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戦後処理官(英雄の後始末をしていただけの男)をリストラした王国、なぜか勝利の代償を払う  作者: 鷹宮ロイド


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第14話 それは非効率だと言われた

 その噂は、ゆっくりと、しかし確実に広がった。


 フォルン辺境領の外れにある、

 名もなき建物。


 戦わず、

 治さず、

 成果も示さず、

 それでも「問題が起きていない場所」。


 理解されないまま、注目だけが集まる。


「ずいぶんと、奇妙な真似をしているそうだな」


 政庁の応接室で、

 鋭い声が空気を切った。


 来訪者は三人。

 いずれも、北方同盟都市国家の使節だ。


 彼らの国は、

 最近まで小競り合いを続けていた。


 ――そして、終戦したばかりだ。


「戦後処理を“教育”で済ませる?」


 使節の一人が鼻で笑う。


「しかも、失敗を記録するだと?」


「はい」


 アレインは、淡々と答えた。


「効率が悪い」


 別の使節が即断する。


「勝てばいい。

 問題が起きたら、その時に対処すればいい」


 聞き覚えのある理屈だった。


「それで、今は安定していますか」


 アレインは、静かに問い返す。


「……一時的にはな」


「では、その“対処”は、

 誰が、どれだけの期間、引き受けていますか」


 使節は言葉に詰まる。


 だが、すぐに立て直した。


「だからこそ、専門家を呼ぶ」


 アレインを見る。


「君のような人間をな」


「お断りします」


 返答は、迷いなく落ちた。


 使節の一人が、苛立ちを隠さない。


「なぜだ。

 金か? 地位か?」


「違います」


 アレインは首を振る。


「あなた方は、

 続けるつもりがない」


 空気が張りつめる。


「非効率だと言いましたね」


 アレインは続ける。


「その通りです。

 これは、非常に非効率です」


 失敗を許し、

 考える時間を取り、

 成果を急がない。


「ですが、

 壊れるよりは安い」


 使節の一人が、低く唸った。


「感情論だ」


「いいえ」


 アレインは静かに返す。


「これは、統計です」


 彼は一枚の記録を差し出した。


 成功例ではない。

 失敗の連なり。


判断が三呼吸遅れた

観測を信じすぎた

数値を優先しすぎた


「同じ失敗を、

 別の国が、別の時代に、

 何度も繰り返しています」


 使節たちは黙り込む。


 だが、納得はしていない。


「我々は、急いでいる」


 代表が言った。


「時間がない」


「だからです」


 アレインは、はっきりと言った。


「急いでいる国ほど、向いていません」


 その言葉は、拒絶だった。


 交渉は決裂した。


 使節たちは立ち上がり、最後に言い残す。


「我々は、我々のやり方で進む」


「はい」


 アレインは、それ以上引き留めなかった。


 その夜。


 リシェルが、珍しく不安げな顔をした。


「敵を作りませんでしたか」


「作りました」


 アレインは否定しない。


「ですが、

 同じやり方をする国同士が集まるだけです」


 それは、争いではない。


 選択だ。


 数日後。


 北方同盟都市国家の一角で、

 結界暴走による大規模避難が発生した。


 死者は出なかった。


 だが、街は半月、機能を失った。


 公式発表は、こうだ。


想定外の魔力変動による一時的混乱。


 誰も責任を取らない。


 フォルン辺境領では、

 今日も記録が一つ増えた。


他国の失敗例

介入せず

観測のみ


 アレインはペンを置き、窓の外を見る。


「……選ばなかった」


 それは、冷酷ではない。


 続けられない選択を、尊重しただけだ。


 世界は、静かに二つに分かれ始めている。


 急ぐ世界と、

 続ける世界。

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