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王宮で婚約破棄を望んだ恋人達の末路

掲載日:2026/01/29

「……え?」


一瞬、彼の言葉の意味が理解できなかった。


「婚約を、解消したいんだ」


彼は、隣に立つ令嬢の手を優しく包む。


「真実の愛を見つけたんだ

 ……アリアナ」


「レオン様……」


アリアナは幸せそうに笑みを浮かべた。


「もちろん、急な話で、君には申し訳なく思っている。

でも君なら、

僕の気持ちを理解してくれると思ったんだ」


「そんな……」


足に力が入らない。


周りにいる人々の視線が痛い。

私は耐えきれず背を向け、その場を後にした。





彼――レオン・ハートレー子爵家嫡男は、

いつも社交の輪の中心にいる“完璧な人”だった。


婚約が決まったあの日、彼は微笑みながら言った。

『君なら、僕の隣に立てるようになってくれると信じているよ。

――クラリッサなら、大丈夫だろう?』


そう言われ、礼法も経済も、眠る時間を削って覚えた。

彼の隣に立つために。

けれど結局、彼にとって私は――。


「……つまらない、真面目すぎる女だったのね……」


学園のベンチに座り込み、項垂れていたとき。


「大丈夫?」


軽やかな声が降ってきた。

顔を上げると、光を弾くような薄金の髪。


「る、ルチア王女殿下……!」


慌てて立ち上がる私を、彼女が手を伸ばして制した。


「座って。無理に立たなくていいの」


隣に腰を下ろした王女は、ぷうっと頬をふくらませる。


「酷い彼ね。あんな公衆の前で。どうしてあんな事したのかしら」


「わかりません。彼の考えていること……」


王女が少し身を屈め、私の目を覗き込む。


「彼のことが好きなの?」


私は涙をこぼしながら頷いた。


「でも……もう彼は……そうですよね、私なんかより、彼女の方がお似合いで……」


「そんなことないわ。あなたは魅力的よ。顔を上げて」


彼女は立ち上がり、手を差し出す。


「まだ正式に破棄が決まったわけじゃないわ」


「そうですが……でも」


「王宮で決着をつければいい。彼がどれだけ覚悟しているのか、確かめてみましょう」


私は顔を上げ、王女を見る。


私も……こんなふうに輝けていたら、違っていたのかな。


王女の手を取り、私はゆっくり立ち上がった。





王宮の大広間。

王と重臣、証人の諸侯。そして私たち。


少し離れた場所で、アリアナが緊張した面持ちで立っていた。

落ち着かないように指を絡め、レオンを見ている。


レオンは胸に手を当て、朗々と声を上げた。


「恐れながら陛下、

 私、レオン・ハートレーは――

王宮に届け出た婚約を、破棄したく存じます!」


場が静まり返る。


王は穏やかながら、どこか力の抜けた声で問いかけた。

「……理由は?」


「私は、アリアナを心から愛してしまいました!」


「婚約者がいるのにか?」


「ええ、婚約者殿には感謝こそあれ、情はありません!」


アリアナの頬が赤く染まり、胸に手を当て微笑む。


私の胸がぎゅっと締めつけられた。


「ふむ、そうか……それなら仕方がないな」


王が微妙に困った顔でため息をついた。


レオンの表情がぱっと明るくなる。


……本当に、私のことを何とも思っていないのね。


私は項垂れ、涙目になっていた。


「……で、婚約を破棄したら“何が起こるか”、理解しているかね?」


王の問いに、場の空気がわずかに張りつめた。


レオンは一瞬だけ視線を泳がせたが、すぐ肩をすくめる。


「クラリッサは聡明です。

契約や条件についても……後で、きちんと判断してくれるでしょう」


その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが崩れ落ちた。


――ああ、そうなのね。


責任も、後始末も、痛みも、

彼は私が受け入れる前提で、ここに立っている。


彼にとっての私は――。


王女が、ぱちんと扇を畳く音が響いた。


その音を聞いてはっとする。


「クラリッサ・ロザンジュ伯爵令嬢。

彼は、そう言っているけれど?」


一斉に視線が集まる。


レオンは私を見て、小さく頷いた。

――わかってくれるよな、という顔で。


「わたしは……」


言いかけて、王女と目があった。


彼女は何もいわず、ただ、私を見つめる。


……そっか、この人は。


私はゆっくりと涙を拭い、背筋を伸ばした。

一歩、前に出る。


「陛下。契約条項の確認をしても、よろしいでしょうか」


王は顎髭を撫で、静かに頷いた。


「うむ。ロザンジュ伯爵家の令嬢として、発言を許す」


「ありがとうございます」


一礼して顔を上げる。


「この婚約は、“継続を前提”とした契約です。

破棄された時点で、伯爵家が提供した資金・権利・保証は、すべて失効します」


レオンは軽く頷いている。


「具体的には――港の管理権、荷役徴税権、鉱区の優先権。

それらはすべて、ロザンジュ伯爵家へ返還されます」


その瞬間、レオンの眉がわずかに動いた。


「さらに、保証が外れるため、ハートレー家の借財は――

即時一括返済となります」


空気が凍る。


ルチアが肩をすくめた。


「違約金は持参金の二倍。

加えて、公の場での一方的な破棄による名誉毀損分も発生しますわね」


アリアナが小さく息を呑み、指先を握りしめた。


王は深く頷いた。


「……クラリッサ。そなたは、どうする?」


私は息を吸い、答えた。


「――いたしましょう、陛下。

婚約は、本日をもって解消いたします」


視線の端に、ルチア王女がやさしく微笑んでいた。


「資産と権利の移転手続きは本日中に。

港、鉱区、輸送保険の口座――すべて、伯爵家へ戻します」


「待て!」


レオンの声が裏返る。


「君は……本当に、わかっているのか!?

こんなことをしたら、どうなるか――」


「ええ。わかっています。

……わかっていなかったのは、あなただけです」


王が書記官に合図した。


「公報に載せよ。

“婚約解消に伴う契約執行”として」


木槌が乾いた音を立てた。


「彼らは客間へ。

クラリッサは会計局へ。手続きは早い方がよい」


「御意」


レオンは使用人に支えられるようにして、力なくその場を後にした。

アリアナは涙を流しながら、その後を追っていった。


「ルチア殿下、ありがとうございました……」


私の言葉に、王女はやわらかく微笑む。


「私、彼の本性に全然気づけませんでした。愚かですよね」


自嘲気味に笑うと、彼女は首を横に振った。


「あなたは愚かじゃないわ。

 ちゃんと、自分で気づけたじゃない」


窓から差す光が私を照らす。


「努力は無駄じゃなかったでしょう? 自信、ついた?」


この方は――私に気づく場を与えてくれたんだ。


「……はい。おかげで、自信がつきました」


「よかったわ――さあ、次はあなたの未来の話をしましょう?」


書記官があわてて手帳を開く。

王女は、私の背中をそっと押した。





「……しかし、爵位も持たぬ若造が、よくあそこまで大それた真似をしたものだな。

 一体、何を考えていたのやら」


王の呟きに、背後で控えていたルチアが肩をすくめる。


「見た目だけなら、本当に“完璧”でしたもの。

 学園では人気者でしたし……勘違いしてしまったのでしょうね、彼」


王は半眼になり、軽く顎髭を撫でた。


「ところでルチア。

 あの件、わざわざ“王宮からの通達”という形にしたのは、どういうつもりだった?」


娘は悪戯っぽく微笑む。


「家門同士で話を進めていたら……

 クラリッサは、きっと彼の本性に気づけないままだったはずです。

 あの場で、彼の覚悟と浅さを“はっきりと見せる”必要がありました。

 少し荒療治でしたけれど、王宮での裁定が一番早かったのです」


王は「なるほど」と小さく頷く。


「……で、あの二人は今どうしている?」


「学園では気まずさと噂で肩身が狭いようです。

 家の方も……借財の処理に追われ、大変だとか。

 アリアナ嬢は実家に戻る話も出ているそうですわ」


王はふう、と苦い顔をした。


「自ら選んだ道とはいえ……若さゆえの愚かさか。

 ――で、クラリッサは?」


その問いに、ルチアの表情がふわりと明るくなる。


「恋人ができましたの。

 あの調停での振る舞いに惹かれた方がいて……

 今は穏やかに、お互いのことを学んでいる最中だそうです」


「レオンのおかげで、か。

 思わぬ形で……彼女は“愛し合える相手”を見つけたわけだな」


「ええ。

 それに……レオンから学ぶべきことも、ひとつありますわ」


王が怪訝そうに眉を寄せる。


「何だ?」


「“愛している”と、人前で堂々と口にできたことでしょう。

 お父さま――お母さまに、最近仰っていますか?」


「……(´・ω・`)」


「大丈夫。

 ――お父さまならできますわ(^^)」


しばしの沈黙ののち、王はなんとも言えない顔で天井を仰いだ。


「あれを見習わねばならんのか……」


机に肘をつきながら、深いため息を落とす。


「全く、親の威厳が保てん」


そのぼやきをかき消すように、

ルチアの笑い声が、軽やかに響いた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
(´・ω・`)じゃないのよ王様wwwちゃんと言ってあげないと(ㆁωㆁ*)うちなんて私が「好き」「大好き」「愛してる」って言っても「うん」「知ってる」しか返さないのよヽ(`Д´)ノプンプンやっぱりちゃん…
「……(´・ω・`)」 ( ̄▽ ̄)突然の顔文字にメッチャウケました。
うーんこれは良い顔文字w
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