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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第四章:観光気分? いいえ、運命のフラグです

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72:未来へ繋ぐフラグ

 巨蛇の巨体が崩れ落ち、瘴気が霧散した空洞には、深い沈黙が広がっていた。

 ただ、残されたのは荒い息を吐く兵士たちと、血に染まった床、そして勝利の余韻。


「……はぁ、はぁ……」


 ソーマは剣を杖にして立ち尽くす。

 視界が霞み、全身の力が抜け落ちていく。

 重い……剣すら握ることができない。

 だが、ようやく終わった――その実感が胸を熱くする。


「ソーマ、大丈夫……?」


 エルーナが駆け寄り、必死に肩を支える。

 その手の温もりが、かろうじてソーマをこの場に繋ぎ止めていた。


 その時――

 奥の通路から重い足音が押し寄せてきた。


「っ……この気配……」


 クリスが盾を構える。

 だが現れた光景に、彼女の瞳が大きく揺れた。


 数十名を超える兵士たち。

 鋭い眼光を宿した精鋭のエルフたち。

 そして彼らを率いる、金の髪を戴いた一人の女性――荘厳な衣を纏い、王冠を戴いた姿は、まさに威光そのもの。


「……エーメル女王陛下……!」


 エルフ兵たちが一斉にひざまずく。

 エルフの女王、エーメル。

 冷ややかな月光のような瞳が、戦場を一望した。

 まずは、無惨に横たわる巨蛇の亡骸。

 次に、血に倒れ込む多くの兵士。

 そして最後に――この聖域にいるはずのない人間と、その仲間たちへ。


「……ソーマ殿……? それに……!」


 その小さな呟きには、驚愕と、警戒と、計り知れぬ感情が入り混じっていた。


「ま、待ってください! 私たちは――」


 エルーナが声を張ろうとした瞬間、ソーマの足が崩れた。


「ソーマ!」


 その身体が彼女の腕に沈み込む。

 視界が闇に呑まれる直前、ソーマの耳に、兵士たちのざわめきがかすかに届いた。


「なぜ人間が……」

「ハーフエルフだと!? なぜここに……」

「不敬だ、聖域に踏み入るとは……!」


(……やっぱり……か……)


 最後に浮かんだのは、エルーナの涙に濡れた横顔だった。


 ソーマの意識は、そこで途切れた。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 ……静かなぬくもりがあった。

 柔らかな布の感触に包まれ、遠くから小鳥の囀りが聞こえる。

 ――生きている。


「……ここは……」


 ソーマが目を開けると、見知らぬ天蓋の下にいた。

 白木で作られた荘厳な天井。

 壁には精霊を象った刺繍。

 ベッドの上に寝かされている。


 そして横を見ると、椅子に腰掛けたエルーナがいた。

 彼女はウトウトと眠っており、それでもソーマの手をしっかりと握っていた。

 その頬には、涙の跡がまだ残っている。


「……エルーナ……」


 名を呟くと、彼女の瞼がかすかに動き、はっと顔を上げた。


「ソーマっ!? 気がついたのね!」


 潤んだ瞳が輝きを取り戻し、ソーマの手をさらに強く握る。


「よかった……本当に……よかった……」

「……心配かけたな」


 ソーマは微笑み、弱々しく返す。

 その笑みに、エルーナの目から再び涙がこぼれた。

 その時――扉が開き、足音が近づいた。


「お、目ぇ覚ましたか!」


 ジョッシュが大きな声で飛び込んでくる。

 後ろには、静かに歩みを進めるクリスの姿も。


「……二人とも……」


 ソーマは上体を起こそうとするが、体はまだ重い。


「無理すんな!」


 ジョッシュが制止しながらも、安堵の笑みを浮かべた。


「まったく……最後に派手にやりやがって。見てるこっちは心臓が止まるかと思ったぜ」


 クリスも微笑むが、その瞳は赤く充血している。


「ですが……無事で何よりです。本当に……」

「……俺が倒れた後、どうなったんだ?」


 ソーマの問いに、ジョッシュが腕を組みながら答える。


「簡単に言うとだな……俺たちは保護って名目でここに連れてこられた。けど実際は――」

「軟禁状態、ですね」


 クリスが言葉を継ぐ。


「無断で聖域に足を踏み入れたのですから……当然の処置でしょう」

「……そうか」


 ソーマは苦笑し、深く息を吐いた。

 命懸けで戦った後だというのに、待っていたのは感謝ではなく疑念。

 だが、それも仕方ない。


「でも!」


 エルーナが声を張った。


「もしソーマたちがいなかったら、私たちはみんな……大蛇に……!」


 言葉が詰まり、彼女の手が震える。


「わかってるさ」


 ジョッシュが肩をすくめる。


「だが相手は女王陛下だ。感情だけでどうにかなる話じゃねぇ」


 クリスが神妙な面持ちで言う。


「それでも……ソーマが目を覚ましたと知れば、必ず面会があるはずです」


 予感はすぐに的中した。

 しばらくして部屋の扉が開き、恭しく頭を下げた従者が告げる。


「女王陛下がお呼びです。全員、謁見の間へ」


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 謁見の間は、精霊の息吹を思わせる神秘的な空間だった。

 天井からは淡い光が差し込み、白樹の柱が並び立つ。

 その中央に座すは――女王エーメル。

 左右には兵士や貴族たちが整列し、ソーマたちが進むたびにざわめきが広がった。


「聖域に侵入した人間が……」

「女王陛下の御前に立つなど……」


 だがエーメルの視線は、一点、ソーマたちに注がれていた。

 冷厳でありながら、決して敵意だけではない光を宿して。


「……よくぞ、戻りました」


 女王の声が響いた。

 透き通るような声音は、場を一瞬で静める。


「この世界樹を覆った災厄を退けたのは……確かに、そなたたちの力であると報告を受けています」


 兵士たちがざわついた。

 だが女王は手を上げ、場を制した。


「人の子であろうと、ハーフエルフであろうと……結果は揺るがぬ。世界樹を護った勇気に、感謝を捧げる」


 その言葉に、ソーマの胸が熱く震えた。

 称賛であると同時に、試されている――そんな感覚。


「……ありがとうございます」


 ソーマは深く頭を下げた。

 だが女王の瞳は鋭さを増す。


「だが同時に問います。なぜ、聖域に踏み入ったのですか?」


 張り詰めた空気が謁見の間を覆う。

 ソーマは迷わず答えた。


「俺たちは……ただ、エルフの皆さんを助けるために来ました。そして結果として、世界樹を救えた。理由は――それだけです」


 沈黙。

 やがて女王は目を閉じ、長く息を吐いた。


「……その言葉に偽りはないようですね」


 再び瞳を開き、会衆に向かって告げる。


「人と我らは長きにわたり隔たりを抱えてきました。だが――今日、ここに一つの事実が示されました」


 その声が謁見の間に響き渡る。


「異なる種族であろうと、力を合わせれば災厄を退けられる。ならば我らは考えねばなりません。憎しみではなく、共存の未来を」


 ざわめく兵士たち。

 反発も、驚きも、しかし確かに揺らいでいる。

 女王はソーマたちをまっすぐに見据え、静かに微笑んだ。


「――よくぞ、アスエリスを守ってくれました。ありがとうございます」


 その言葉に、ソーマは胸の奥から込み上げる熱を抑えられなかった。

 長き隔たりの先に、ほんのわずかだが新たな道が見えた気がした。

 これがきっかけとなりエルフの未来は変わるのでしたとさ。

 めでたしめでたし。

 第4章もうちょっと続きます。


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