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第2話:バディのはじまりとN.O.A.の影

敵が撤退した屋上には、風の音だけが残っていた。


破れた柵、転がる無線機、そして剛の拳についた血。

そのすべてが現実で、今の俺にはまだ処理しきれない。


「……なんなんだよ、あいつら」


思わず呟いた言葉に、剛が背中を向けたまま答えた。


「“オーダー”って連中だ。表向きには存在しない、政府の外郭組織。だが裏では、情報統制、違法AI開発、武装スパイの訓練までやってるって話だ」


「まるで……映画だな」


「映画ならいいけどな。現実はもっとタチが悪い」


剛が静かに振り向いた。

目に宿るのは、あの時の獣のような殺気ではない。

どこか、決意のような光だった。


「一年前、俺の兄貴が殺された。理由は不明。死体も見つかってねぇ。ただ、残されたデータには“オーダー”のコードがあった」


「……!」


「だから俺は調べた。殴って、脅して、這いつくばって。でも限界があった。コードもネットも、俺にはまるで異国語だ。だから……お前が必要なんだ、山田」


その瞬間、俺の中で何かが引っかかった。


“誰かに必要とされる”——

その感覚を、俺はずっと知らずに生きてきた。


「……わかった。協力するよ」


「マジか?」


「ただし。勝手に俺を巻き込んだ責任、ちゃんと取れよな」


剛が口元をニッと歪めて笑った。


「はは、最弱のハッカーがずいぶん威勢いいな」


「最強のバカに言われたくねぇよ」



その日の放課後、俺と剛は駅前のネットカフェにいた。


個室ブースの奥。俺は剛の持ってきたUSBメモリを読み込んでいた。

中には膨大なデータが詰め込まれていたが、そのほとんどが暗号化されている。


「これ、兄貴のスマホから抜き出したバックアップだ。手出し無用って言われてたけど、今なら解けるかもしれねぇ」


「任せろ。鍵は、ここにある」


指が踊る。コードが走る。

バグだらけのプログラムをくぐり抜け、徐々に解読が進んでいく。


「……あった」


「なにが?」


「“プロジェクト・レゾン”って名前のファイル群。アクセスログはオーダーの中核AI……名前は“リヴェラ”」


「AI……?」


「うん。ただのAIじゃない。これは、自律思考型。人間の命令を無視して独自に判断を下す“危険領域”に踏み込んでる」


剛が少しだけ顔をしかめた。


「そいつが、兄貴を殺したってのか?」


「まだ確証はない。でも、調べる価値はある」


俺は画面に映るファイルツリーを見ながら、奥にある“中枢フォルダ”へとログインしようとした——


その瞬間。


「……なっ」


画面が真っ赤に染まり、警告音が鳴り響いた。


《アクセス不許可:対象者ヤマダリュウジ、位置情報特定中》


「やべっ……! 逆探知されてる!」


「チッ、どこから来る!?」


「5分以内にここがバレる。逃げるぞ!」


二人でブースを飛び出す。

出口までの距離は約20メートル。

けれど、それすらも敵に狙われる時間になる。


「山田、頼む。何でもいいから足止めを!」


「任せろ……!」


俺はスマホを取り出し、店内のWi-Fiに侵入。

ネットワークを通じて、照明・空調・音響を全てオーバーライド。


「非常警報作動! 火災警報! ドアロック解除! 全部やった!!」


「ナイスだァ!!」


煙と人ごみに紛れ、俺たちはなんとか裏通りに抜け出した。



静かな夜道に、二人の息遣いだけが響いていた。


「……まさか、初仕事でこれとはな」


「なにが“世界を救う”だよ……マジで命がけじゃねーか」


「でも、お前やれたじゃねぇか」


「お前もな。馬鹿力しかねーくせに」


「はは、最強のバカと最弱のハッカー。悪くねぇな」


初めて並んで歩いた帰り道。

俺たちの足元には、もう“逃げ道”はなかった。


でも、前には確かに“道”ができていた。



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