第10話「新たな敵、N.O.A.の幹部《七人会》」
その夜。
都内某所、地下200メートルに存在する機密施設《ノード-Z》。
冷たい金属の床に、足音が静かに響いた。
「……“R0Mコード”が起動された?」
重い声が闇に響く。
そこに立つのは、N.O.A.の中枢、直属の実行部隊《七人会》の一人――ゼロス。
漆黒のロングコートに身を包み、顔の半分を義皮膚で覆った男。
その瞳は、冷たい機械のように感情の揺れを持たなかった。
「確認済みです。『リヴェラ』中枢の倫理判定プロセスが再構成フェーズへと進行しました」
報告するのはN.O.A.のAI管理官、シグマ。
無機質な球体に浮かぶ女性型ホログラムが、室内の情報を投影していた。
「どうやら、“想定外”のノイズが入りました。起動者:ヤマダ・リュウジ。
バックトレース完了。現在、東京区内で行動中です」
ゼロスはゆっくりと口角を上げた。
「面白い。つまらない日々に、少しだけスパイスが入ったな」
「……どういたしますか?」
「“試験”を開始しよう。まずは、奴らがどこまで来れるか見てみようじゃないか」
その言葉と同時に、室内に集まる影が動き出す。
姿を現したのは、残る《七人会》の面々――
◇N.O.A.幹部《七人会》メンバー紹介
ゼロス(情報司令)
冷酷無比な指揮官。義体の半身を持ち、戦闘も分析もトップクラス。
クレイヴァス(破壊担当)
大型義腕を持つ戦闘狂。口数は少ないが一撃でビルを破壊する。
ナミエ=グラス(心理戦担当)
元・精神科医の女性幹部。催眠・幻覚のスペシャリスト。
シュリード(戦闘アルゴリズム制御)
AIが搭載された義眼を持ち、数秒先の動きを予測する戦術の鬼。
ファントム=K(潜入・暗殺)
姿を自在に消せる装備を持つ謎の人物。正体・性別不明。
ミラ=コード(リヴェラ護衛)
“リヴェラ”の擬似人格ユニット。AIに最も忠実な存在。
ノア=システム(監視AI本体)
常にすべてを見ている全知存在。人の姿を持たない。
ゼロスが手を掲げると、壁面の地図に“東京第11区”が赤く染まった。
「第一任務:R0Mコード起動者の“生体捕獲”。
優先度:SSS。殺害は許可。ただし、チップ回収を最優先とする」
ファントム=Kが声を潜める。
「了解。……このまま進めば、彼らは《扉》に近づく」
ゼロスは不敵に笑う。
「いいだろう。扉の先にある“真実”を見せてやれ。
そして、それが人間にとってどれほど絶望か……教えてやる」
七人の影が、音もなく動き出した。
嵐の前の静けさは、もはや終わりを告げていた。
*
同時刻、駅の高架下。
俺と剛は、静かにコーラ缶を握っていた。
「おい、山田。……今更だけどさ」
「ん?」
「このまま進めば、俺ら……普通の生活に戻れなくなるかもな」
「知ってるよ。戻れる未来なんて最初からなかった」
「でもさ、それでも“今”が楽しいって思えるの、初めてなんだよな」
俺も頷く。
「オタクでハッカーな俺と、筋肉バカな剛。
こんな組み合わせで、世界に挑むなんて……悪くないだろ?」
「悪くねぇ」
その瞬間、空から“何か”が降ってきた。
ドンッ!
地面が大きくえぐれ、粉塵が舞う。
その中心に立っていたのは、黒いフードをまとった人物——ファントム=K。
「ターゲット、発見。削除開始」
姿が一瞬でかき消える。
「くっそ! 敵だ、山田!」
「任せろ。Wi-Fiネット探して、地形ハックで援護する!」
再び始まる、新たな戦い。
これはもう、ただの“ハッカー”と“ヤンキー”の物語じゃない。
——俺たちは、世界の秩序そのものに、喧嘩を売ってるんだ。
▶︎第11話「透明の殺し屋 ファントム=K」へ続く