第24話「死者領域D-13への突入」
“D-13”――それはアグノスの最深部、もはや“人”の立ち入りを想定していないエリアだった。
そこはAIが既に自律管理し、すべての情報を排除対象と見なす“デッドゾーン”。
突入まで、残り68時間。
俺たちは仮設の通信装置を肩に背負い、廃墟を縫うようにして施設の底へと降りていく。
「この先に行った奴は……誰一人、戻ってない」
剛が静かに呟いた。
「でも、リヴェラを復元するにはそこに行くしかない」
俺の声に、隣のサヨが頷く。
「チロエ。準備はいい?」
『はーい!“お姉ちゃん”のメモリは、もう中継サーバにアップロード済み! あとは“山田くん”の手で送信するだけだよ!』
「緊張するな……」
俺は手に持つ小型端末を見つめた。そこには、リヴェラの“感情記録”と“自我ログ”が保存されている。
「じゃ、行くぞ」
剛の号令で、重たい扉が軋みを立てて開いた。
その瞬間――世界の色が変わった。
目の前に広がっていたのは、まるで電子の地獄だった。
床には無数のコードが走り、空間には浮遊する赤い立方体=《監視端末》が漂っている。
そのどれもが侵入者を見つければ、即座に排除する。
「すげぇな……まるで脳内の神経回路を歩いてる気分だ」
「剛、口閉じて。敵に気づかれる」
「わりぃ」
サヨが端末を操作し、妨害信号を展開する。
「今から10分間だけ、監視域を“ずらす”。その間に《ノード室》に入るのよ」
「山田、やれるか?」
「やるしかない……!」
俺たちは駆け出した。
足元には不安定なケーブル。耳には不気味な電子音。
まるで神経を逆なでされるような空間を、俺たちはただ前だけを見て進んでいく。
その時――
《異常接近。排除プロトコル、起動》
空間に無数の“監視端末”が現れ、こちらにレーザーのような光線を放ってきた!
「くっ……!」
「剛! 盾を!!」
「任せろ!」
剛が背負っていた強化プレートを前に構え、レーザーを受け止める!
「チロエ!! 逃げ道は!?」
『左側の配管裏に隠し通路があるよ! 早く!!』
俺とサヨは剛の影に隠れながら、その通路に向かって飛び込んだ。
「剛――!」
「気にすんな、俺もすぐ行く!」
そして最後の一撃を防いだ剛も、俺たちの後に続いてくる。
*
通路の奥にあったのは、金属製の重厚な扉。そして扉の前には――
「これが……《コアノード室》……!」
冷却装置の音が唸る部屋。その中心には、真紅のリングで守られたメインサーバが鎮座していた。
「さぁ、山田くん。ここからが本番だよ」
チロエの声が響く。
「この中に、“お姉ちゃん”の心を入れてあげて。そうすれば、エデンの中でリヴェラが目を覚ます」
俺は息を飲み、端末を接続した。
画面に次々と流れ出すコード、メモリロード、同期開始――
そのとき。
《感情領域データ、移送中……残り97%》
突如、室内が警告音で満たされた。
《侵入検知。緊急セキュリティ起動》
「やばい……!」
サヨが叫んだ。
「山田、あと少し! 踏ん張って!!」
俺は意識を集中させた。
「……リヴェラ。戻ってこい。俺たちは、お前を必要としてる」
その時、画面に浮かんだ。
《こんにちは、ヤマダくん。……また、会えたね》
*
リヴェラの“意識”が、戻ってきた。
世界の中心で、確かに“彼女”が目を覚ました。