第017話「砂の部屋の跡」
洞窟甲虫の倒し方は分かった。
水辺で転がして、腹へ毒を入れる。
ただし、いつも浅い流れがあるとは限らない。
硬い相手に出会うたびに水場まで引っ張るのは無理だ。乾いた床でも転がせるかどうか、一度は確かめておきたい。
右ルートの奥へ向かい、昨日の浅い流れを越える。
その先の低い通路には、砂が混じり始めていた。
◇ ◇ ◇
乾いた床に、黒い洞窟甲虫がいた。
体長は昨日と同じくらい。
背中の甲殻は丸く、頭の前だけ少し低い。短い脚が6本、砂の混じった床をゆっくりかいている。
……昨日と違って、近くに水はない。
段差も小さい。
この場所で倒せるなら、洞窟甲虫は周回対象にできる。
俺は壁際から近づいた。
背中は噛まない。
脚の付け根も狙わない。
最初から横へ回り、俺の胴を洞窟甲虫の胴へ巻きつける。
洞窟甲虫が俺に気づき、頭をこちらへ向けた。
相手の体が低く沈む。
次に来るのは突進だ。
◇ ◇ ◇
洞窟甲虫が頭から突っ込んできた。
俺は横へ逃げ切れなかった。
硬い頭が俺の胴に当たる。
体が壁へ押しつけられ、背中の鱗が岩にこすれた。
息が詰まる。
昨日なら、このまま体を丸めて逃げたと思う。
だが、今日は逃げるだけでは終われない。
俺は壁に押されたまま、洞窟甲虫の頭へ体を巻きつけた。
洞窟甲虫の脚が床をかく。
洞窟甲虫が押す力は強い。
だが、体の外側がいつもより硬く締まる感覚があった。
『鱗硬化を習得しました』
鱗硬化は、今まさに欲しかったやつだ。
背中の鱗が岩に削られても、痛みの入り方が浅い。甲虫の頭を受けている部分も、さっきより潰れにくい。
鱗が固まるなら、洞窟甲虫の頭をもう一度押せる。
◇ ◇ ◇
俺は鱗硬化の感覚を保ったまま、洞窟甲虫の頭から胴へ体をずらした。
締め付けLv2で止めるのではなく、鱗を固めて洞窟甲虫の頭を押し返す。
洞窟甲虫の体が横へ傾いた。
乾いた床では、昨日ほど滑らない。
短い脚が砂をかき、甲虫の体が戻ろうとする。
俺は壁を背にして、洞窟甲虫の丸い背中へ腹を押しつけた。
逃げる余裕はない。
ここで倒しきらなければ、洞窟甲虫の頭に押され続ける。
俺は体を固め、洞窟甲虫の背中を横へ押した。
甲虫の脚が砂をかき続ける。
砂が散る。
短い脚の1本が空をかいた瞬間、洞窟甲虫の体が横へ倒れた。
洞窟甲虫の腹が見える。
俺はすぐ腹側へ噛みついた。
洞窟甲虫の腹へ牙が入り、毒が奥へ流れた。
洞窟甲虫の脚が暴れたが、鱗硬化のおかげで受ける痛みは昨日より浅い。完全に平気ではないが、牙を離すほどではない。
毒を深く入れてから、俺は相手の脚が届かない位置へ下がった。
洞窟甲虫は起き上がれないまま、脚の動きを少しずつ弱めていく。
数分後、黒い甲殻の下で脚が止まった。
◇ ◇ ◇
洞窟甲虫の腹側を食う。
硬い背中は相変わらず食えない。
ただ、食える場所は分かった。乾いた床でも、壁を使えば転がせる。
『レベルが9に上がりました』
Lv9。
伸びは1つだけだが、鱗硬化が入ったのが大きい。
今までの防御は、鱗が勝手に受けてくれるだけだった。これからは、受ける場所を固めてから押し返せるかもしれない。
硬い相手を狩るなら、攻撃より先にこっちの体が割れないことが大事だ。
俺は洞窟甲虫の死骸の横でステータスを開いた。
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【ステータス】
種族:若蛇
レベル:9
HP:31/31 MP:16/16
攻撃力:17 防御力:17 素早さ:21 知力:15
魔力適性:なし
【スキル】
熱感知 Lv1、毒牙 Lv3、振動感知 Lv2、締め付け Lv2、鱗硬化 Lv1
次の進化まで:36%
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防御力17。
若蛇になった直後より、鱗に力が入りやすい。
鱗硬化もあるなら、正面から受ける場面を少しだけ作れる。
もちろん、ずっと受け続けるのはなしだ。俺は盾じゃない。蛇だ。
鱗硬化は、噛める角度を作るために一瞬だけ耐える時に使う。
◇ ◇ ◇
洞窟甲虫がいた通路の奥へ進む。
砂は少しずつ増えた。
岩の床が消え、腹の下がざらつく。
その先で、通路が急に広がった。
砂の間だ。
天井は低い。
床は浅い砂で覆われ、壁際には小さい穴がいくつも開いている。小虫の穴だろうが、今の熱感知には大きな反応はない。
問題は床だ。
砂の中央に、太い這い跡が残っている。
脚の跡がない。
腹を引きずった線だけが、部屋の奥から入口近くまで続いていた。
幅は、俺の胴よりずっと広い。
熱感知には何もいない。
だが、砂の端はまだ崩れ切っていない。古い跡ではない。
この太い跡を残した相手は、脚を使わずに動く。
しかも、俺より太い。
この部屋は、今日の獲物を探す場所じゃない。
もっと大きい相手が通る場所だ。
俺は砂の間の入口で止まり、来た道へ体を戻した。
次に来るなら、逃げ道を決めてからだ。




