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ヘビに転生した俺は、最弱ステータスからスキル補食と進化しながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん
鑑定

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第041話「鑑定」


 朝、ステータスを確認した。


――――――――――――――――――――

種族:鎧鱗毒蛇

Lv:9

HP:74 / MP:31

攻撃力:40 / 防御力:50

素早さ:31 / 知力:26

【スキル】

 捕食継承 Lv1 / 毒牙 Lv3 / 締め付け Lv2

 鱗硬化 Lv2 / 壁走り Lv3 / 振動感知 Lv3

 熱感知 Lv2 / 外殻粉砕 Lv1 / 毒液圧縮 Lv1

 酸耐性 Lv1 / 粘着無効 Lv1 / 毒霧 Lv1

 鱗弾き Lv1 / 急旋回 Lv1 / 嗅覚強化 Lv1

 反響定位 Lv1

次の進化まで:85%

――――――――――――――――――――


 防御50。鎧鱗毒蛇の名前通りの数字になってきた。沼底百足の鉤爪は鱗硬化ごと止まる。鉄噛み蟻の顎も通さなかった。受けて反撃する戦い方が、鎧として機能し始めている。


 素早さ31。速度で勝てない相手は多いが、毒液圧縮と急旋回で補えることは沼底百足戦で証明済みだ。攻撃40も、毒牙Lv3と外殻粉砕の乗算で額面以上に効く。


 進化85%。あと一割半。


 今日の目的は一つ。昨日見つけた餌場の奥の通路を探る。


   ◇ ◇ ◇


 主の一回目の通過を待ち、振動が遠ざかってから出発した。


 回廊を壁走りで駆け抜ける。キャンプ跡、溝の区間、餌場。安全時間の配分通り、四割で餌場まで着いた。残骸の山は昨日のまま。鉄噛み蟻の死体が追加されている程度だ。


 残骸の山を横切り、奥の穴に入った。


 通路は回廊より狭い。蛇一匹が余裕を持って通れる幅。泥底がない。乾いた岩の床だ。空気が変わった。泥と腐敗の匂いが薄れ、乾いた石と錆びた金属と焦げた匂いが強くなる。


 通路が短い下り坂になった。その先に小さな空間が開けている。


 天井は低い。壁面に道具で削った痕がある。自然の浸食ではない。この空間を掘り広げたのは蟲ではない。


 空間の奥に、かたまりがあった。


 嗅覚強化が拾った匂いで分かった。金属と腐敗と、もう一つ。蟲の体液とは違う有機物の分解臭。


 ……人間だったものだ。


 蟲に食われ、腐敗が進み、原形は崩れている。だが骨格の構造が残っていた。二本の腕。二本の脚。直立する体幹。あの三体と同じ形だ。


 周囲に散らばっているもの。錆びた鎧の断片。折れた刃物の柄。壁際に革製の袋が転がり、口が開いて中身が半分零れていた。小さな金属片と、乾いた植物の束。


 この空間は主の体が入れるサイズではない。この人間は自分でここまで来て、ここで死んだ。死因は分からない。怪我か、毒霧か、蟲か。


 前世の記憶が、腹の底を掴んで引っ張った。


 人間だ。これは人間だ。俺と同じように二本の足で歩き、言葉を話し、道具を作り、仲間と火を囲んだ誰かだ。蛇の体になっても、その認識だけは消えなかった。


 食えるのか。こいつを。


 蟲は食えた。蛙も食えた。百足も食えた。全部、前世の感覚からすれば気持ちの悪いものだったが、この体が受け付けたから食えた。だが人間は違う。前世の俺と同じ形をしている。同じ骨の構造をしている。


 蛇の体が答えを出していた。匂いを嗅いだ瞬間から、体は食料として認識している。蛇にとっては肉だ。蟲より消化しやすい、ただの肉だ。拒否しているのは蛇の本能ではない。前世の倫理だ。


 前世の倫理で、この世界を生きられるのか。


 答えは、もう出ている。


 食った。


 腐敗が進んだ部分を避け、骨と筋と残った組織を食った。手が震えるはずの行為だが、蛇に手はない。吐き気がするはずだが、蛇の消化器官は淡々と受け入れた。頭の中だけが騒いでいて、体は何事もなく処理を進めていく。その乖離が、一番堪えた。


 通知が来た。


『鑑定 Lv1 を習得しました』


   ◇ ◇ ◇


 頭の中に、今までなかった情報が流れ込んできた。


 目で見ているわけではない。蛇の視覚はほとんど使い物にならない。だが振動感知や熱感知で何かを知覚した瞬間に、そのものの名前と属性が頭に浮かぶ。知覚に名前が上乗せされる感覚だ。


 散らばった鎧の断片を知覚した。『鉄製胸甲(破損)』。折れた刃物の柄。『短剣(柄のみ)』。革の袋。『携行嚢』。


 ——名前が付いている。


 今まで「鎧片」「刃物の柄」「革の袋」と匂いや形で判別していたものに、正式な名称が表示されている。


 通路を戻った。餌場に出た。残骸の山に知覚を向ける。


 蟲の殻の一つに名前が浮かんだ。『ソードビートル』。


 俺が「晶角鹿虫」と呼んでいたやつだ。英語っぽい横文字。前世でやったゲームのモンスター図鑑と同じ空気がする。隣の殻。『マッドニッパー』。俺は「泥沈み蟹」と呼んでいた。灰色の殻の破片には『アッシュペデス』。俺の「沼底百足」。


 ……全部違っていたのか。


 俺がこの層で付けてきた名前は、全部即席のあだ名だった。正式な名称が別にあった。知らなかっただけだ。蛇の体になってから四十日、自分で付けた名前で世界を把握してきたつもりだったが、世界の側にはちゃんと名前があった。


 過去の呼び方は直さない。今さら変えても混乱するだけだ。ただ、これからは正しい名前が分かる。


   ◇ ◇ ◇


 壁走りで帰路を取った。安全時間の残りは四割。余裕がある。


 回廊の棚を通過している時、棚の端に蛙がいた。


 知覚した瞬間に、情報が流れ込んだ。


 『ミストトード Lv4』


 名前とレベルが同時に見える。俺が「霧沼蛙」と呼んでいたやつ。ミストトード。Lv4。俺はLv9。五つの差がある。


 今まで格上か格下かは体で確かめるしかなかった。殻の硬さを牙で測り、動きの速さを体で受けて判断していた。この蛙にも初見では慎重に仕掛けた。だがLv4と分かっていれば、最初から全力で噛みに行ける。


 上から飛び降りて一噛み。十秒で終わった。食った。


 拠点に滑り込み、主の二回目の通過を確認した。間に合った。


 体を丸めて、鑑定の情報を整理した。


 名前が見える。レベルが見える。この二つだけで、狩りの効率が根本から変わる。格上には近づかず、格下は確実に仕留める。試し噛みも偵察戦も要らない。見た瞬間に判断が終わる。


 鑑定Lv1。あの人間が持っていた技を、捕食継承で引き継いだ。Lv1だから見える情報はまだ限られているだろう。レベルが上がれば、もっと詳しい属性やスキルまで見えるようになるかもしれない。


 あの空間のことを、もう一度だけ考えた。前世の俺なら、あそこで立ち尽くしていただろう。今の俺は食って、技を奪って、帰ってきた。


 それが正しいかどうかは分からない。ただ、生きている。


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