第021話「捕食継承」
今日の議題は一つでいい。
強くなる。
二つに増やすと死ぬ。
池で一晩休んで傷は動けるところまで戻した。だが昨日の大蛇を思い出すだけで腹の奥が冷える。あれにもう一度見つかった時、逃げる以外の手がないままでは終わる。
大蛇に食われかけた翌日に、どこで何を食えば一番早く強くなれるかを考えている。だいぶ洞窟側の発想だが、今はそれでいい。
行く先は決まっていた。昨日開いた崩れ道の先だ。
◇ ◇ ◇
池側から崩れ道へ入る。
狭いが昨日より通りやすかった。通った形が残っている。少なくとも俺一匹分の道にはなっている。
斜め上へ抜けた先で、鼻先に刺激臭が触れた。
すぐ止まる。
岩のくぼみに半透明の塊がへばりついていた。体長は四十センチほど。遅い。平たい。頭らしい頭はない。代わりに前側の穴がゆっくり開閉している。その下の石が溶けていた。
新顔だ。
近づいた瞬間、そいつの前側が膨らんだ。
反射で退く。
次の瞬間、透明な液が飛んだ。さっきまで頭を置いていた岩が、じゅっと鳴る。
分かりやすい。触れたくない相手だ。
正面から噛むのは悪手。巻きつくのはもっと悪い。吐かせて空いたところを噛む。液を二度吐かせ、三度目の前に横へ回り、薄い腹側へ牙を入れた。柔らかい。だが同時に熱い。体液が鱗に触れた瞬間、焼けるような痛みが走った。
すぐ離れる。酸液ナメクジは縮み、遅れて体をねじった。毒が回るまで距離を取る。下手に押すと牙が先にやられる。
数十秒で動きが鈍る。止まったのを見てからもう一度だけ噛んだ。終わりだ。
飲み込んだ直後、焼ける感覚が薄れた。
『酸耐性 Lv1 を習得しました』
これ以上焼けることはない。間に合っただけで十分だ。
◇ ◇ ◇
そのまま引き返さなかった。
今欲しいのは安全確認ではない。強さだ。崩れ道の先をさらに進む。
右側の土が不自然に丸く崩れていた。
見た瞬間に身を引く。
土の中から灰色の塊が飛び出した。
盲穴鼠だった。
丸い。太い。目は退化していて見えない。鼻先と前歯だけが妙に立派だ。温かい。熱感知に映る。昨日の相手を思えば、それだけで十分だった。
鼠は俺の胴へ噛みつこうとした。横へずれる。前歯が石を削る。穴へ戻る前に尾を払うが半分しか当たらない。速い。しかもすぐ潜る。
面倒だ。
だが動きは単純だった。飛び出す、噛む、外したら戻る。なら戻る場所で待てばいい。
穴の脇で体を低くする。数秒後、土が鳴る。出た。
今度は噛まれる前にこちらが首元へ噛みついた。温かい。柔らかい。毒を入れたまま体をひねり穴から引きずり出す。鼠が暴れる。前歯が鱗を擦る。だが半分外へ出した時点で勝ちだった。地面に押しつけ、首へ巻きを足す。
しばらくして動きが止まった。
直後、体の内側を抜ける回復感が来た。
『Lv11になりました』
そのまま食う。
温かい肉が腹に落ちていく感覚と一緒に、昨日の記憶が浮いた。逃げるしかなかった。あれが嫌だった。レベルでも進化でも足りないなら、もっと直接ほしい。食った分だけ増える力がほしい。奪えるなら奪いたかった。
その考えが形になったみたいに、頭の奥で通知が鳴った。
『捕食継承 Lv1 を習得しました』
続けて、もう一つ。
『掘削 Lv1 を習得しました』
―――――――来た!これだ!
倒して、食って、吸収する。そういう種類の強さだ。
◇ ◇ ◇
すぐ試した。
鼠が出てきた穴へ頭を押し込む。土を掻く。押す。少し崩れる。進んだが、胸を張れるほどではない。
掘削 Lv1。前足も爪もない蛇に最初に渡すスキルとしては、だいぶ見切り発車だ。それでも完全に無駄ではなかった。柔らかい土なら押し広げられる。崩れ道の狭いところにも使えるかもしれない。使えない、ではなく、半端に使える。今はそれで十分だった。
少し先でまた新しい熱が動いた。今日はそこで止めた。焦って踏み込みすぎると昨日と同じことになる。
池へ戻って確認すると、レベルは11、進化は76%まで進んでいた。
酸耐性 Lv1、捕食継承 Lv1、掘削 Lv1。
増えた。まだ足りない。だが昨日の俺よりは明らかに増えている。
次はもっと食う。そう思えた時点で、昨日よりましだった。




