無知だった僕
12歳の夏
おじいちゃんとおばあちゃんが死んだ。
通夜の日、ぼ~と2人の写真を眺めながら
膝の上にいるジロウをずっと撫でていた。
「こんにちは、虎太郎くん。はじめまして」
父の伯母が声をかけてきた。
「…こんにちは」
僕は力なく挨拶をする。
「これから私達の家族と一緒に過ごしましょう」
そう伯母さんは微笑んで手を差し出してくれた。
ワンッワン!!!
殆ど吠えることがないジロウが、伯母に威嚇した。
一瞬ジロウを睨んだ伯母は、また笑顔に戻り
「ジロウも一緒に連れて行けるのよ」
と僕に微笑みかけた。
ジロウと一緒なら。
僕はその手を取った。
それでも、どこかよそよそしく、冷たい感覚が僕の背中に汗をかかせた。
「ジロウだけが、僕の家族だ」
そう布団の中で、毎日呟いて眠りつく。
伯母さん家に引っ越しをした時から
今までの、温かな世界が、冷たい世界へと変わっていく。
伯母さんの家族にも子供がいて、冬彦さん14歳2つ上だった。
冬彦さんは僕をいつも冷たい眼差しでみていた。
伯母さんは、分からないことは冬彦に聞きなさい。と言ったが
教えてくれたことなんて一度もない。
「ここに勝手について来たのはお前だろ、話しかけるな」
そういつも言われていた。
伯母さん夫婦は冬彦さんを咎めることはなかったが、
僕を助けてくれることもなかった。
衣食住を与えてくれているだけで、ありがたい事だと思おう。
そう家族のジロウがいるのだから。
外の庭が繋がっている1階の部屋を僕の部屋にあてがってくれたが、
主に伯母さん家族は2階で生活していた。
1階にあるお風呂を使うときと、食事を運んでくる時だけ、1階にくる。
早くジロウとだけの家をつくるんだ。
それだけを糧に獣医を目指して勉強した。
17歳の夏。
模試の結果を見せろと伯母に言われてみせると
意外な反応をされた。
「まあ!虎太郎さん!すごいじゃない!あのS大がA判定なんて」
学費を見込めないと考えた僕は国立のS大を目指していた。
成績優秀者には学費免除制度があったからだ。
このままいけば推薦をもらえる。
伯母さん夫婦は、やけに喜んでいた。
それに少し、僕も嬉しかった。
ーグルルルル
ジロウは相変わらず伯母さん達を嫌っていたが。
その夜、冬彦さんが部屋に来た。
「おい。お前、模試の結果を母さん達に自慢したらしいな」
「え、自慢なんて、してなー」
ガタッ
ワンッワン!!!
胸倉をいきなり掴まれて驚いた。
ジロウが興奮して威嚇している。噛みつきそうだ。
「調子に乗るなよ!!ただの金づるのくせに!!!」
「?!?!僕はお金なんて持ってない!」
「はっ!」
ガタッ
乱暴に離され、尻もちをついた。
ワンッワン!!!
ジロウが僕と冬彦さんの間に立ち威嚇している。
見下す冬彦さんはあざ笑うかのように
「お前を引き取ったのは、ジジイ達の遺産目的に決まってんだろうが!!」
?!
「え?!」
「お前、何にも知らないのな!」
そこから得意げに冬彦さんは話していた。
元々、おじいちゃんとおばあちゃんの土地は高く、山も所有しており
その相続は全て僕が引き継ぐ予定だったこと。
僕を引き取ると言った伯母は、それを全て売りお金に換えたこと。
その為に僕を引き取ったこと。
18歳になったら追い出す予定のこと。
「世間体のお陰でお前は生きてこれてるって訳だ!
18歳になって独り立ちする者は多い。
それが、お前の模試結果を見て、このままお前を一流企業に就職させて
今度はお前自身を金づるにしようって魂胆だ」
ーそんな、僕が、僕が望めば、ちゃんと知っていれば、あの家を失わずにすんだの?!
「だが、俺はお前が大嫌いだ!!気持ち悪い!!早く出ていけ!!」
「言われなくても!!!出ていくよ!!!」
一流企業になんて興味ない。
僕は!!獣医になるためにS大に行くんだから!!
「なに大声だしてるの!!!」
伯母さんが部屋に入ってきた。
僕たちの状況を見て
パンッ
冬彦さんが叩かれた。
「役立たずが!!虎太郎さんの勉強の邪魔するんじゃない!!」
啞然とその姿を見ていた。
今でも頭に焼き付く冬彦さんの殺意の目。
ワンッワン!!!
グルルルル
威嚇しつづけるジロウを僕は抱き上げた。
「僕は一流企業になんて入らない」




