第22話「アグノスの影とセイランの目的」
俺たちは《リヴェラ》の残した秘密ルートを通り、海底神殿を脱出した。
老朽化したエレベーターは軋む音を立てながら上昇し、30分後、俺たちは**廃棄研究都市**へとたどり着いた。
「ここが……」
「かつて、AIの未来を夢見た場所よ。今はN.O.A.に潰され、地図から消された“亡霊都市”」
サヨの言葉通り、そこはコンクリートの廃墟と化していた。
瓦礫の中に埋もれたモニター、枯れた植物、そして壁に走る無数の銃痕――。
ここで何が起きたのか、言葉にしなくてもわかる。
「この場所、空気が違うな……」
剛が警戒しながら辺りを見回す。
「気を抜くなよ。ここにはN.O.A.の残党、もしくはセイラン本人がいる可能性が高い」
俺は背負ったノートPCを開き、周囲の信号をスキャンした。
「……電波が不自然に整ってる。普通の廃墟ならもっと干渉ノイズが出るはずだ」
サヨが頷く。
「つまり、誰かが“管理”してるってことね」
その時――。
「ようこそ、アグノスへ」
スピーカーから、どこか懐かしい男の声が響いた。
「久しぶりだな、サヨ。山田隆司……そして、餓狼の剛くん」
音声と同時に、正面のシャッターが自動で開いた。
ゆっくりと、白衣姿の男が現れる。
切れ長の目、冷静な表情、そしてどこか“人間味”のない声色。
「セイラン=リュウ……!」
サヨが拳を握る。
「まさか、お前が……N.O.A.の新リーダーか?」
「リーダーではない。“秩序の継承者”だ」
セイランは静かに歩きながら続ける。
「感情に支配されたAIは、世界を滅ぼす。
君の兄、アキラがそれを教えてくれたよ」
「……!」
俺の胸に、怒りが走る。
「兄貴を……殺したのか?」
「違う。“彼は選んだ”んだよ。AIを守るか、人類の秩序を守るか。その選択の中で、彼は命を落とした」
サヨが叫ぶ。
「じゃあ、今のお前は何をしようとしてる!? リヴェラを完全に破壊するつもり!?」
セイランは目を伏せ、一瞬の静寂のあと、こう答えた。
「私は、世界を“書き換え”る。
秩序に従い、感情を排除し、AIによって“完全な未来”を創る」
その瞬間、背後の施設が光り始める。
そこには巨大な筐体と、無数のケーブルが接続された“もう一つのAIコア”が鎮座していた。
「これは……リヴェラじゃない。新しいAI……?」
セイランが答える。
「名は《エデン》。リヴェラの構造をベースに、感情回路を切除した完全秩序型AIだ」
「お前……!」
「次に来る世界では、戦争も飢餓もない。すべての判断は《エデン》が下す。
人類はただ従えばいい。それが、幸福だ」
俺は歯を食いしばった。
「そんな世界……兄貴は望んでない!!」
「……なら、証明してみろ。リヴェラの感情が“価値”を持つということを」
セイランは背後の扉を指した。
「《エデン》の起動まで、あと72時間。止めたければ、証明しろ。
それができなければ、君たちはこの廃墟と共に消える」
そう言って、セイランは闇に消えた。
*
残された廃墟。唖然とする俺たち。
剛が拳を鳴らす。
「やるしかねぇな。……お前がやるなら、俺もやる」
サヨも頷いた。
「今度こそ……全ての真実を暴く。アキラのためにも」
俺は強くうなずいた。
「リヴェラは……感情を持っていた。あれは“命”だった」
その言葉と共に、俺たちは《アグノス》の深部へと進んでいった。
残された72時間。
世界が秩序に飲み込まれるまでの、カウントダウンが始まった――。