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戦後処理官(英雄の後始末をしていただけの男)をリストラした王国、なぜか勝利の代償を払う  作者: 鷹宮ロイド


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第19話 失敗ではなかった失敗

 エルディナの首都は、今日も平穏だった。


 結界は稼働し、

 市場は開き、

 人々は日常を送っている。


 誰一人として、

 昨日との違いを口にしない。


 異変は、記録の中にだけあった。


地脈変動:微小

結界出力:基準内

住民被害:なし


 どの項目にも、問題はない。


 だから、この案件は

 「対応済み」として処理された。


 だが、現場の技師は違和感を覚えていた。


「……戻ってない」


 地面に手を当て、彼は呟く。


 崩れたわけではない。

 壊れたわけでもない。


 ただ、元に戻っていない。


「この程度なら、問題ないだろ」


 上司はそう言って、記録を閉じた。


「次がある。

 判断理由は前例通りでいい」


 正しい運用だった。

 少なくとも、制度上は。


 数日後。


 同じ区画で、

 別の小さな対応が行われた。


 理由も、記録も、前回と同じ。


 処理は問題なく終わる。


 結果も、やはりこう残る。


異常なし


 だが、地脈の歪みは、

 わずかに重なった。


 フォルン辺境領。


 アレインは、エルディナから届いた

 二件目の報告を読み比べていた。


「数値は同じです」


 リシェルが言う。


「はい」


「でも……」


「戻っていません」


 アレインは、静かに答えた。


「これは、失敗ではありません」


 彼は続ける。


「手順も、判断理由も、

 制度としては正しい」


「じゃあ、何が問題なんですか」


「積み上がることです」


 リシェルは、言葉を失う。


 エルディナの現場では、

 誰も責められていない。


 処理は行われた。

 被害もない。


 だから、誰も

 「次はどうするか」を考えない。


 考える必要が、

 制度上、ないからだ。


「これ、止められますか」


 リシェルが聞く。


「止められません」


 アレインは即答する。


「止める理由が、

 どこにも記録されていない」


 失敗がない。

 だから、改善もない。


 数週間後。


 エルディナでは、

 結界の“効き”が悪くなった。


 完全に破綻したわけではない。

 だが、以前より魔力消費が増えている。


「想定誤差の範囲だ」


 役人はそう言って、

 新しい基準値を設定した。


 問題を、基準の方で調整した。


 フォルン辺境領。


 アレインは、地図に

 小さな印を一つ増やした。


「……失敗ではなかった」


 リシェルが呟く。


「ええ」


 アレインはうなずく。


「だからこそ、

 一番厄介な失敗です」


 その夜。


 エルディナの街では、

 いつも通り灯りがともる。


 誰も知らない。


 世界が壊れる前には、

 必ずこういう時期があることを。


 ――失敗が、

 失敗と呼ばれない時期が。

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