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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第五章:装備作り? いいえ、試練のフラグです

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93:帰還の列車と残されたフラグ

 ――ガタゴト、ガタゴト。

 鉄の車輪が軌条を叩く規則的な音が、遠い夢の残滓をかき消していく。


 ソーマは重たい瞼をゆっくりと持ち上げた。

 揺れる視界に映るのは、豪奢な装飾の施された木製の天井。

 淡いランプの光が揺らめき、心地よい温もりを与えてくれる。


「……ここは……?」


 思わず声が漏れる。

 枕の柔らかさ、掛けられた毛布の清潔な香り、そして全身を包む心地よい振動。

 そこは王国随一の移動手段――魔道列車の特室だった。

 起き上がろうとした瞬間、すぐ横で控えていたエルーナがぱっと顔を上げた。


「ソーマっ! よかった、目を覚ましたのね!」


 涙ぐんだその笑顔に、ソーマは胸を撫で下ろす。


「エルーナ……。みんな……無事なのか?」


 その声に、部屋の扉が開き、仲間たちが次々と顔を覗かせた。

 ゼルガン、クリス、ジョッシュ、そしてドワーフの兵士たちまで。

 全員が満身創痍で包帯を巻いていたが、確かに生きていた。


「ソーマ、起きたか!」


 ジョッシュが豪快に笑い、肩を叩く。


「お前、あの爆発の中でよく無事だったな。心配させやがって!」


 その言葉に、胸の奥から込み上げるものがあった。

 だが同時に、あの戦いの記憶が鮮烈に蘇る。

 ――ドラゴニカ。

 あの異形の竜の最後の咆哮。

 そして自分がコアを撃ち抜き、剣を突き立てた瞬間の閃光。


「俺は……どれくらい眠ってたんだ?」

「三日です」


 クリスが答えた。まだ疲労の色は濃いが、優しい微笑みを浮かべている。


「ダンジョンが解放され、鉱山が正常に戻った時には、ソーマさんは完全に意識を失っていたんです」

「そう……か」


 ソーマは深く息を吐いた。

 自分を縛っていた不安が、少しだけ溶けていくようだった。


 やがて仲間たちが、彼が眠っていた間に起きた出来事を語り始める。

 ドラゴニカのコアが破壊された瞬間、歪んでいた空間は音を立てて崩壊し、鉱山は元の姿を取り戻した。

 そして、空中に漂っていたあの謎の子供は、最後に負け惜しみのような言葉を残して消え去ったという。


『ふん、覚えてろよ……! 次は……次こそは……!』


 そう吐き捨てて。


 その後、ドワーフたちはドラゴニカの残骸から得られる素材を確保し、依頼されていた魔石の発掘を進めるために何人かが鉱山に残った。

 ソーマたちは王都アスガンドへ帰還する途についたのだ。


「そうだったのか……」


 ソーマは黙って聞きながら、胸の内に小さな安堵を覚えた。

 死闘の果てに、ようやく掴んだ生存と勝利。

 その結果が確かに繋がっているのだと。


 だが同時に、苦い報せもあった。


「……ああ、それとだな」


 ゼルガンが少し困ったように口を開く。


「お前が使ってた武器、防具……全部壊れてしまった」

「え……?」


「お前のロングソードは、あの爆発の中で粉々だ。俺が作った蜂王剣(レギーナスティング)鎧蜂(レギナギア)もバラバラ。蛇帝衣(オロボロクローク)も、ほとんど灰になっちまった。それから……リシューから受け取った拳銃も、一発で内部が焼き切れて壊れた」


 ゼルガンの声は重々しい。


「俺の盾もな……奴の攻撃を受けきった時に、ボロボロになった」


 ソーマは絶句し、俯いた。


「……俺のせいだ。せっかく作ってもらった装備を……ゼルガンさんの盾まで……全部……」


 拳を握りしめ、唇を噛む。

 装備はただの道具じゃない。

 共に戦い、仲間の命を守った証そのものだ。

 それを壊してしまった罪悪感が胸を締めつける。


 だがゼルガンは豪快に笑い飛ばした。


「馬鹿を言うな! 命を守れたなら、それで十分だ。装備にとっては、それが本望というものだ!」

「そうだ!」

「俺たち鍛冶師は壊れるのを恐れて物を作るんじゃない!」

「命を守るために作るんだ! また作ればいいさ。ちょうどいい素材も手に入ったしな。もっと頑丈にしてやるよ!」


 ドワーフの兵士たちも口々に頷き、励ます。


「……ありがとう。本当に、ありがとう……」


 ソーマの目頭が熱くなる。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 やがて窓の外には、広がる王都アスガンドの城壁が見えてきた。

 夕陽を背にした城郭は黄金に輝き、帰還の時を歓迎するかのようにそびえ立つ。


「もうすぐ……王都だな」


 ソーマは呟き、胸の奥で決意を新たにした。

 失ったものもある。

 だが生きて帰れた。

 それこそが最大の成果だ。


 列車の汽笛が高らかに鳴り響き、一行は新たな日常へと帰還していった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


【???視点】


 深い闇の中、謎の子供は蹲っていた。

 小さな拳を床に叩きつけ、悔しげに叫ぶ。


「くそっ……! 僕が直接戦えていたら……あんな奴らに……!」


 その瞬間、音もなく影が揺らぎ、二つの人影が現れた。

 一人は漆黒のローブを纏い、顔をフードで覆った男。

 もう一人は巨大な白蛇の背に腰掛けた妖艶な美女。

 蛇の瞳は冷たく光り、女は子供を射抜くように見つめる。


「……だから言ったのだ。忠告を聞かぬから、このざまだ」


 フードの男が低く呟く。


「男のロマンなんてものを求めるからこうなるのよ。素直にドラゴンのゴーレムを作ればよかったのに……」


 美女の声は甘やかだが、底に鋭い棘が潜んでいた。

 子供は唇を噛み、睨み返す。


「黙れ……! でも、確信したよ。あいつは……あいつこそ……()()だ!」


 その名を口にした瞬間、三人の間に重苦しい沈黙が落ちた。

 ローブの男がゆっくりと頷く。


「ならば尚のこと、計画を修正せねばなるまい。あれに気づかれる前に……」


 美女も蛇の首筋を撫でながら、艶然と微笑む。


「ええ……世界を揺るがす駒を、私たちが使いこなすのよ」


 三人は闇に溶けるように姿を消した。

 その余韻だけが、不吉な予兆として残響する――

 ドラゴニカの素材でどんな装備を作ろうか楽しみにしています。


※作者からのお願い


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