84:罪と決意のフラグ
翌朝――
魔道列車の車窓から差し込む朝陽が、淡い黄金の光となって客室を包んでいた。
静かな揺れの中、ソーマは目を覚まし、向かいの席に腰かけているゼルガンに気づいた。
彼は夜明けからずっと眠らず、窓の外を見つめていたようだった。
「……ゼルガンさん?」
声をかけると、ゼルガンは振り返り、わずかに目元を緩めた。
「起こしたか」
「いえ……。眠ってなかったんですか?」
「……どうにも、眠れん夜だった」
ゼルガンの声は低く、しかしその奥に硬い決意を宿していた。
ソーマは胸にざらついた不安を覚える。
昨日聞いた彼の過去が、まだ胸の奥に棘のように残っているのだ。
「帰るの……怖いですか?」
思わず問いかけてしまうと、ゼルガンは小さく笑った。
「怖くないと言えば嘘になる。だが……避けては通れん」
その横顔はどこか影を背負いながらも、まっすぐ前を見ているように見えた。
その後も列車は途中の街で休憩をはさみつつ進み、やがて王都が近づく頃――
「もうすぐ王都に着くな」
ゼルガンの言葉に、空気が自然と張り詰めた。
「……実は、アスガンドを出てから俺は一度も戻っていない」
静かに告げられた言葉に、ソーマたちは驚きの表情を見せる。
「じゃあ……妹さんたちと国を出てからずっと……?」
クリスが小さな声で問う。
「ああ。アスヴァルでの生活、勇者パーティーとしての活動……すべては外で完結していた。帰る顔がなかったからな」
エルーナが唇を噛みしめる。
「だから……余計に今回の帰還は……」
「そうだ。すでに俺が王都に向かっている情報は、間違いなく王城に届いているだろう」
ゼルガンは腕を組み、深く息を吐いた。
「兄――現国王がどう出るかはわからん。歓迎など、されるはずもない」
ソーマは思わず拳を握りしめた。
「でも、ゼルガンさんが一緒に来てくれるおかげで、僕たちは……」
ゼルガンはその言葉を首を振って遮った。
「俺がどうなろうと構わん。ただし――お前たちの依頼。それだけは必ず通す」
その瞳に宿る覚悟に、全員の胸が痛む。
彼の罪と悔恨を知った今、その決意の重さが痛いほど伝わってくるのだ。
やがて列車は王都の駅に滑り込む。
車輪の音が止み、ドアが開いた瞬間――
重厚な鎧に身を包んだ兵士たちが、構内を埋め尽くすように整列していた。
視線は一斉にゼルガンへ注がれ、その場の空気が一気に凍りつく。
「……やはり待ち構えていたか」
ゼルガンの低い呟きに、クリスは息を呑み、ジョッシュはバットに手を伸ばしかけた。
だがゼルガンが鋭く手で制す。
「武器を抜くな。敵意を見せれば終わりだ」
先頭の将校が声を張った。
「ゼルガン殿。そして同行の冒険者諸君。国王陛下がお待ちだ。ついて来てもらう」
拒否の余地はない。
ソーマたちは視線を交わし合い、黙って頷いた。
兵士たちに囲まれたまま、駅を後にする。
王都の街並み。
石畳の大通りを進む彼らの姿は人々の目にさらされ、ざわめきが広がる。
「あれは……王弟ゼルガン殿……!」
民衆の囁きが重なり、ソーマの心臓は早鐘を打った。
クリスはソーマの袖を掴み、エルーナは真剣な表情で兵士の列を見つめる。
ただ、ゼルガンだけは一言も発さず前を向いて歩き続けていた。
やがて王城の大扉が開かれる。
高い天井、金と白を基調とした豪奢な大広間――
その玉座に、鋭い眼差しを宿した男が座していた。
アスガンド国王、ゼルガンの兄である。
「……久しいな、ゼルガンよ」
その声は低く響き、威圧感を伴って大広間に落ちた。
ゼルガンは一歩前に出て深く頭を垂れる。
「兄上……」
「国を捨て、王族の義務を投げ捨てたお前が……何をしに戻ってきた?」
国王の瞳には怒りとも憎しみともつかぬ色が宿る。
ゼルガンはその視線を受け止め、まっすぐに言葉を吐いた。
「頼みがある」
「頼みだと?」
国王は鼻で笑う。
「ソフィーを連れ出し、挙げ句の果てに守れもせず失ったお前が、何を今さら……」
冷酷な言葉に、大広間の空気が重く沈む。
ソーマは思わず前に出かけたが、ゼルガンの背中に阻まれる。
その背は震えていたが、彼は声を張った。
「ならば、俺のことはどうでもいい。だが、この者たちの願いを聞いてやってほしい」
ソーマは驚きつつも、一歩前へ。
「僕たちは……アスガンドからの正式な依頼で参りました。魔石の引き取りの件です!」
国王の目が鋭く細められる。
「魔石……」
クリスも頭を下げて続けた。
「依頼を受けてここまで来ました。どうか、取り次いでいただけませんか」
国王は玉座に深く身を沈め、顎に手を当てる。
長い沈黙――
広間に響くのは兵士たちの鎧のきしむ音だけだった。
やがて――
「……確かに依頼は受けている。だが……」
国王の渋い表情とともに落とされた言葉に、ソーマの胸はざわめいた。
ゼルガンは深く頭を垂れ、声を絞り出す。
「どうか、この若者たちに免じて……国の未来のために」
静まり返った大広間に、国王のため息が重く響いた。
その次の言葉が、この先を大きく変えることを――誰もが理解していた。
久々の再会は感動とはなるわけもなく……
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