表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘビに転生した俺は、最弱ステータスからスキル補食と進化しながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん
目覚め

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/28

第010話「温かい獲物」


 10日目、東の隙間を再び通り抜けた。


 昨日は鱗が引っかかって苦労した場所だ。今日は体の角度と進入方向を意識した。鱗の重なりに逆らわないように、やや斜めに入って、腹筋で壁を押す力加減を調整した。2分で通過。


 1回目は3分以上かかったのに、2回目で2分。蛇にも学習曲線がある——いや、中身は人間だから学習するのは当然だ。蛇の体が俺の意図に追いつくまでのラグがあるだけで、基本的にこの体は「覚えた動きは再現できる」仕様らしい。ゲームの操作キャラだと思えば、慣れれば慣れるほどスムーズに動かせる。


 二股の分岐点に着いた。右は昨日の探索済み——大型の岩トカゲがいた空間。死体は残っていないが、血の臭いがかすかに漂っている。


 今日は左だ。


   ◇ ◇ ◇


 左の通路は右よりも長かった。そして下っている。


 傾斜は緩やかだが、確実に深くなっている。10メートル、20メートル。通路の幅は体長の倍くらいで安定している。壁面の苔が変わった——これまでの緑色から、やや青みがかった種類になっている。


 空気が温かい。


 池の周辺より2〜3度は高い体感がある。変温動物の俺にはありがたい環境だ。蛇の体は外気温が高いほど活発に動ける——逆に気温が下がれば動きが鈍る。RPGで言えば「氷属性に弱い」というステータスが常時付いているようなもので、暖かいエリアは常時バフがかかっている状態に等しい。


 30メートルほど進んだところで、通路が開けた。


 空間があった。天井が高い。池のエリアよりは小さいが、三叉路の広間よりは広い。壁一面の苔が他より強く発光していて、空間全体がぼんやり照らされている。床に水が薄く流れていた。


 そして——熱源があった。


 普通じゃない熱源だ。


   ◇ ◇ ◇


 これまでに俺が熱感知で捉えてきた生物は、百足も岩トカゲも蜘蛛も水生甲虫も、全員が「周囲の気温とほぼ同じ体温」だった。変温動物だから当たり前だ。動いていない時は背景との温度差が小さく、輪郭がぼやける。


 目の前の熱源はまるで違う。


 明るい。


 周囲との温度差がはっきりしている。暗い背景の中で、それは——光っていた。小さいが、くっきりと浮かび上がっている。体長10センチ以下。四足。尻尾が長い。


 ネズミだ。


 洞窟ネズミ。暗所に適応した小型の齧歯類。ゲーマー的に言えば、ここまでの敵が全部「蟲系モブ」だったのに、突然「哺乳類系モブ」が出現した格好だ。属性が違う。


 しかも1匹じゃない。


 壁際に3匹、中央付近に1匹、奥の方にさらに2匹以上——少なくとも6匹の熱源。全員がくっきりと「温かい」反応を返している。群れだ。


 ネズミは群れで行動する。1匹が警戒音を上げると全員が逃げる。つまり最初の1匹を仕留めるまでのスピードが全てだ。


 MMOの狩りで言えば「リンク型モブ」——1体に手を出すと周囲の同種が一斉に反応する仕様。対処法は「引き離してからの単体釣り」か「範囲攻撃で一網打尽」だが、俺に範囲攻撃はない。単体釣りも、この空間では相手が一瞬で巣穴に消えるので非現実的だ。


 残るのは速さだけだ。


   ◇ ◇ ◇


 壁に沿って、低い体勢のまま移動した。


 蛇の利点の一つは「体高がゼロに近い」ことだ。地面に完全に張り付いていれば、視覚では発見されにくい。岩と蛇の区別は、動かなければ難しい——はず。


 問題は臭いだ。ネズミは嗅覚が優れている。


 2メートルまで寄った。一番近い個体は壁の苔を齧っていた。雑食系か。


 1メートル。


 ネズミが頭を上げた。鼻が小刻みに動いた。何かの臭いを察知している。


 迷う余裕はない。


 突進。噛みついた。首の横に毒牙が刺さった。小さな体がビクッと跳ねた。


 ネズミが鳴いた。甲高い、耳をつんざく声だった。


 群れが動いた。壁際の2匹が一瞬で壁面下部の穴に飛び込んだ。中央の1匹が奥に走った。奥の熱源も消えた——2秒で空間から全ての「温かい光」が散った。


 想定通りだ。


 噛んでいるネズミは暴れていた。体が小さい分、暴れ方が激しい。後脚で俺の顔面を蹴り続けている。HP-3。大した数字ではない。体が小さいから攻撃力も小さい。


 5秒で止まった。


 毒牙Lv2が10センチのネズミに対して発揮する毒速は、百足や岩トカゲとは比較にならない。体重が軽い分、毒の効きが段違いに速い。


 食べた。


 小さい。が、温かかった。


 変温動物の獲物とは食感が違う。蟲も爬虫類も「冷たい中身」だが、ネズミは体温が残っている。言い方はどうかと思うが——蛇になって初めての「温かいご飯」だった。


 転生10日目にして、食事の温度に感動する日が来るとは思っていなかった。


   ◇ ◇ ◇


 群れは散った。壁の穴に逃げたネズミたちは当面戻ってこない。


 ただし、群生生物は安全を確認すれば巣に帰る。RPGのリスポーンとは違うが——結果は同じだ。時間が経てば戻る。


 その間に空間を一周した。


 壁面の下部にネズミが消えた穴が3箇所ある。直径5〜8センチ——ネズミの体なら通れるが、俺の30センチの胴体では入れない。巣穴だろう。中に追い込む手段はない。


 空間の奥にもう1本通路が伸びている。左の道はここで終わりではなく、さらに先がある。傾斜は相変わらず下り——より深い場所に繋がっている可能性が高い。


 今日はその先には行かない。未知の領域を進むなら万全の状態で臨む。今はネズミ狩りに集中する。


 空間の端に丸まって、じっとした。


 20分後。


 壁の穴からネズミが顔を出した。鼻がひくひく動いている。臭いで安全を確認しようとしている。


 俺は空間の反対側にいる。距離は6メートル以上。ネズミの嗅覚の有効範囲がどこまでかは分からないが——どうやら、この距離では蛇の臭いは薄まるらしい。


 ネズミが穴から半身を出した。もう少し。


 完全に出てきた。地面に降りた。


 丸まっていた体を一気に伸ばして、壁沿いに滑るように距離を詰めた。ネズミが気づいた——しかし遅い。俺の方が速い。


 噛んだ。


 8秒で止まった。2匹目。


 待ち伏せ型の狩りは効率がいい。蛇に向いている戦法だ——というか、蛇はそもそも待ち伏せ型の捕食者だ。RPGのジョブで言えば「アサシン」だ。隠れて、待って、一撃で仕留める。ゲーマーとしてアサシンビルドを好んだことはないが、使う側に回ると合理的だと認めざるを得ない。


 食べた。


   ◇ ◇ ◇


 3匹目は、さらに15分後に空間に戻ってきた個体を壁際で仕留めた。


 ネズミ3匹。1匹あたりの経験値は百足以下だろうが、数が多い。時間効率は悪くない。


 そして今日の狩りで、一つ大きな発見があった。


 恒温動物は熱感知にとって「見やすい」。変温動物は動いていないと背景に溶けるが、ネズミは静止していても体温で位置が分かる。暗い空間で恒温動物を相手にする場合、熱感知の優位性はさらに大きくなる。


 逆に考える。恒温動物の側から俺を見たらどうなるか。


 変温動物の蛇は体温が低い。周囲の岩や地面とほぼ同じ温度だ。仮にネズミが赤外線を感知できたとしても、俺は背景に溶け込んで見えない。変温動物であることが——そのまま天然のステルスになる。


 変温動物のデメリットばかり気にしていた。寒さに弱い、動きが鈍くなる、不利だと。だが捕食者としての蛇は、変温動物であること自体が「気配を消す」能力として機能する。


 キャラメイク画面で「ステルス特化」を選んだ覚えはないが、蛇という種族にはその適性が組み込まれていたらしい。手も足もない代わりに、存在を消すことに特化した体。


 蛇で良かった——とまでは言わないが、蛇も悪くないと、初めて思えた。


 通知が来た。


『Lv14になりました』


 HPとMPが全回復した。


――――――――――――――――――――

【ステータス】

種族:仔蛇

レベル:14

HP:30/30 MP:15/15

攻撃力:15 防御力:13 素早さ:17 知力:13

魔力適性:なし


【スキル】

熱感知 Lv1、毒牙 Lv2、振動感知 Lv2


認識範囲:2m

次の進化まで:80%

――――――――――――――――――――


 素早さが17。他のステータスから突出し始めている。蛇の体が最も得意とする能力が素早さだとすれば、レベルアップで優先的に伸びるのは理にかなっている。RPGで言うところの「種族補正」だ。


 80%。あと2割で進化だ。


 池に戻る道を辿りながら、東エリアの全体像を頭の中のマップに書き込んだ。


 右の道——大型岩トカゲの生息域。奥は未確認。

 左の道——ネズミの群生地。さらに深部へ続く通路あり。


 北西の通路にはボスの大型百足。北東は百足・岩トカゲ・蜘蛛の混在エリア。そして東の隙間を抜ければネズミの狩り場。


 マップが広がっている。池の周りだけだった世界が、日を追うごとに大きくなっている。


 水面に映った俺は相変わらず30センチの蛇だ。でも10日前より、少しだけ胴が太くなった気がする。気のせいかもしれないが——そうであってほしくない。成長は、目に見えてほしい。


 あと2割。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ