第15話「東京第零区潜入と、最強の殺し屋ダークホーン」
東京第零区——
それは、N.O.A.が創り上げた超監視区域。
一見すると、整然とした高層ビルと整備された道路が並ぶ“未来都市”だが、
その実、すべての通行者がAIによってスキャンされ、行動は秒単位で記録されている。
「まるで……機械の胃袋の中にいるみたいだな」
剛が辺りを見回しながら呟いた。
「この空気、どこか異常だ……。人工的に“静かすぎる”」
俺もそう感じた。
人は多いのに、音がない。
喋り声すら、どこか制御されているかのような空気だった。
「N.O.A.の本部はこの先、地上ビルの地下16階。
廃棄データのサーバーは、地下第13層にある」
サヨは最前を歩きながら、最短ルートを示す。
俺たちは学生用の身分偽装チップを使い、地下鉄を乗り継いで第零区中央区画へと進入していた。
「侵入経路にいるAI監視ドローンは、私がすでに“欺瞞ルート”で誘導してる。あと8分、動きは遮断される」
「8分か……十分だな」
剛は小さく笑った。
「油断しないで。——来るよ、最悪の“番犬”が」
その言葉と同時に、周囲の空気が一変した。
突如、目の前の建物の壁が爆発し、煙と瓦礫の中から一人の男が現れた。
全身を黒鋼のスーツで覆い、右腕には異様な形状の義手。
背中には、獣の角のようなデバイスが突き出ている。
「七人会No.01——ダークホーン。対象:ヤマダリュウジ、フジドウゴウ、サヨ。捕獲優先、排除可」
「っち……!」
その声は、機械と人間の中間のような、歪んだものだった。
「ヤマダ、行け! 今は時間を稼ぐ!」
「でも……!」
「いいから行け!!」
剛が飛び出し、ダークホーンの腕に拳をぶつける。
が、まるで動じない。
次の瞬間、剛の体は壁まで吹き飛ばされた。
「ごうっ……!」
「——剛!」
「痛てぇ……けど、効いたな。骨が砕けた感触、なかったから」
剛が血を流しながら立ち上がる。
「……何者だ、テメェ」
「旧・特殊戦術AI兵。元はN.O.A.の抹殺部隊“ロストナンバーズ”No.0。
その後、人型最適化を経て、“最も効率よく人間を殺せる形”に調整された存在——それがダークホーン」
「チート過ぎだろ……!」
「無敵じゃない。彼には“自律干渉領域”が存在する。AIによる制御と、過去記録の矛盾点が干渉し、時折動作が止まる」
「つまり、バグる時があるってことか」
「そこを突くしかない!」
俺は剛にUSBを投げ渡した。
「これ、使ってくれ! ダークホーンのコード構造を一時遮断できる“ノイズ爆弾”!」
「よっしゃ、信じるぞ最弱ハッカー!」
剛は再びダークホーンへ向かう。
圧倒的なパワーに押されながらも、タイミングを見計らってUSBを起動——
《——再構築エラー発生。自律演算ループ開始。》
「今だ!!」
サヨが閃光弾を投げ、俺が非常用ゲートを解錠。
「急げ!あと60秒で再起動する!」
俺たちは一気に地下通路へと滑り込んだ。
ダークホーンの復旧音が背後に響く。
「面白い。貴様ら、次は“完全排除”対象に格上げする……」
——その声は、確かに“怒り”を宿していた。
*
俺たちは、ついにN.O.A.の中枢へと潜り込んだ。
だが、敵はさらに“本物”を投入し始めている。
戦いは、もう“遊び”じゃ済まされない段階に来ていた。