ただ1つの理由
「はーい、今日はご両親、または大切な人へお手紙を書いてみましょう」
手紙を書く授業がその日あった。
レターセットが配られ、両親に何色がいいかなと選んでいると
アルク様が私の所へ来て
「俺はピスに書くぞ!」
と宣言してきた。
「え、あ、ありがとう」
ー僕も書こうかな…
でもアルクは書けるのかな?
文字の読み書きが苦手なはず
ずんずんと宣言して、元の席に戻ったアルク様を見届けながら
ーアルクなら赤かな
白い紙に、文字が書きやすいよう線が引かれている
その線の色が赤い色を私は選んだ。
授業が終わると、アルク様はずんずん私のところへきて
緑の封筒を渡してきた。
「書いたぞ」
「ありがとう、僕もはい」
私から貰えると思っていなかったのか
嬉しそうにアルクは封筒を抱きしめる
「嬉しいぞ!!ありがとう!」
アルク様はいつだって、真っすぐだった。
素直に感情を出す。
そんな彼を小さいながら私は可愛いらしいと思っていた。
ーいつも、えほんをよんでくれて
ありがとう。
ピス、だいすきだ アルクー
大きな文字で書かれた手紙に私は嬉しくて
家に帰って母に自慢した。
「まま!お友達から手紙もらった!!」
「まぁよかったわね」
月日が経ち
6歳になった時、母が懐妊したのだ。
私は、ヴォリーダ学校の寮に入れるか、半年ほど休学するか
決めかねている時期
「ピスは俺ん家に住めばいいじゃないか」
「え?」
ある日
私の現状に、寮生活は寂しいと思っていて
でも迷惑がかかるから何も言えないと、
ぽつり呟いたら
真っすぐなその瞳は、さも当然の選択だと言わんばかりに
大きく頷いて
「よし!ちょっと待っていろ」
そう言って、アルク様は自分の執事に説明し
そこから両親同士の話し合いが行われ
私は母に
「アルク様の、お傍にいるの楽しい?」
その一言だけ聞かれて、大きく頷いた。
そうこれは2つ目の分かれ道だった。
その日から、私はアルク様のお傍に、
そして自然と面倒を見るようになった。
面倒といっても
アルク様は、大雑把なところはあれど
物分かりもよく、私に駄々をこねたり
無理な要求をされることなど、一度だってなかった。
「おい!ピス!今日はこの本を読んでくれ」
いつも前を歩く逞しい背中に、ほっと安心感を得ていたのは私だった。
月日が流れ、
9歳の年、私はソフォス家の当主に呼ばれた。
「失礼いたします」
「おおピス、きたか!」
アルク様は当主似なのか、豪快で大きな声のガウス様
ソファに促され座ると
目の前に座ったガウス様は
「ピス、ここでの生活は慣れたか?」
「はい、大変良くしていただいています」
「そうか、あーなんだ…1つ聞きたいことがあってだな」
「?はい。」
首を傾げながら聞く私に、頭をガシガシ掻きながら
ガウス様は少し言いづらそうに
「アルクから…その正式に我が家の従者にならないかと言われたか?」
「…いえ、1度も…」
「そうか、いや、私はてっきり、もう従者契約を約束しているもんだと思っていたのだが」
確かに、私は従者でもないのにソフォス家にお世話になり続けるのは可笑しい話だ。
そして、弟は来年から他の学校へ入学する。
また、母がこちらに引っ越してくることも可能性としてあるだろう。
「実は…」
言いづらそうに、ガウス様は私に話した。
元々、ソフォス家では9歳の中棟部に上がるタイミングで従者をつけること
その人とゆくゆくは専属執事になっていくことが通例だという。
アルク様にガウス様が話されたときはいつも
「俺にはいりません」
その一言で終わってしまうという。
ガウス様はその言葉で、てっきり僕と従者の約束をしたのかと思っていたらしい
が、月日が流れても一向にアルク様は従者についてガウス様に話してこない
これは何かおかしい…次の春では中棟部だ。
時間がない。
という経緯で私は今日呼ばれたらしい。
その話を聞いて、私は直ぐに声を出したのだ
「僕が成れるのでしたら!僕がアルク様の従者になります!!」
生まれて初めて大きな声を出した。
その日は3つめの大きな分かれ道だったと思う
今思えば、ただ、傍を離れたくなかった。
アルク様の隣にいるのは私でなくては嫌だった。
その、たった1つの理由だけー




