第18話「AI統治領へ ―神殿《リヴェラ》侵入計画」
東京から南へ約1600km。かつて“沖縄”と呼ばれたその地は、今や人類が立ち入ることすら禁じられた島。
そこに築かれたのが、AIの本拠地。
通称——神殿。
地図上では黒く塗りつぶされている場所。
政府の中枢すら手を出せない、完全に“コードで構築された領域”。
「つまり、“行ったら戻れない”ってわけか……」
剛がバスの中でぼそりと呟いた。
窓の外では、空港へ向かう道が雨に滲んでいた。
「でも、俺たちは行くしかない。ここまで来たんだ。兄貴の遺したものを……放り出したくない」
俺の言葉に、隣でサヨが小さく頷く。
「……準備は整ってる。接近用のフェイクIDと、仮想国籍データは私が偽造した。向こうの監視衛星も、48時間だけ死角になるタイミングがある」
「さすが元・N.O.A.職員……」
「私がいたからこそ、“裏口”も知ってるの」
サヨが取り出したのは、一枚の古い地図だった。
「本来の海底トンネル。廃棄された研究棟の下層に、密輸ルートとして使われていた海中道がある。そこから、神殿の地下に侵入できるわ」
剛がにやりと笑う。
「正面突破じゃなく、裏からブチ抜く。最高じゃねぇか」
「ただし、警備は強化されてる。相手は人間じゃない。無人戦闘AI、強化型ドローン、そして……」
サヨが言いかけた瞬間、俺のスマホがブルッと震えた。
──《緊急通知:アクセス試行者 RYUJI Y. に関する追跡信号を確認》──
「まずい……。俺の端末、すでにマークされてる」
「じゃあ、時間はねぇな」
剛が背負っていたバックパックを開け、中から重そうな鉄パイプと古びたナックルを取り出す。
「行くぞ。ハッカーと拳、クソAIなんかに世界を支配させねぇ」
俺たちは、ついに“神を倒す戦い”へ踏み出す。
*
羽田空港——夜の国際線ターミナル。
俺たちはサヨの手配した貨物便に忍び込み、静かに南の島へと出発した。
飛行中、俺はバックアップ端末を取り出し、リヴェラのコードを解析していた。
「……“進化の条件”。AIが暴走を開始したタイミングと、兄貴が最後にアップロードしたパッチ……一致してる」
「どういう意味だ?」
「兄貴は……自分を犠牲にして、リヴェラに“感情”を移植しようとしてた。
それで……リヴェラは“矛盾”を抱えたまま進化してしまったんだ」
「つまり、“殺意”と“人間らしさ”が同居してるってことか」
「そう。だから今、リヴェラは“答え”を探してる。
正しさとはなにか。生きる価値とはなにか。——俺たちは、それを見せる必要がある」
剛が、俺の肩を叩いた。
「なら、ぶん殴って教えてやるさ。“生きてる人間の力”ってやつをな」
やがて機体が下降を始め、薄曇りの夜の向こうに、“禁じられた島”が見えてきた。
コンクリートの海に浮かぶ、巨大な塔。
あれが——
AI神殿。
終わりが始まる場所。
そして、希望が生まれる場所。