大切な人
「わあ、広いテラス」
今日は星が綺麗に見える。
手持無沙汰で、飲めないのにシャンパンを手に持ち
無駄にくるくる揺らして
上げてシャンパンの中に星を入れて眺めていた。
18歳になった僕はこの世界でもう成人だ。
研究員の中で既婚者は少なく
理由は説明を貰わなくてもいいくらい納得できる。
だから、ほっとしていたし、
きっと、僕も研究員として生涯を終えるのだろう。
ー結婚か
今まで意識していなかった事が
突然目の前に現れた。
「こんばんは」
ゆらゆらシャンパンで遊んでいた僕の後ろから声がした。
恥ずかしくて、慌てて振り返る
「あ、カム様」
先程丁寧にお礼をしてくれた騎士団長のカム・スティルだ。
「こんなところで、いかがされましたか?」
「いえ、少し…人に酔っただけです」
「そうでしたか、お隣宜しいですか?」
「はい」
隣に立つカムは月夜に照らされたグレーの毛並みが綺麗で
赤い鋭い瞳の色をもっている。
「ラズ様は、イエネオス伯爵の一員ですよね?」
「あ、僕に敬称はいりません。僕は平民です。
お世話になっていただけで、養子でも従者でもありませんので」
「そう、ラズ」
突然名前を言われてビクッとした。
「はい」
「本当に今回の鎮痛剤ありがとうございました」
「あ、そんなに喜ばれて、嬉しいです」
「はい、もちろんです。我々は戦場の前線に立つので、
怪我をした際、痛みに集中を削がれたり
痛みが強いせいで、緊急治療ができなかったり
そういった局面もあります。
そんな辛い団員たちを和らげる効果のある薬を
開発していただき、感謝しても、しきれません」
ふっと笑うカムは、大人の余裕を感じる
団員思いの頼もしい団長なのだろう。
「そういえば、研究所の少し歩いた裏手に
訓練場がありますよね?」
研究所は外廊下で全ての機関と繋がっている。
マブロが統制しているアストランティア州は、
陛下のいる中心の州と隣接しており
研究所はちょうど、その境界に建てられている。
顔写真付きの入館証を首から下げていれば
外廊下を通じて、色んな機関に移動が可能だ。
ーまあ、見に行けるほどの余裕はないけどね…
「ああ、大体朝の5時から18時まで訓練している」
「わあ、朝早いですね」
「何を言う…研究所が無人な時間帯などみたことないが?」
「ふ、ふふふ、確かに」
他人には異常な練習時間だと気づくのに
自分達の異常さには気付かない
それこそ異常だった。
可笑しくて笑うと、カムも、ふっと優しい笑みを浮かべた。
「シャンパン…飲めないならいただこうか?」
カムはずっと揺らしている僕の手元を見て言う
「あ、バレましたか。まだお酒飲んだことなくて
お嫌いじゃなければ」
そうシャンパンを渡そうと、
カムも受け取ろうと手が触れた瞬間
「ラズ!こんなところにいた」
テラスの入口にはカタレフが立っていた。
逆光でも室内のシャンデリアに照らされる
純白な毛並みは
きらきら輝いて見える
ー本当に綺麗
惚けいていると、ずんずんカタレフは近づいてきて
「カム、この人は僕達の家族だ
気安く触れないでくれないか」
グイ
僕の手からシャンパンを取り
自分へ引き寄せるカタレフに胸がまた騒ぎ出した
「家族…ですか。失礼いたしました。」
軽く頭を下げるカムに僕は
「カタレフ様!目上の方に伝える言い方じゃないですよ、
それに、善意でカム様は僕のシャンパンを引き取ってくれようとしたんです」
ぴしゃと怒った。
カタレフはバツが悪そうに
じと、とカムを見る。
「いえいえ、私の配慮が足りなかったのです。
私はこれで失礼いたします。」
軽く会釈をして立ち去ろうとするカムに僕は
「あ、ありがとうございました」
声をかけると
「あ、そうでした、もしお時間あれば今度研究所見学させてくださいね」
そう言って僕が頷くと笑顔で立ち去った。
ーさて、この拗ねてる子をどうしたもんか
「ちょっと、離してよ」
カタロスの片腕に納まっている僕は
腕をほどこうとしたけど、
すればするほど、腕の力は強くなる。
「カムと何の話したの?」
「え?大した話してないよ」
「ふーん」
「なんだよ、ていうか戻らなくていいの?」
「いいよ。ある程度の挨拶と相手はしたしね」
「…」
僕が見上げてじっと見つめると
首を傾げるカタレフ
「なに?」
「…いや、その、ティアラ様とはお話した?」
名前を出した瞬間
嫌そうな顔全開のカタレフ
「うーん」
「ー? なに?」
「ティアラもヴォリーダ学校の生徒だよ」
「え?そうなんだ、知らなかった」
「さすがに学年が離れすぎてるからね」
というか呼び捨て…
仲良いのかな
なんか胸が痛い
「ティアラは昔から…いや何でもない」
「何?言いかけたのやめたら気になるよ」
「…む、昔からー」
「あ!ここにおりましたのね!カタレフ様」
カタレフの話している途中にティアラがテラスに出てきた。
ーあれ?さっきの優美な印象とは…
ぎゅ
ーえ?
カタレフのもう片方の腕に自分の両腕を絡めるティアラ
「今日は本当にカッコイイ正装ですのね
もう、相変わらず惚れ惚れしてしまいますわ」
ーえ?え?
「あーうるさい」
迷惑そうなカタレフを気にも留めないティアラ
きっと日常的にやり取りしているんだろう。
「あぁ、すみませんご挨拶が遅れてしまい
私、カリス家の長女ティアラと申します。
ラズさんですよね?」
「え、あ。はい。ご挨拶ありがとうございます。」
この子…僕を見る瞳が笑ってない。
「マブロ様が大きく広い心の持ち主で、
お世話になっていたんですよね。カタレフ様達から聞いております」
「はい」
ー怖いなぁ、そんなに僕に敵意をみせなくても
相変わらずカタレフは腕をほどいてはくれないし
ろくに挨拶もできない
「凄いだろ、ラズはゼテオ研究所の研究員だ
自分で目指していた仕事をしているんだ」
自慢げにカタレフがティアラに言う
「そ、そうですわね、とても凄いですわ
一般的ですと従者になるところを、自らの目指すところへ入職されて
もう、独り立ちされたんですよね、凄いですわ」
ーわぁ1ミリも褒められてる気がしない
イエネオス家と、もう無関係になったんでしょ?と言いたいんだろう
「ありがとうごさいます」
笑顔はうまくできているだろうか。
ぎゅ
カタレフの腕に力が入る
僕が見上げると
呆れた顔して
「独り立ちして家を出ても、ラズはイエネオス家だよ。
それに、
ラズは僕の大切な人だよ」
「「え」」
僕とティアラの声が重なった。
カタレフは僕をみて微笑むと
「前にも伝えたよね?」
ーあぁ、そう言えば青い花を見たときに
「か、家族として大切にするのは、とても素敵なことですわ」
ほほほと笑うティアラに
カタレフは、ふうと小さなため息を吐いて
「そんな大切な人との時間、邪魔しないでくれる?ティアラ
それに、触るなって何度も言っているだろ」
ティアラに絡まれていた腕を払った
「ま、まぁ!!」
一瞬僕に鋭い視線がきたけど
直ぐに笑顔になり
「そうですよね、お久しぶりの家族の時間ですものね
では、カタレフ様学校でお会いしましょう
ラズさん…会えて嬉しかったですわ」
その瞳は笑っていない。
ー僕の胸は今日ずっと騒がしい。




