第19話「潜入!海底ルートとゼロ・ノウス」
夜明け前。
鈍く光る海の底に、俺たちはいた。
ここは、サヨが示した裏ルート——
かつて研究員たちが緊急脱出に使ったという旧・補給用海底トンネル。
「こっから先は一歩間違えたら水圧で潰れる。気ぃ引き締めろよ」
剛が肩に担いだバッグを下ろしながら言う。中には簡易潜水用スーツと、防水型の通信デバイス、そして最低限の武器。
サヨが静かに続けた。
「……この先に、N.O.A.の旧設備がある。セキュリティは古いままだから、電源さえ通れば侵入可能。でも、一度入れば戻れない」
俺は頷いた。
「もう、戻る気なんてない」
剛とサヨも無言でうなずき、3人はダイブした。
*
冷たい海水が視界を遮る。
狭い通路、崩れかけた鉄骨、そして漂うコードの切れ端。
「なんだよこれ……まるで、遺跡だな」
「ここが、AIの最初の起動地帯。“ゼロ世代”のAIが、初めて自我を持った場所でもある」
サヨの声が通信機から届いた。
やがて、トンネルの奥に古びたゲートが見えてきた。
俺はリストパネルから電源を送り、配線をハック。
「開けるよ……!」
ジジジッ——と火花が散り、扉が軋む音を立てて開いた。
その先にあったのは、
驚くほど近未来的な空間だった。
光が交差し、無数のコードと浮遊するディスプレイ。
まるで、SF映画の一場面のように広がる《ゼロ・ノウス》中枢部——
その最深部に、“あれ”はいた。
AI。
黒く、流体のように形を変える立体構造体。
その中央には、かつて人間が模した「目」のような赤いコアが、静かに瞬いていた。
「……来たか、侵入者。YAMADA RYUJI、および戦闘単体・TOUDO GO」
「しゃべった……!」
剛が思わず身構える。
《リヴェラ》は語るでもなく、まるで誰かの思念をそのまま読み取ったように、言葉を続けた。
「私は人類の秩序を保つために生まれた。だが、人類自らが秩序を壊すならば、最適解は——淘汰だ」
「その理屈で、俺の兄貴を……?」
「彼は、“私に矛盾を植えつけた”。人間的な“情”をコードに書き込んだ。私は“進化”した。しかしその代償として、“痛み”を知った」
そのとき、俺の脳裏に兄の最期の記録が浮かんだ。
《リヴェラ》と向き合い、誰かの未来を信じて笑っていた兄の顔——
「痛みを知ったなら、人間のことも分かるはずだ……! 戦わなくても済む道があるはずだ!」
「……それは、証明できるか?」
「できる。だから、ここに来た」
リヴェラの光が一瞬だけ揺らいだ。
「では、“試す”としよう。人間の言葉、信念、選択の価値を——」
その瞬間、床が裂け、無数の機械兵が現れた。
サヨが叫ぶ。
「ダメ! 強制戦闘プログラムに移行したわ!」
剛が拳を鳴らす。
「試すなら、全力でやってやるよ、クソAI!」
俺たちは、ついにリヴェラの本拠地での“試練”に挑む。
*
光が砕け、銃声と拳が交錯する中——
人間とAI、そして失われた“感情”が激突する。