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ヘビに転生した俺は、最弱ステータスからスキル補食と進化しながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん
捕食継承

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第026話「穴明け」


 主に正面から噛みに行く気は、まだない。


 昨日、巣の前まで行って分かった。正面通路をそのまま進むと、主の前にいる何かまでまとめて相手をすることになる。あれは嫌だ。かなり嫌だ。


 だから先に欲しいのは、正面以外の入口だった。


 横穴が一本あるだけで、噛む角度も増える。毒を入れた後に退く向きも作れる。危ないのは変わらないが、選べないまま巣の前に立つよりはずっといい。


   ◇ ◇ ◇


 巣の手前は、昨日より熱が濃かった。


 割れ目の奥に空洞があるのは、振動感知Lv3でもう分かる。問題は、その空洞へいちばん薄く通る場所がどこかだった。


 壁際を這いながら、熱の薄い箇所を探す。途中で、天井の近くに小さな熱が一つ引っかかった。


 次の瞬間、耳の奥で乾いた反響が弾ける。反響蝙蝠だった。


 灰色の小さな体が天井を蹴り、折れた音みたいな鳴き声を短く飛ばす。熱は一つしかないのに、壁で跳ねた音が進路を濁してくる。巣の前でこれを残すのはまずい。方向感覚を狂わされるだけで、そのまま死角が増える。


 真正面で迎えるのはやめた。天井の真下にいる限り、あっちの方が速い。壁際へ寄って、飛び込みの角度を狭める。


 音が二度鳴る。三度目の反射で来る位置が読めた瞬間、壁走りで半身だけ持ち上げ、落ちる勢いごと翼の付け根へ牙を入れた。軽い骨が口の中でずれ、そのまま石壁へ叩きつける。蝙蝠は一度だけ痙攣して止まった。


 その場で食う。量は少ない。だが、今は味よりこっちだ。


 巣の前で迷わないための感覚が欲しい。


 通知は少し遅れて来た。


『反響定位 Lv1 を習得しました』


 今欲しかったのはこういう場所で向きを失わないための感覚だ。巣の前で一拍迷うだけで、そのまま噛まれる。そう考えると、こういう当たりはかなり大きい。


 毎回こんなふうに出るわけじゃない。それでも、欲しいスキルを引けた時は、そのぶん周回回数を減らせる。そう思えば十分だった。


   ◇ ◇ ◇


 反響定位を試すように、割れ目の横の壁へ頭を寄せる。


 振動感知だけでは曖昧だった空洞の輪郭が、少し分かりやすくなった。壁の向こうは広い。しかも、右下の一箇所だけ薄い。


 ——薄い。


 掘る場所はそこに決めた。


 掘削Lv1で岩を削るのは、正直かなりきつい。土ならまだ進むが、石が混じると露骨に遅くなる。だが、薄い場所が分かるだけで話は違う。押す位置がずれるだけで、岩の割れ方まで変わった。


 何度か押し崩したところで、向こう側から強い震えが返ってきた。岩穿ちモグラだった。


 鼠より一回り大きい。鼻先は平たく潰れ、前歯だけが白く長い。前脚の爪は短いが太く、石ごと抉る形をしていた。あれに正面から来られると、穴明けどころかこっちが壁ごと押し戻される。


 モグラは、こちらが崩しかけた薄い場所へ真っ直ぐ体を押しつけてきた。


 ちょうどよかった。


 自分で穴を広げてくれるなら、利用しない理由はない。


 わざと半歩だけ下がって突進を誘う。白い前歯が岩を砕き、ひびの入っていた壁が大きく崩れた。砕けた石と一緒に頭が出たところへ横から噛みつき、毒を入れたまま割れ目の外へ引く。


 モグラは暴れた。だが、半身が外へ出た時点で押し込みは弱くなる。鼻先が床を削るたびに体勢が流れる。その隙に巻きつきを深くし、喉元へもう一度牙を入れた。


 動きが鈍ってからは早かった。外へ引きずり出しきれば、細い通路での押し合いはこっちの形だ。抵抗が切れたのを確かめてから食う。


 待ってみたが、捕食継承の通知は来なかった。


 今回は空振りだ。だが、位置は分かったし、モグラがここを通ることも覚えた。欲しいスキルが出るまで回すなら、この穴はそのまま狩り場になる。そう考えられるだけでも前進だった。


 そして、無駄では終わらない。モグラがこじ開けた穴へ体を差し込み、崩れた縁を押し広げていくと、さっきまでより石の割れ方が手に取るように分かる。力をかける場所が少し変わった。


『掘削 Lv2 になりました』


 これなら掘る作業そのものが現実的になる。正面以外の道を作る話が、ちゃんとできる。


 さらに一押ししたところで、壁が肩幅ぶんだけ抜けた。向こうは乾いていて、熱が溜まっている。床は少し低い。正面通路より、こっちの方が巣の内側へ近い。


『Lv5になりました』


 体の奥が軽くなり、削れていた分がまとめて戻る。全快だ。そのうえLv5まで乗った。


 進化は82%。横穴も開いた。必要だった感覚も手に入った。主に触る前の準備としては、かなりいい。


   ◇ ◇ ◇


 新しく開いた穴の縁に顎を乗せ、反響定位と振動感知を重ねる。


 奥は静かだった。———いや、正確には、重い揺れだけが奥に沈んでいる。


 卵の殻みたいに乾いた匂いが濃い。床のあちこちに小さな空洞がある。


 その中で、細かい揺れがいくつも重なっていた。


 卵だけなら動かない。ということは、番がいる。


 ……番がいる。


 主の前に、まだ一段あるらしい。


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