時より開口角が広い。噛める対象の幅が変わっている。
体を持ち上げた。重い。ただ、泥底に沈まない。接地面が広がった分、体重が分散している。
……名前の通りだな。沼を喰う蛇。
ステータスを確認した。
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種族:沼喰大蛇
Lv:1
HP:80 / MP:28
攻撃力:36 / 防御力:55
素早さ:20 / 知力:21
【スキル】
捕食継承 Lv1 / 毒牙 Lv3 / 締め付け Lv2
鱗硬化 Lv2 / 壁走り Lv3 / 振動感知 Lv3
熱感知 Lv2 / 外殻粉砕 Lv1 / 毒液圧縮 Lv1
酸耐性 Lv1 / 粘着無効 Lv1 / 毒霧 Lv1
鱗弾き Lv1 / 急旋回 Lv1 / 嗅覚強化 Lv1
反響定位 Lv1 / 鑑定 Lv1
次の進化まで:0%
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HP80。防御55。
鎧鱗毒蛇Lv10はHP78の防御53だった。Lv1の初期値で、仕上がり切った前の体を超えている。
攻撃36。Lv10の42から下がった。素早さ20。32から大きく落ちた。この体重で岩棚を全力で駆け回るのは厳しい。
ただ、主役はHPと防御だ。Lv1で前の最終値を超えたなら、ここからレベルを積み直す意味がある。攻撃も素早さも、レベルで取り戻せる。
脱ぎ捨てた古い殻が足元に散らばっている。鎧鱗毒蛇だった頃の鱗。薄い。今の鱗と並べると、別の生き物のものだ。
壁走りを試した。拠点の壁面を三メートル登る。遅い。前の七割くらいの速度。使えるが、壁面を縦横に走り回る戦い方は封じた方がいい。
次に泥底を這った。沈まない。鎧鱗毒蛇の時に避けていた泥濘が、そのまま通路になる。
速さを失って、通れる場所が増えた。岩棚の上だけが戦場じゃなくなる。
今日はもう動かない。新しい体の感覚を掴むのが先だ。
拠点の岩壁に体を預けた。鎧鱗毒蛇の時と同じ窪みだが、体が太くなった分、収まりが違う。
沼喰大蛇。五つ目の器。
明日から、またLv1の狩りが始まる。




