80:守れなかった約束と、新たなフラグ
ジェミナスサーペントを討伐し帰還した翌日。
ソーマたちは、討伐の証を携えギルドの扉を押し開けた。
「おはようございます」
明るい声で迎えたのは、カウンターに立つメルマだ。
いつもと変わらぬ笑顔に、ソーマは軽く会釈する。
「依頼の達成を報告しに来ました」
差し出した依頼書を見て、メルマの目が驚きに見開かれる。
「えっ……もう終わったんですか? 一週間はかかると思っていたのに」
「新しい装備を試したくてね」
エルーナが微笑み、背中の蛇眼銃を軽く叩く。
「相手も二つ首でちょうど良かったぜ」
ジョッシュが拳を鳴らすと、メルマは呆れたように、それでいて嬉しそうに笑った。
「まったく……順調すぎて、逆に心配になりますね」
書類の確認を終え、メルマが印を押す。
「はい、これで正式に達成です。ご苦労さまでした」
「ありがとうございます」
ソーマは礼を言うと、少し間を置いてから続けた。
「……実は、僕たち近々アスガンドへ渡る予定なんです。もしそれに合わせた依頼があれば、受けたいのですが」
「アスガンドへ?」
メルマが小首を傾げた、その時――
「なら、ちょうどいい話がある」
低い声が奥から響く。
現れたのはギルドマスターのカルヴィラだった。
「カルヴィラさん……」
ソーマたちは姿勢を正す。
「実はアスガンドの王に依頼してある魔石がある。それを直接引き取ってきてほしい」
「魔石……?」
クリスが首をかしげる。
「ああ。特殊な魔石でな、何やらトラブルがあったらしく運搬に人手を割けないらしい。だからこそ信用できる冒険者に頼みたかった」
「俺たちに……?」
ソーマは思わず口にするが、カルヴィラは力強く頷いた。
「お前たちなら安心できる。アスエリスでも見事に依頼を果たしただろう。断る理由はないはずだ」
ジョッシュがいち早く声を上げる。
「いいじゃねえか! ちょうど向かうんだろ? 報酬も出るなら文句なしだ!」
エルーナも頷く。
「私たちにとっても好都合ですね。輸送の足も手配していただけるなら、なおさら」
「経費はすべてギルド持ちだ」
カルヴィラの言葉に、ソーマは深く息を吐いた。
「……分かりました。受けます」
「よし。正式に依頼として受理しよう」
カルヴィラの表情には、どこか安堵が浮かんでいた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌々日。
東の港、ライン行きの飛竜便乗り場。
巨大な翼竜たちが鎖につながれ、鋭い眼光で周囲を睨んでいる。
その翼は空を裂くほどに大きく、地を揺らす足取りには圧があった。
「また飛竜便に乗ることになるなんてな……」
ソーマが呟くと、隣でゼルガンが静かに答える。
「俺も久しぶりだ……だが、不思議と懐かしい」
その横顔には、どこか遠い過去を見ているような影が差していた。
「ソーマさん!」
弾む声に振り向くと、メルマとリンが駆け寄ってきた。
「お見送りに来ました!」
両手を振るメルマに、ソーマは思わず笑みをこぼす。
「ありがとうございます」
「当然です。担当ですから!」
胸を張る彼女の姿に、ジョッシュが吹き出した。
「ははっ、相変わらずモテモテだな、ソーマ!」
「やめろって……」
赤面するソーマを横目に、リンが前に出た。
「この間アスエリスから帰ってきたと思ったら、今度はアスガンド。……ソーちゃん、本当に休む暇がないわね。お姉ちゃんの心配も、ちゃんと考えてよ。お土産は……そうね、指輪でお願い」
からかうように笑うリンの声には、ほんの少し震えが混じっていた。
(……今は恋愛フラグの通知を切っているがもし切っていなければ……いやこれ以上はよそう……)
そんなリンの視線が、ふとゼルガンへと向かう。
その瞬間、彼女の表情が柔らかくなった。
「ゼルガンさん……いつもソーちゃんをありがとうございます。今回は一緒に行ってくれるなんて、本当に心強いです。どうかよろしくお願いします」
その声は柔らかく、それでいて胸の奥を揺さぶる力があった。
ゼルガンは一瞬だけ目を伏せ、無骨な顔にわずかな影を落とす。
ゼルガンは短く息を吐き、低く応えた。
「……ああ。心配するな。俺が必ず守る」
その声は、普段の無骨さの奥に微かな熱を宿していた。
(ゼルガンさん……)
ソーマはその横顔を見つめ、何とも言えぬ感情を覚えた。
無骨な職人の瞳に、確かに揺らぎがあったからだ。
「東港町ライン行き、出発のお客様は搭乗口までお越しくださーい!」
係員の声が響き、空気が動き出す。
ソーマたちは飛竜の籠に乗り込んだ。
鎖が外され、翼竜たちが羽ばたく。
「離陸準備――完了!」
大きな羽ばたき。
地が揺れ、視界が浮かぶ。
「いよいよだな!」
ジョッシュが拳を握る。
「アスガンド……待ってろよ!」
エルーナはライフルを抱きしめ、真剣な瞳で前を見据える。
「必ず成果を持ち帰るわ」
クリスは祈るように胸の前で手を組む。
「皆さんが無事に旅を終えられますように」
ソーマは背のクロークを握りしめ、力強く頷いた。
(これが次の大陸への第一歩……必ずやり遂げる)
そして最後に、ゼルガンが後ろを振り返った。
遠ざかる地上、まだ小さく手を振るリンの姿。
ゼルガンの胸に、抑えきれぬ想いが込み上げる。
(……すまなかった。だが今度こそ――)
低く、誰にも聞こえぬ声で呟く。
「……今度こそ守り抜く」
飛竜は大空を切り裂き、東の港町ラインへと舞い上がった。
鋼の大陸アスガンド――新たな冒険の幕が、今上がろうとしていた。
ゼルガンとリンの関係について語る事が出来る日まで書き続けようと思います。
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