第010話「温かい獲物」
東の裂け目は、2回目でも狭かった。
ただ、昨日ほど時間はかからない。
鱗が引っかかる角度を覚えたので、今日は体を少し斜めにして入る。腹で床を押す力も、昨日より弱くていい。
裂け目を抜けるまで、昨日はかなり手間取った。
今日は半分くらいの時間で通れた。
1回通っただけでも、通り方はちゃんと体に残る。
蛇の体でも、覚えた動きはちゃんと次に使える。
◇ ◇ ◇
二股に着いた。
右の小部屋には、昨日倒した大きい岩トカゲの血の匂いがまだ少し残っている。
今日は左だ。
左の通路は、右より長く、ゆるく下っていた。
進むほど空気が少し温かくなる。
池の周りより体が動かしやすい。
変温動物の体には、温度差がそのまま動きやすさに効くらしい。
蛇に足はないが。
ないものを例えに出すな、俺。
通路の先で、空間が開けた。
壁の苔が青白く光っている。床には浅い水の筋が流れ、ところどころに小さい穴があった。
熱感知に、明るい反応がいくつも浮かぶ。
今までの虫や岩トカゲとは違う。
周りの石や苔より、体温がはっきり高い。
小さい。
四足。
細い尾。
ネズミだ。
◇ ◇ ◇
温かい獲物は、熱感知でかなり見やすい。
虫や岩トカゲは、じっとされると背景に溶ける。
だが、ネズミの熱は暗い部屋の中で小さい灯りみたいに浮いていた。
見つけやすい。
その代わり、逃げるのも速そうだ。
壁際に3匹。
浅い水の近くに1匹。
奥の穴の近くに2匹。
全部で少なくとも6匹いる。
群れでいる相手は、最初の1匹が騒げば一気に逃げる。
群れが逃げる前に、最初の1匹へ確実に牙を入れる必要がある。
俺は壁沿いに低く進んだ。
ネズミは苔をかじっている。
距離は2メートル。
1メートル。
ネズミが鼻を動かした。
気づかれる。
俺は迷わず飛び出し、首の横へ噛みついた。
牙が入る。
毒を流す。
ネズミが甲高い声を上げた。
部屋の熱源が一斉に動く。壁際のネズミは穴へ飛び込み、浅い水の近くにいたネズミは奥へ走った。
逃げ足が速い。
首へ噛みついた1匹目だけは逃がさない。
ネズミの後脚が顔を蹴る。体は小さいが、動きは激しい。
ネズミの体が小さいため、毒の回りは速かった。
体が小さいぶん、数秒で脚の力が抜ける。
俺はネズミを飲み込んだ。
温かい。
虫や岩トカゲとは腹に入る感触が違う。
肉の量は大きくないのに、体の中からじわっと熱が広がる。
うまい。
普通にうまい。
転生して10日目で、食事の温度に感動するとは思わなかった。前世の俺に話したら、かなり嫌な顔をされると思う。
◇ ◇ ◇
群れは逃げた。
だが、ネズミの穴は同じ部屋の壁にある。
外へ逃げたわけじゃない。
しばらく待てば、また出てくるはずだ。
俺は部屋の反対側へ移動し、体を丸めて待った。
動かない。
匂いを広げすぎない。
熱感知だけで穴を見る。
しばらくすると、壁の穴から小さい熱源が顔を出した。
1匹。
安全確認をするみたいに、鼻を動かしている。
俺はまだ動かない。
ネズミが穴から完全に出た。
地面へ下りる。
ネズミの体が地面へ下りた瞬間、俺は壁沿いに一気に距離を詰めた。
ネズミは走ったが、部屋の中央まで出ていたせいで穴まで遠い。
俺の牙が背中側から首へ入った。
2匹目。
さっきより楽に取れた。
群れの相手でも、戻ってくる場所が分かれば狩れる。
◇ ◇ ◇
同じやり方で、さらに2匹狩った。
3匹目は浅い水のそばで足を滑らせたところへ噛みついた。
4匹目は穴へ逃げる直前、尾の付け根に牙が入った。
浅かったが、毒はちゃんと回った。
ネズミは小さい。
それでも、温かい肉を続けて食えるのは相当ありがたい。
虫を何匹も探すより、ここで待つ方が効率がいいかもしれない。
4匹目を飲み込んだところで、通知が来た。
『レベルが14に上がりました』
『次の進化まで:80%』
進化まで80%。
数字が一気に近づいた。
温かい獲物がまとまっている部屋を見つけたのは大きい。
小さい相手でも、数を取れるなら進化率が進む。
ネズミは熱感知と相性がいい。
穴から顔を出した瞬間に見える。
暗い部屋でも追える。
かなり狩りやすい。
◇ ◇ ◇
食後、部屋の奥を調べた。
ネズミの穴とは別に、奥へ続く低い通路がある。
低い通路の奥から、湿った臭いが流れてきた。
池の水気とは違う。
少し酸っぱい。
舌に残る感じもある。
生き物の匂いだ。
ただ、ネズミの温かい匂いではない。もっとぬめった、皮膚に水をまとっているような相手の匂いがする。
奥にも、まだ食える相手がいそうだ。
だが、その湿った匂いの相手はネズミとは別物だ。
進化まで80%まで来た。
ここから先は、食えるものを選ぶだけじゃ足りない。
食われる場所も避けないといけない。
俺は温かい部屋の位置を覚え、池へ戻った。
明日は、奥の湿った通路を見る。




