第6話 勝てたはずの戦い
討伐対象は、中型魔獣一体。
脅威度は低く、被害報告もない。
英雄団にとっては、任務と呼ぶのも気が引ける程度の案件だった。
「団長、いつも通りでいいですね」
部下の声に、カイ・レオンハルトは短くうなずく。
「ああ。早く終わらせよう」
違和感は、ここ数日ずっと続いている。
だがそれは、戦えないほどのものではない。
――まだ、問題は起きていない。
だからこの討伐も、
当然、勝てるはずだった。
戦闘は順調だった。
陣形も崩れていない。
魔獣の動きも読みやすい。
カイは剣を構え、踏み込む。
その瞬間。
「……っ」
視界が、ほんの一瞬だけ歪んだ。
時間にすれば、瞬きほど。
だが、英雄の戦場では――致命的だ。
剣が、わずかに遅れる。
「団長!」
部下の叫び。
カイが体勢を立て直すより早く、
魔獣の爪が横から振り抜かれた。
直撃ではない。
だが避けきれず、衝撃が一人の兵士を弾き飛ばした。
「くっ……!」
「負傷者一名!」
致命傷ではない。
治癒すれば回復する。
それでも――
今までなら、起きなかった事態だった。
「下がれ! 俺が行く!」
カイは声を張り、前に出る。
次の一撃は、完璧だった。
魔獣は倒れ、討伐は成功する。
結果だけ見れば、
いつも通りの勝利だ。
だが、戦闘後。
カイは剣を収めたまま、しばらく動けなかった。
呼吸が、整わない。
「団長……?」
「大丈夫だ」
そう答えながら、
彼自身がその言葉を疑っていた。
負傷した兵士は、担架で運ばれていく。
命に別状はない。
だがカイの胸に残るのは、
勝利ではなく――違和感の確信だった。
王都に戻った後、
カイは再び医療部門を訪れた。
「異常は見当たりません」
治癒士の答えは、前回と同じ。
「魔力循環、筋肉反応、神経伝達。
すべて正常です」
「……そうか」
数値は嘘をつかない。
だが、数値がすべてでもない。
カイは診療室を出て、廊下で立ち止まった。
壁に掛けられた戦績表。
英雄団の輝かしい記録。
そこに、今日の討伐も加えられるだろう。
勝利として。
「……勝てた、だけか」
誰にも聞こえない声で、そう呟いた。
その夜。
カイは、ついに一つの結論に辿り着く。
これは、衰えではない。
慢心でもない。
戦いのあとが、終わっていない。
倒したはずのものが、
別の形で残っている。
それを――
今までは、誰かが処理していた。
「……アレイン」
初めて、名前を口にした。
だが、遅い。
彼がいなくなった理由を、
自分は会議で否定しなかった。
正論だと思った。
平和な時代に不要だと。
だからこれは、
自分も選んだ結果だ。
翌日。
評価局に提出された報告書には、
こう記されていた。
討伐:成功
被害:軽微
問題:なし
その紙一枚が、
王国の判断を一日、また一日と遅らせる。
誰も知らない。
この小さな遅れが、
もう二度と取り戻せない地点を
越えてしまったことを。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




