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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第四章:観光気分? いいえ、運命のフラグです

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73:恋愛フラグ――破壊しますか?

 謁見の間での一件が冷めやらぬまま、ソーマたちは女王エーメルに伴われて広間を後にした。

 その背に突き刺さるような視線は、畏怖と敬意、そしてまだ拭いきれない疑念が入り混じっている。

 応接間に案内され、女王が静かに口を開いた。


「……改めて、感謝を申し上げます。ソーマ殿、そして仲間の皆さま。あなた方がいなければ、世界樹は瘴気に侵され、我らエルフは滅びを迎えていたでしょう」


 言葉は厳かでありながら、確かな温かみを帯びていた。

 その声を合図に、従者たちが重そうな箱を運び込んでくる。

 ――ガチャン、と蓋が開けられる。

 中には金貨の光、そして世界樹にいた大蛇の素材がぎっしりと詰まっていた。


「これが報酬です。さらに、討伐した大蛇の素材も……革、鱗、牙、血。すべて希少で、国でも取り扱いに困るほどの代物となるでしょう」

「お、おい……こりゃ大金持ちじゃねぇか!」


 ジョッシュが目を丸くし、思わず身を乗り出した。


「鱗をオレのバットに貼りつけたら、最強だろ! 火も通さねぇし、剣すら跳ね返すかも!」

「……兄さん、浮かれすぎです」


 クリスが小さくため息をつきつつも、口元は緩んでいる。

 あの冷静な彼女ですら、珍しく嬉しさを隠しきれないのだろう。

 そして、さらに従者が慎重に両手で抱えたものを運んできた。

 それは淡い輝きを宿す一本の枝。


「……世界樹の枝……?」


 ソーマが呟く。

 枝はただの木片ではなかった。

 白銀の光をまとい、かすかに鼓動するような生命の響きを放っている。


「そうです」


 女王は深く頷いた。


「世界樹は救われたことで、自ら枝を一つ落としました。……これは世界樹が、あなた方に託すべきと告げている証。どうか、受け取ってください」


 ソーマは仲間たちと視線を交わし、両手で慎重に枝を受け取った。

 その瞬間、胸の奥にじんわりと熱が広がる。

 ただの枝ではない。

 ――世界樹そのものの生命力が、自分たちに触れ、刻まれていくような感覚だった。


「……必ず、大切にします」


 そう口にしたソーマの表情は真剣そのもので、女王もまた柔らかく微笑んだ。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 儀式めいた厳かな雰囲気はやがて解け、場は祝宴へと移った。

 精霊の光が森の木々に灯され、会場を優しく照らす。

 長いテーブルには森で採れた果実や野菜、きのこ料理や香草を使った肉料理が並び、芳醇な果実酒の香りが漂う。


「うおーっ、この野菜シャキシャキだ! 味付けもうめぇ!」


 ジョッシュは豪快に皿を空け、果実酒を片手に笑っている。


「兄さん、落ち着いてください……」


 クリスは呆れ顔ながらも盃を受け、ほんのりと頬を赤らめていた。

 彼女にしては珍しく、柔らかい笑みを浮かべている。

 一方、エルーナは――


「ソーマ、これ。森の木の実を煮たやつ……甘いんだよ」


 自分の皿から分けてソーマに差し出す。


「ありがとう」


 ソーマが微笑むと、彼女の耳がわずかに赤く染まった。

 その笑顔は、戦いのときの勇敢さではなく、年相応の少女のものだった。

 ふと、視線を感じて振り返る。

 宴の奥、銀髪と赤紫の瞳を持つ一人の女性が、静かにこちらを見つめていた。


「……ルーナ女王……」


 ソーマが名を呼ぶと、彼女はわずかに口角を上げて杯を掲げた。


「面白いものを見せてもらったわ。……人間も悪くないわね」


 それだけ言い残し、彼女は再び杯を傾ける。

 深紅の瞳に宿る光は、どこか探るようでもあり、興味を抱いているようでもあった。

 ソーマの胸の奥に小さなざわめきが広がる。

 この旅で得たものは、世界樹の枝や報酬だけではないのかもしれない――そう思わされた。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 翌朝。

 露に濡れた森を抜けると、女王エーメルが見送りに現れた。


「本当に、もう行ってしまうのですね」

「はい。長く世話になりました。また、機会があれば……」


 ソーマは深く一礼する。

 女王の転移魔法によって港へ送られると、目の前には碧い海が広がっていた。

 潮風が頬を撫で、遠くで白波が砕け散る。


「さぁ、船に乗ろうぜ!」


 ジョッシュが肩を叩いて笑う。

 その時。


「……待って!」


 振り返ると、そこにはエルーナが立っていた。

 彼女は息を整え、強い瞳でソーマを見据える。


「……わ、私も一緒に行きたい」

「……え?」


 ソーマは思わず声を漏らす。


「昨日のうちに、ルーナ様には別れを告げた。……もう後戻りはしない。私は……ソーマたちと旅がしたい」


 迷いのない言葉。

 その瞳に映るのは、まっすぐな決意だった。


「マジかよ……すげぇ決断だな」


 ジョッシュが口笛を吹き、クリスは複雑そうに眉を寄せた。


「エルーナ……本当にいいのですか?」

「うん」


 エルーナは静かに、けれどはっきりと頷いた。


「私、自分の居場所を……ソーマと一緒に探したい」


 ソーマは短い沈黙のあと、柔らかく笑った。


「……なら、歓迎するよ」


 その瞬間、エルーナの顔は一気に花開くように明るくなった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 帰りの船は穏やかな波を切って進んでいく。

 しかし――


「……う、ぐぅ……」


 甲板にうつ伏せるソーマの顔は真っ青だった。


「ソーマさん、大丈夫ですか? 水を……!」


 クリスが慌てて世話を焼く。


「待って! ソーマの世話は私がやる!」


 エルーナが譲らず、クリスと睨み合う。


「だめです! 私が!」

「何言ってるの、私こそ!」


 ふたりはソーマを挟んで小競り合いを始める。

 ジョッシュは頭を抱え、肩をすくめた。


「ったく……やれやれだな」


 波の音が心地よく響く中、ソーマはかすかに笑った。

 そして――脳裏に、あの文字が浮かぶ。


《クリスティーナとの恋愛フラグが発生しました》

《エルーナとの恋愛フラグが発生しました》


(……死亡以外のフラグもあるのかよ……)


 半ば意識朦朧としながらも、ソーマは苦笑する。

 船は、地平線へと進んでいった。

 第4章これにて完!

 ……もう1話だけ別視点で書かれた物語を書いて第5章へと続きます。


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