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戦後処理官(英雄の後始末をしていただけの男)をリストラした王国、なぜか勝利の代償を払う  作者: 鷹宮ロイド


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18/22

番外編 名も残らなかった判断(王国・元評価局職員視点)

 その報告書を見たとき、正直、拍子抜けした。


異常兆候:なし

被害報告:なし

特記事項:なし


 それが、今日一日のすべてだった。


「……つまらんな」


 思わず、そう呟いてしまう。


 王都評価局。

 かつては、山のような緊急報告と、責任の押し付け合いが日常だった。


 だが最近は違う。


 仕事は減った。

 残業もない。

 混乱もない。


 ――何も起きていない。


「問題なし、か」


 同僚が苦笑する。


「最近そればっかだな」


「平和ってやつじゃないか?」


 誰も否定しない。


 だが、胸の奥に、言葉にしづらい違和感が残る。


 私は思い出す。


 あの会議室。

 戦後調整官廃止の議題。


「成果が数値化できない」

「問題が起きていない以上、不要」


 私も、うなずいた一人だった。


 正しいと思った。

 合理的だと思った。


 だから、彼の名前を――

 資料の片隅に追いやった。


 今、王都では大きな事故は起きていない。


 結界も、ぎりぎり保っている。

 魔獣被害も、増えてはいない。


 だがそれは、

 何もしていないからではない。


 報告書の書き方が、変わったのだ。


判断理由:

観測値は基準内だったが、

人流の集中が見られたため先行対応を選択


 こういう文言が、

 最近は当たり前のように並ぶ。


 名前はない。

 称賛もない。


 だが、以前なら

 「余計な判断」として弾いていた内容だ。


「誰が決めてるんだ、これ」


 私は、思わず口にする。


「さあな」


 同僚は肩をすくめる。


「でも、誰も困ってない」


 それが、すべてだった。


 昼休み。


 私は、古い資料庫に足を運んだ。


 理由は分からない。

 ただ、気になっただけだ。


 埃をかぶった箱の中に、

 一つのファイルがあった。


戦後調整記録

担当:A.C.


 胸が、少しだけ痛んだ。


 ページをめくる。


 数値は少ない。

 結論も曖昧。


 だが、そこには

 判断の理由だけが、丁寧に書かれていた。


今は異常がないが、

兆候は出ている

だから処理する


 今の報告書と、

 驚くほど似ている。


「……続いてる、のか」


 誰が始めたかは分からない。


 だが、確実に、

 考え方だけが残っている。


 それでいいのだと、

 初めて思った。


 午後。


 新しい報告書が届く。


異常兆候:なし


 私は、静かに判を押した。


 胸の中で、

 誰にも聞こえない声が浮かぶ。


「……あなたの仕事は、

 ちゃんと続いています」


 名前を出す必要はない。


 きっと、

 それが一番正しい形だから。


 その日も、王都では何も起きなかった。


 そして私は知っている。


 それが、いちばん難しい成果だということを。

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