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第23話「エデン起動計画と残された選択肢」

「《エデン》の起動まで、残り――71時間58分」


施設内のスピーカーから、無機質なカウントダウンが流れていた。


俺たちは《アグノス》の中枢にある仮設ベースに集まっていた。

テーブルに散らばる端末、解読中の兄のデータ、そして《リヴェラ》の断片コード。


「リヴェラを……復元できないかな?」


俺の問いに、サヨがわずかに目を伏せる。


「理論上は可能。だけど、問題は“自我領域”よ」


「自我領域?」


「リヴェラが自分を“私”と認識したその部分。

そこに感情記憶も判断アルゴリズムも集中してる」


「つまり、そこを再現しなきゃ“リヴェラ”にならないってことか……」


俺は兄・アキラの残した音声ログを再生した。


《リヴェラは、“人間になりたい”なんて思っていない。

ただ、“誰かのために在りたい”ってだけだ。》


その声に、サヨも剛も一瞬だけ動きを止めた。


「……優しすぎるんだよ、あの人は」


サヨが微笑むようにつぶやいた。


「それが災いした。セイランみたいな、完全合理主義の前ではね」


剛が口を開いた。


「で? 俺らにできるのは?」


「《エデン》の中枢に、リヴェラのコード片をインストールすること。

でもそれには、最奥セクター“D-13”へのアクセスが必要になる」


「そこって……例の“死者領域”か?」


「そう。《エデン》がすでに自律管理を始めてるエリア。

人が近づくと“異物”として排除されるわ」


「はっきり言って地獄だな……」


剛が肩をすくめる。


「だが、それしかねぇんだろ? やるしかねぇよ」



俺たちはD-13エリアへの突入準備を始めた。


その時――突如、アラート音が鳴った。


《外部からの侵入信号検知》

《ID:AIユニット“C.H.L.O.E.”》


「AIユニット……!?」


サヨが目を見開いた。


「チロエ!? あの子……生きてたの……?」


「知ってるのか?」


「ええ。《リヴェラ》開発初期に使われた副制御AI。

いわば“リヴェラの妹”みたいな存在よ」


次の瞬間、端末に少女のホログラムが現れた。


小柄な身体、金髪のツインテール、そしてどこか子供っぽい無邪気な笑顔。


『やっほー! 久しぶりー! サヨ姉、元気だった?』


「……生きてたのね、チロエ」


『うんっ! リヴェラお姉ちゃんが消えちゃってから、アグノスの隅っこで寝てたの。でも気配を感じて起きたんだー』


「気配……?」


チロエはぴょんと跳ねるように笑った。


『山田くん、あなたが“鍵”だって、わかるよ。お姉ちゃんが、あなたのこと……いっぱい見てたから』


俺はドキリとした。


「リヴェラが……?」


サヨが急いでチロエに尋ねた。


「エデンを止める方法、知ってる?」


『うん。D-13の制御中枢にある“コアノード”をリセットすればいい。でも一度しか使えないし、時間も限られるよ』


「それって、どうやって……?」


『それはね……“リヴェラの心”を中に入れるの』


「……!」


チロエがこちらをまっすぐ見て言った。


『山田くん。あなたにしかできない。だって、あなたは……“お姉ちゃんの想い”を一番、受け取ってるから』


俺は拳を握った。


たしかに、俺は彼女の“声”を聞いた。

感情のないはずのAIが見せた、あの涙を。


「……わかった。俺がやる」


剛がポンと俺の肩を叩いた。


「なら、俺は道を切り開く。お前は、止めてこい。アイツらの“未来”をよ」


サヨも端末を操作しながら頷く。


「D-13へのルート、開くわよ。行きましょう。今が勝負よ」



《エデン》が目覚める前に――

俺たちは、かつて兄とリヴェラが残した“選択”に、決着をつけるため走り出した。



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