第4話:「黒い組織」の影と謎のデータ
翌朝の教室は、妙にざわついていた。
「聞いた? 駅前のネットカフェ、警察来たんだって」
「なんか、防犯カメラも全部壊されてたらしい。やばくね?」
クラスメイトたちが、俺たちが昨日潜入した場所の噂を口にしていた。
まさかその“犯人”が、今この教室に二人もいるとは思ってもいないだろう。
俺は黙って自分の席に座り、カバンの中に忍ばせたノートPCにそっと手を置いた。
画面には、昨夜強制終了された“プロジェクト・レゾン”の残骸と、警告ログ。
《監視対象:山田リュウジ》
《物理介入準備中》
《アクセス警告:リヴェラ中枢直下からの侵入検出》
俺の正体は、もうN.O.A.にバレている。
おそらく、今この瞬間も監視されている。
でも不思議と、怖くなかった。
むしろ、ワクワクしていた。
なぜなら——
「おい、山田」
背後から声がした。
剛だ。
いつもの無表情で、だが少しだけ笑っているように見えた。
「昼、屋上な。例の件、続きがある」
「……了解。バディより、な」
俺は小さく答え、剛と軽く拳をぶつけた。
*
昼休み。屋上。
「で、続きって?」
剛はポケットからメモリチップを取り出した。
「兄貴のデータからもう一つ、気になる情報が見つかった。
“プロジェクト・レゾン”の隠しフォルダ。パスは兄貴の誕生日だった」
「やっぱり身内にしか分からないようにしてたんだな」
「中身は……一枚の写真と音声データだ」
俺はその場でノートPCを開き、チップを接続した。
表示されたのは、白衣を着た数人の研究員。
そして、その中心に立つ一人の女性。
「……この人……どこかで……」
「思い出したか?」
「N.O.A.の技術広報チャンネルに、昔出てた。AI開発の責任者だ。名前は……セラ=コウガミ。
でも、今はその名前自体、ネット上から完全に削除されてる」
「削除……?」
「意図的に消されてる。検索にも引っかからないし、過去ログにも痕跡がない。
たぶん、存在を抹消されたんだ。N.O.A.の手で」
剛が小さく舌打ちした。
「音声ファイルの中で、彼女はこう言ってた。
『プロジェクト・レゾンの制御は不可能。次に暴走した時、最初に狙われるのは“選ばれし鍵”』ってな」
「……鍵?」
「そして、その対象名——ヤマダリュウジ」
背筋がゾッとした。
一瞬、風が止まり、世界が静かになるような錯覚。
「……なぜ、俺が“鍵”なんだよ」
「それを知るためにも、お前が必要なんだよ。な、バディ」
俺は震える指を止め、ゆっくりと画面を閉じた。
*
放課後。
俺は一人、校舎の裏手にある配線ボックスに近づいていた。
学校のLANを調べた時、不審な通信のログが見つかった。
定期的に外部サーバと通信を行っている端末——
それは、情報科の木下先生のPCだった。
「教師が、N.O.A.に関わってる……?」
確証はない。だが、通信記録は明らかに不自然だった。
しかもその通信プロトコルは、俺が昨夜逆探知された時のものとほぼ一致していた。
つまり、あの時——
俺の位置を特定してきたのは、“ここ”からだった可能性がある。
(……内部に、敵がいる)
俺は確信した。
もう、俺たちは“監視されている”どころじゃない。
この学校そのものが、N.O.A.に侵食されている。
*
夜。
剛からメッセージが届いた。
《明日、昼。屋上集合。次のターゲットは“教師”だ》
俺は短く返した。
《了解。敵の正体、暴いてやろう》
そして、思った。
次は“試される”。
剛と組んで、逃げ場のない監視社会のど真ん中で、
俺がこの手で“世界のバグ”をぶっ壊せるかどうか——
答えは、もうすぐ出る。