77:未来を繋ぐフラグ
鍛冶屋の作業場に、鉄と油の匂いが漂っていた。
火炉の赤々とした炎が壁を照らす。
ソーマは荷袋から一枚の紙を取り出し、ゼルガンの前に差し出した。
「これが、俺が求める銃の形です」
紙に描かれたのは、つたない線で描かれた拳銃とライフルのイラスト。
実際の構造など分からないソーマにできるのは、あくまで形のイメージを伝えることだけだった。
ゼルガンは太い眉をひそめ、少し呆れたように鼻を鳴らす。
「……ほう。見た目はまぁ……分からんでもないがな。で、内部構造はどうなっているんだ? どういう用途で使われるんだ?」
図面を指で叩きながら、彼は問い詰める。
(そりゃそうだよな……俺だって本物の構造なんて知らないし、触ったことすらない)
ソーマは心の中で苦笑した。
「えっと……その、弾丸というのを込めて……引き金を引くと、それが前に飛んでいくんです」
曖昧に答えるが、ゼルガンの渋面は深まる一方だ。
「だんがん、ねぇ。そんな小さいもんをどうやって飛ばすんだ?」
「……それは、魔力をつかって、とか……」
言いながらも、ソーマの声は尻すぼみになっていく。
ゼルガンは腕を組み考え込む。
場の空気が行き詰まりかけた、その時だった。
ソーマはふと、工房の隅に転がっていた鉄パイプに目を留めた。
「……エルーナ、ちょっと協力してくれないか?」
振り返ると、エルーナはきょとんとしながらも小さく頷いた。
「ええ、分かったわ」
二人は工房の外に出て、試し切り用の訓練場に移動する。
ソーマは鉄パイプをエルーナに渡し、銃のように構える仕草を示した。
「あの時のようにこれを銃に見立てて魔力弾を撃ってみてくれ」
エルーナは両手でパイプを構え、静かに集中する。
次の瞬間、先端から青白い光が迸り、矢のような魔力弾が一直線に飛んだ。
木製の人形に命中し、焦げ跡を残す。
「……!」
ゼルガンの目が鋭く光った。
「なるほどな。魔力を収束させて、筒を通して撃ち出す……。矢とは違う直進性があるな」
ゼルガンは低く唸りながら頷く。
ソーマは息を整え、改めて口を開いた。
「本来なら、火薬で弾を撃ち出すのが銃。とりあえず欲しいのは、エルーナの魔力を弾丸にして撃つライフルの方です。こっちは外見さえ作れれば、最低限は機能すると思います」
ゼルガンは腕を組んだまま、しばらく黙り込んだ。
やがて、ふっと口角を上げる。
「……とりあえず、このライフルというやつが形だけなら作ってみよう。こっちの小さい方は……中身はどうにかなるだろう」
「俺が言うのもなんですけど今の説明だけで……大丈夫ですか?」
ソーマの胸の奥に、小さな希望の火が灯る。
「ただし、まだ調整は必要だ。とりあえず作ってみる、一週間後にもう一度来い」
「はい……!」
ソーマは深く頷いた。
(まずはここからか……一歩ずつだな)
鍛冶屋を後にしたソーマたちの心には、それぞれに新たな決意が芽生えていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
王都の石畳を踏みしめながら、ソーマは仲間に向き直る。
「さて、次は訓練所だな。ジョッシュの新しい戦い方……グラブを使った戦い方を試してみよう」
ジョッシュは豪快に笑う。
「おお、任せろ! どんな戦い方になるか、楽しみだな」
訓練所は広い石造りの空間で、木製の人形や標的が並んでいる。
ソーマはジョッシュに向かい、手作りのグラブを差し出した。
「これを使って……ちょっと俺に付き合ってくれ」
「おう。だが、何をする気だ?」
「ノックだよ。俺が打ったボールを、ジョッシュが追いかけてキャッチする」
「ノック……?」
ジョッシュは首をかしげる。
「まあ、やってみれば分かる。敵の攻撃がどこに来るかなんて分からないだろ? だから追いかける動きに慣れてほしいんだ」
そう言ってソーマは木球を取り出し、バットを構えた。
カキンッ、と乾いた音が響き、球が宙を舞う。
「おおっと!」
ジョッシュが駆け出し、グラブで受け止める。
慣れない動きに苦戦しつつも、ジョッシュの反射神経は確かだった。
「ふはは! なかなか面白ぇな、これ!」
汗を流しながらも、ジョッシュは少年のように笑っていた。
一方でクリスは、前回もお世話になった教官の下で盾の訓練をしている。
「盾の扱い、随分上達しましたね」
「まだまだです。もっと……もっと私がみんなを守れるくらいにならないと」
彼女は真剣な眼差しで盾を構え、繰り返し打撃を受け止めていた。
エルーナはというと、鉄パイプを銃に見立て、標的に魔力弾を撃ち込んでいた。
「あの時は夢中で気付かなかったけど矢と違って、風に流されない……でも狙いを定めるのに独特の感覚がいるわね」
それぞれの努力を見守りながら、ソーマは心の奥でじんわりと熱を覚えていた。
(俺たち、本当に少しずつ強くなってる……。これなら、これからの戦いもきっと……)
夕暮れが差し込み、訓練所に長い影が伸びる頃。
仲間たちは疲れ切りながらも、互いに笑顔を交わしていた。
「今日はここまでにしよう」
ソーマが汗を拭いながら告げる。
「装備が整うまで、しばらくは各々の鍛錬だ。力を蓄えておこう」
「了解だ!」
ジョッシュは大きく手を振り、クリスとエルーナも頷く。
その横顔を見ながら、ソーマは小さく拳を握った。
(まだ未知の力だけど……仲間と一緒なら、必ず乗り越えられる。銃も、グラブも、世界樹の杖も……全部が俺たちの未来に繋がるんだ)
そして心の片隅で、銃の完成を想像しつつ、小さく拳を握る。
(ゼルガンさんなら必ず形にしてくれるはずだ)
新しい装備と未知の力への期待を胸に、その日は静かに暮れていった。
何故銃を二つ作る依頼をしているのか。
男の子なら理解できるはずです。
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