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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第四章:観光気分? いいえ、運命のフラグです

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74:巣立ちのフラグ、陰りのフラグ

【ダークエルフの女王:ルーナ視点】


 高台からは港が一望できた。

 朝の光を浴びて、白い帆がきらめく。

 潮風が頬を撫で、遠く波音が絶え間なく響いてくる。


 その船に、私の()が乗っている。

 ――エルーナ。


(……もう十六年も経つのか)


 思い返せば十六年前の冬。

 冷たい雪に覆われた森の夜、彼女は私の元へと預けられた。

 理由は単純で、そして残酷だった。


「ハーフエルフなど穢れだ」

「純血の都に混じることは許されない」

「王家の血を汚した忌むべき存在」


 エルフの都では、彼女の存在は忌むべきものとされた。

 まだ赤子の彼女は、母からも抱かれずに離され――そうして私のもとへ託されたのだ。

 私はそれを拒まなかった。

 むしろ、私の腕の中で泣きじゃくる小さな体を、強く強く抱きしめた。


 その日から、エルーナは私の娘になった。

 笑いながら森を駆け回った日もある。

『どうして私は皆と違うの?』と叫んで、私の胸を叩いたこともある。

 そして――ギフトがわからずに涙を流した日もあった。


 その夜のことは今も鮮明に覚えている。

 震える声で『私には何もないんだ。だから捨てられたんだ』と呟いた幼いエルーナに、私は膝をついて目を合わせ、こう言った。


『たとえ見えなくても、ギフトは必ずお前の中にある。それは誰にも奪えない。……だから泣くな、エルーナ。私は信じている』


 ――その時の彼女の瞳。

 涙に濡れながらも、必死に光を求めていたあの眼差し。

 私は、あの眼を裏切ることだけは絶対にしないと誓った。


 そして今。

 彼女は自らの意志で旅立とうとしている。


 昨夜、『ソーマたちと共に行きたい』と告げられたとき、私は胸を締めつけられる思いだった。

 我が子を戦場へ送り出すような恐怖。

 けれど同時に、あの子の決意を曇らせたくはなかった。


 だから――賛成した。

 母としてではなく、ただ一人の女王として。

 巣立ちを認めてやらねばならないと思ったのだ。

 けれど胸の奥は、張り裂けそうに痛む。

 笑顔で背中を押した手は、今もかすかに震えていた。


「……本当に、行ってしまったな」


 私は小さく呟いた。

 隣に立つのは、一人のエルフ。

 長い金髪を風に揺らし、真っ直ぐに船を見つめている。

 その横顔には、強い感情を押し殺すような影が宿っていた。

 私は問いかける。


「……別れの言葉をかけなくて良かったのかい?」


 その声に、彼女は小さく息を吐き、苦笑を浮かべた。

 そしてゆっくりと首を振る。


「……その資格は、私にはありません」


 短い答えだった。

 だがその言葉の裏に潜む痛みを、私は知っている。


 彼女の瞳は、船に乗る小さな背を追っていた。

 声をかけたくてたまらない。

 だが許されない。

 抑えきれぬ未練と後悔が、彼女の沈黙を染めていた。

 私は横目で彼女を見やる。


「今回の一件でエルフの未来も変わるさ。……いつかは、話せるといいね」


 彼女は何も答えない。

 けれど、わずかに拳を握る仕草が、心の揺らぎを雄弁に物語っていた。


 海から吹き上げる潮風が、ふたりの間をすり抜けていく。

 それは温かくもあり、切なくもある風だった。


 ――親子の縁を拒まれた者。

 けれども、その想いは決して消えてはいない。


 私は目を細め、水平線の彼方へと消えていく帆影を見送った。

 潮風が吹き抜け、森の葉がざわめいた。

 その音はまるで、新たな旅立ちを祝福する拍手のように響いていた。


 けれど胸の奥で疼く予感は、決して晴れなかった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


【???視点】


 そこは蒸すような湿気に覆われ、濃い緑が辺りを支配している。


 その中心に立つ、一人の女。


 艶やかな黒髪を背に流し、血のように赤い衣をまとった美女。

 その姿は妖艶にして猛々しく、獲物を睨む蛇のように冷たかった。

 彼女の足元には、無残に引き裂かれた蛇の残骸が転がっている。


「……お気に入りだったのに」


 低く、吐息のような声がもれる。


 リヴァイアサーペント。

 自らの力の象徴であり、いずれ()に到達する為の器でもあった存在。

 それを失った痛みは、怒りと後悔を同時に呼び起こしていた。


「もっと忠告を聞くべきだったわね……」


 女は細い指で蛇の鱗を撫で、冷笑を浮かべる。


 だが、後悔に浸るだけでは済まされない。

 彼女には仲間がいる。

 他の大陸に散らばる、同じ志を持つ者たちが。


 女は懐から小さな蛇を取り出した。

 鱗は薄い青緑に光り、その瞳には奇妙な知性が宿っている。

 これは遠き地の仲間へと声を届ける道具。

 女は唇を寄せ、囁くように語りかける。


「……聞こえる? 冒険者に気をつけなさい。名前は――ソーマ。あいつこそ、私たちがこんな目に遭った()()よ。次は、あなたの番よ」


 蛇はわずかに口を開き、ひと鳴きしてから、するすると密林に溶けるように姿を消した。


 残された女は、空を仰ぐ。

 その瞳は遠く海の彼方を見据えていた。

 まるで、ソーマたちの旅路を嘲笑うかのように。


「……()()()、私の忠告を聞かないからこうなるのよ……」


 風が吹き抜け、木々の葉がざわめく。

 それは祝福の音ではない。

 嵐の予兆を告げる、不穏な鼓動だった。

 これにて第4章完結です!

 第4章も無事に毎日投稿する事が出来ました。

 色々書きたい事は活動報告にて書かせて頂きます。

 物語はこのまま第5章へと移ります。

 第5章も毎日更新目指して書き続けます。


※作者からのお願い


投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。


ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。

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