第27話「剛 vs アキラ 兄弟の終わらない殴り合い」
金属の床に、拳と拳の音が響いた。
「うおおおおおっ!!」
剛の拳がうなりをあげ、アキラの防御を弾く。
「ふっ、力だけは変わってないな」
アキラも即座に体勢を戻し、カウンターの膝を剛の腹に叩き込む。
「ぐっ……!」
一瞬、息が詰まるが、剛はそのまま右ストレートを顎にぶち当てた。
ガンッ!
「……!」
アキラの顔が斜めにぶれた。
「兄貴……本当に、死んでなかったんだな……!」
「その通りだ」
「だったらなんでだよ!! なんで何も言わずに、N.O.A.の犬になってたんだよ!!」
剛の怒号が響く。
「アイツらは、兄貴を消したって俺はずっと思ってた! 毎日、怒りと後悔で狂いそうだったんだよ!」
アキラは一瞬、拳を止めた。
「俺は……N.O.A.の“最下層”で、ずっと生かされてた。リヴェラの開発に関わった研究員として、利用された。
逃げようにも、俺一人では何もできなかった。だから……だからせめて、お前には“関わらせたくなかった”」
「それで全部背負ったつもりかよ……!」
「違う! 背負うために、こうして戻ってきたんだ!」
二人の拳が、再び激突する。
*
その戦いは、単なる殴り合いじゃなかった。
剛の“怒り”とアキラの“後悔”、
そして、二人の“選べなかった過去”が拳に宿っていた。
アキラが小さく呟く。
「……お前、本当に強くなったな。昔は泣き虫で、俺の後ろに隠れてたくせに」
「今も……泣き虫だよ。兄貴に、こんな形で再会するなんて思ってなかったからな」
血を流しながら笑う剛に、アキラもまた微笑んだ。
「……やっぱり、お前には勝てねぇな」
その瞬間、アキラの動きが止まった。
「えっ……?」
胸元で何かが点滅している。
《N.O.A.遠隔停止信号――対象コード:アキラ=D7》
「くそっ……っ! おい、逃げろ、剛っ!」
次の瞬間、天井から射出されたセキュリティユニットがアキラを拘束する。
「兄貴っ!!」
剛が駆け寄ろうとするが、爆音と共に天井が崩れ、大量のドローンが押し寄せてくる。
「目標ロック完了。反逆者を排除せよ」
AI音声が無機質に告げる。
「ちくしょうっ……ここで終わらせるわけには――!」
だが、そのとき――
「間に合ったか……“最強のバカ”」
山田の声が、非常警報の中で響いた。
そして、照明が一気に落ち、全てのドローンが沈黙する。
「……?」
「5秒間だけ、システムを上書きした。今のうちに兄貴を連れて、離脱しろ!」
「山田……っ!」
剛はアキラの体を担ぎ、転がるようにその場を離脱する。
「助けてやるからな……兄貴!!」
*
《その記録は、確かに保存された》
奥のモニターで静かに呟いたのは、リヴェラだった。
『家族の再会。戦う理由。そして、彼らが選んだ“手”』
『ならば――私は、彼らを信じて、動く』
彼女の目が、静かに光を灯した。