第027話「巣荒らし」
主に噛みつく前に、巣の中身を減らす。
卵塊がある。護衛もいる。正面通路から入れば、それをまとめて相手にした上で主まで出てくる。
さすがに嫌だった。
昨日開けた横穴があれば、護衛と卵塊を横から削れる。噛む角度も増えるし、毒を入れた後に引く向きも作れる。危ないのは変わらないが、正面から入るよりはかなりましだった。
◇ ◇ ◇
昨日こじ開けた横穴へ頭から入る。
正面通路より狭い。だが、反響定位がある分、昨日よりはずっとやりやすい。壁の向こうの広がり方が少し分かるだけで、体の入れ方まで変わった。
穴の先は、思った通り乾いていた。
熱が溜まり、殻の擦れる音が細かく反響している。匂いは百足だけではない。乾いた卵の殻と、古い体液と、甲殻系の粉っぽさが混ざっていた。
壁際には卵塊がいくつも積まれ、その周りを黒い影が二つ巡回していた。殻護蟻兵だ。晶甲蟻より一回り大きく、頭と胸の前面が重なった板みたいな殻で覆われている。正面から噛めば滑る形だった。
卵塊は反撃しない。護衛は正面が硬い。なら先に削る順番は簡単だった。
◇ ◇ ◇
一匹目は、横穴に気づいた時点でもうこちらへ向きを変えていた。
速くはない。だが前面の殻が厚い。雑な角度で噛みに行けば牙が滑る。だから最初から正面は捨てた。
半身だけを穴の外へ出し、相手の顎を誘う。殻護蟻兵が前へ出た瞬間、こちらは一度だけ後ろへ引いた。空振った頭が横穴の縁へぶつかる。その一拍で体を返し、胸板の下の柔らかい継ぎ目へ噛みつく。
最初の噛み込みは浅かった。だが位置は読めた。殻護蟻兵はそのまま押してきた。重い。けれど、押してくるなら横へ逃がせる。
掘削で緩めておいた壁際へ体をねじ込み、進路を半歩だけずらす。前面の殻が石へ噛んだところで頭がわずかに浮く。その隙にもう一度同じ継ぎ目へ牙を入れた。
今度は深く入った。毒が通ると押し込む力が鈍る。そのまま巻きつきを足して横倒しにし、脚のばたつきが止まるまで絞る。
食ったが、通知は出なかった。
継ぎ目の位置は分かった。この穴の幅なら押し込みも横へ流せる。欲しいスキルが出なくても、これだけ分かれば次はかなり早い。
◇ ◇ ◇
次は卵塊を割る。全部を食うつもりはない。今ほしいのは経験値より、主が出てきた時に横から増える数を減らすことだった。
外殻粉砕を乗せると、卵塊の殻はまとめて割れた。中からまだ孵り切っていない細い影が跳ねる。動きは遅い。踏み潰すように押し切って数を減らす。
腹は食えと言っていたが、ここは先に潰す方がいい。巣の中で判断を間違えると、そのまま主戦まで響く。
卵塊を二つ割ったところで、もう一匹の殻護蟻兵が奥から突っ込んできた。さっきの個体より乱暴だった。卵を守るというより、壊された場所へ一直線に殺到してくる。
直線なら読みやすい。
俺は卵塊の残骸を踏み越え、あえて半歩だけ遅れて横へ回った。殻護蟻兵は曲がり切れず、そのまま割れた殻の山へ突っ込む。前脚がわずかに浮いた瞬間、前面の殻と胸板の継ぎ目へ噛みついた。
牙は一度滑った。だが角度を少し変えると、固い表面の下で力が横へ逃げる感触があった。正面の衝撃をまともに受けず、表面を滑らせられる。
『鱗弾き Lv1 を習得しました』
——これだ。
鱗の奥に力が入った。
硬い縁を押さえながら噛み込む形———大型百足にそのまま持ち込める。
次に来た顎を、意識して鱗で滑らせた。真正面で止めるのではなく、角度をずらして横へ逃がす。さっきまで重かった衝撃が、一段軽く流れる。
その一拍で頭をずらし、空いた継ぎ目へもう一度牙を入れる。殻護蟻兵の体が跳ねた。そこから先は速かった。巻きつき、押し込み、動きが止まるまで待つ。
そのまま食ったが、今度も捕食継承は出なかった。だが問題はない。護衛は消えた。卵塊もかなり減った。主を呼び出す準備としては、もう十分だ。
『Lv6になりました』
体の奥が軽くなり、削れていた分が一気に戻る。主が出てくる直前で全快できたのはかなりいい。Lv6、進化93%。数字の上でも、もう行ける。
◇ ◇ ◇
残った卵塊も壊しかけたところで、奥の振動が変わった。
最初に細かい揺れが消えた。次に、部屋の奥でずっと沈んでいた重い芯が一つだけ持ち上がる。
——来る。
反響定位で確かめるまでもない。護衛が消え、卵塊が壊れた分だけ、巣の奥に沈んでいた主がこちらへ向きを変えた。
やることはやった。横穴はある。護衛も削った。卵塊も減らした。ここから先は、主そのものを相手にする。
その直後、巣の奥から太い振動が一段ずつ近づいてきた。
大百足が、浮上する。




