第5話:バディ結成! 世界を救う条件
翌日、昼休みの屋上。
風はやや強く、空は秋晴れ。
だが俺たちの胸の中は、どこかざらついていた。
「ターゲットは……木下だな?」
「情報科の教師で、個別に呼び出す生徒が異様に多い。
しかも、使ってるPCからは不審なプロトコル通信。完全に怪しい」
剛が携帯をいじりながら言った。
「今朝、裏ルートで木下の素性を探った。
こいつ、元々は某国防省の“分析官”だったらしい。
でも3年前、突然教育界に転職して、今はこの学校の教師」
「スパイか……?」
「可能性は高い。しかも、N.O.A.が雇ってる“現場調査員”のプロファイルに一致してた」
俺たちは無言で顔を見合わせた。
ついに、学校の“中”で敵と対峙する日が来たのだ。
「昼休みの後半、木下はよく旧館の資料室で休憩してる。
そこに忍び込んで、端末のデータを抜く。どうだ?」
「OK。俺が先に侵入してシステムをダンプ。剛は外で見張り、何かあったら合図」
「了解。バディ作戦、開始だ」
*
旧館の資料室は、生徒はほとんど立ち入らない場所だった。
薄暗い室内、古びた書棚の隙間を縫うようにして、俺はゆっくりと足を進めた。
木下のPCは、室内奥の机の上にある。
パスワード? 関係ない。
指が踊り、10秒で解除。
(さぁ……何を隠してる)
中には、複数の暗号化されたフォルダがあった。
「Class_A」「Key_Protocol」「LIVRA_Backup」——どれも、N.O.A.の中核に繋がるキーワード。
「……やっぱり、黒か」
すぐにデータを外付けストレージにコピー。
あと1分で完了する。そう思った瞬間——
「やれやれ、まさか君がここに来るとは思わなかったよ、山田くん」
背後から、低く冷ややかな声が響いた。
振り返ると、そこには木下が立っていた。
黒縁メガネの奥の目は笑っていない。
「君の動き、もう1週間前から追ってたんだ。
リヴェラに触った瞬間から、君は“鍵”としてマークされた。
そして、もうひとつの“実験”の対象としてもね」
「……何の話だよ」
「プロジェクト・レゾンの“第2段階”。
この世界を“選別”する、その第一歩。
——君は、それに必要な存在なんだよ」
その時、剛の叫び声が背後から響いた。
「山田ァッ!! 下がれッ!!」
ドンッ!
ガラス窓を突き破って、剛が乱入してきた。
拳が木下の頬を捉え、彼は壁に吹き飛ばされた。
「ぐっ……ッ!」
「遅ぇぞ! 間一髪だったじゃねぇか!」
「お前の作戦通りだろ! 俺が囮、剛が突入!」
俺は木下のPCからデータを引き抜くと、剛とともに出口へ駆けた。
だが、その背後で木下の声が響く。
「逃げても無駄だよ。
リヴェラはもう、“君たちの未来”すら、記録しているんだから……!」
バチッ。
室内の蛍光灯が一斉に爆ぜ、背後が闇に包まれた。
*
放課後。俺たちは裏山の古びたバス停にいた。
「……あの教師、完全にN.O.A.の犬だな」
「いや、“もう一段階上”の何かに関わってる気がする」
俺はデータを解析しながら、つぶやく。
中には、ある一文があった。
《プロトコルKey:R.0.M — Next Phase Start 10.21》
「10月21日……何かが起きる」
「それが“選別”の開始ってわけか?」
「まだ全容は不明。でも、確実に近づいてる。
N.O.A.だけじゃない。“世界のルールそのもの”が動いてる」
剛が黙って、俺の肩に拳を当てた。
「じゃあぶっ壊そうぜ、世界のバグ」
「——あぁ、バディとしてな」
俺たちの物語は、まだ始まったばかりだ。