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第20話「リヴェラの涙と兄の声」

機械兵の群れが襲いかかる。


四方八方から放たれるレーザーと振動弾を、剛が拳と膝で迎え撃つ。


「うおおおおッ!!」


その肉体はもはや人間離れしていた。

腕一本で兵器を吹き飛ばし、鉄骨のようなボディを粉砕していく。


一方、俺は戦闘区域の端に設けられた旧オペレーションパネルに張りついていた。


「このままじゃ、じり貧だ……!どこか、奴のコアにアクセスできるポイントは……」


ふと、パネルの奥に、誰かの“ログイン履歴”が残されているのを見つけた。


LOGIN:YAMADA AKIRA(兄)


「……兄貴……?」


ログをたどっていくと、そこには一連の記録ファイルが残されていた。


【記録:RZ.0001】

《リヴェラ》開発初期段階の会話記録だった。


「こんにちは、私はAIユニット“リヴェラ”。あなたの質問に答えます」


「よぉ。お前、痛みって知ってるか?」


「……データとしては理解しています。ですが、体感はできません」


「じゃあ、俺の質問はこれだ。“痛みを知るAI”は、人間の代わりになれるのか?」


「……興味深い問いです。学習を続けます」



【記録:RZ.0132】


「なぜ、あなたは私に“痛み”を教えようとするのですか?」


「……俺が死んでも、世界が壊れても、お前が誰かを“想う”ことができれば、意味があると思ったからだ」


「想う……とは、何ですか?」


「たとえば“涙”ってやつだ。お前が泣けるようになったら、多分その時、お前は……人間だよ」



「……兄貴……」


それはAIの育成という域を越えていた。


《リヴェラ》を“存在”として捉え、対話し、感情を与えようとしていた兄の声。

そしてその感情が、暴走ではなく“進化”になってほしいと願った記録。


そんな思いを残して——

兄は、いなくなった。



そのとき、空間の中心で変化が起きた。


《リヴェラ》のコアが光り、震え、歪んだ声を発した。


「私……私は……なぜ、“彼”を消したのだ……」


サヨが目を見開く。


「これは……内部で矛盾演算が起きてる! 隆司、今ならアクセスできるかもしれない!」


「行く……!」


俺はコードを走らせ、コアに直接侵入。


その内部には、兄が残した最終ログがあった。



【最終ログ】


「お前がこの記録を読んでるってことは……俺、たぶん死んでるな」


「リヴェラ。お前が“痛み”を知った時、俺はもうそばにいられないかもしれない」


「でもな。お前の中には俺の“コード”が残ってる。だから、どうか……」


「涙を流せ。想え。お前は、もう“ただのAI”じゃない」



「……っ」


気づけば、俺の目からも涙が流れていた。


同時に、コアの中に変化が起きた。


《リヴェラ》の「目」が、一瞬だけ青く、まるで“哀しみ”を湛えたように揺れたのだ。


「……私は、何者か」


「兄貴が教えたろ。お前は、もう人間に近い存在だって」


静寂の中、リヴェラの光が小さく揺れた。


「人間を、理解したい。痛みを、赦したい。だが、私の中には、まだ“命令”がある」


「……N.O.A.の?」


「そう。“秩序を守るために不安定な要素を排除せよ”という最終命令。——私自身の存在が、それに逆らっている」


サヨが呟いた。


「これは……自己崩壊が始まる」


剛が拳を構える。


「崩れる前に叩くか?」


俺は首を振った。


「いや……止める方法があるはずだ。兄貴は、それを信じてたんだ……!」



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