71:死亡フラグを撃ち抜く銃火
巨蛇の咆哮が、空洞を震わせた。
耳をつんざく音が岩盤を震わせ、天井から崩落した瓦礫が雨のように降り注ぐ。
その巨体からはなおも瘴気が吹き荒れ、視界を歪ませる。
地を穿ち、壁を砕く暴威――まさに終末の象徴。
だが――ソーマたちの胸には、先程放たれた銃の光が、確かに焼き付いていた。
未知の武器。
異世界に存在しないはずの銃。
それが、エルーナのギフトだったのだ。
「……エルーナのギフトが、銃……」
ソーマは荒い息を吐きながら呟いた。
剣を握る手は震えていたが、その瞳だけは冴え渡っている。
「なら、最後の一撃を任せられるのは……エルーナしかいない!」
「わ、私が……とどめを……?」
エルーナの蒼瞳が揺れる。
恐怖、困惑、そして……震える期待。
彼女自身も気付いている。
自分の中に眠っていた力が、いま覚醒し始めていることを。
「そうだ」
ソーマは頷き、血に濡れた剣を支えに立ち上がった。
「ダンジョンコアに直接撃ち込む。あれを破壊しない限り、この蛇は何度でも再生する。俺が……俺たちが道を開く。エルーナ……君が撃ち抜け!」
エルーナの胸が大きく上下する。
躊躇いが消えていく。
「……うん!」
震えを超えた声が響いた。
しかし――問題は残されていた。
「時間を稼ぐ必要があるな」
ジョッシュが血まみれの腕で口元を拭い、息を吐いた。
「お前とエルーナが魔力をチャージしてる間、こいつの攻撃を止めなきゃならねぇ」
「そのために……みんなの力が要る」
ソーマは視線を巡らせる。
瘴気に倒れかけていたエルフ兵士たちが、なお武器を手に立ち上がろうとしていた。
「エルフの皆さん!」
ソーマが叫ぶ。
「今からあいつを倒す為の一撃を準備します! それまで援護を頼みます!」
しかし、返ってきたのは怒号だった。
「ふざけるな! 人間ごときに……!」
「ハーフエルフに力を貸せだと……?」
剣を杖のように支える兵士が、血を吐きながら唸る。
「こんな状況でなければ……貴様らを信じるなど……」
「だったら選べ!」
ソーマが怒鳴った。
「誇りのために全滅するか! それとも憎い相手と手を取り、未来を繋ぐか!」
沈黙が落ちる。
ソーマの声は血を吐くほどの叫びであり、しかし真実そのものだった。
「……未来を、繋ぐ……」
一人の若いエルフ兵が弓を構えた。
「俺は戦う! この森を護るために!」
その声に続き、数人が武器を掲げる。
「仕方ない……今だけだ」
「人間でも、ハーフでも……今は仲間だ!」
確かな決意が広がり、戦場の空気が変わった。
「……助かる」
ソーマは低く呟き、隣のエルーナの肩に手を置いた。
「行こう。俺たちの全てを込めるんだ」
巨蛇の尾が唸りを上げ、暴風を巻き起こして薙ぎ払う。
「来やがれぇぇぇ!」
ジョッシュが咆哮し、バットを構える。
「魔球に炎が込められるなら……バットにだって込められるだろ!」
轟――ッ!
炎を纏ったバットのフルスイングが炸裂し、蛇の尾を弾き返す。
空間を揺らす炎の波が広がる。
その瞬間、ジョッシュの視界にウィンドウが走った。
《スキル:炎のスイング が解放されました》
「……みたか! 俺の炎の一振りを!」
振るたびに火炎が尾を焼き、蛇の動きが鈍る。
「兄さん、無茶を……!」
クリスが盾を掲げ、叫ぶ。
「【セイクリッドシールド】!」
光の障壁が展開され、瘴気の奔流を遮断する。
クリスの顔からは大粒の汗が落ちる。
「ぜ、全力で……あなた達を守りますから……!」
同時に、エルフ兵たちの詠唱が重なった。
「【ストーム】!」
「【アースランス】!」
「【ファイアストーム】!」
兵士たちの矢と槍、魔法兵の魔法がが次々と巨蛇を貫き、その巨体がたわむ。
蛇が暴れる。
だが、次第にその動きは制限され、ついに体勢を崩す。
「ソーマ、今だ……!」
ジョッシュの声が飛ぶ。
「わかってる!」
ソーマは残りの魔力を込めた蜂王剣を構えた。
刃は振動し、光の奔流が漏れ出す。
「これで……道を開く!」
ソーマは雄叫びと共に突撃し、鎧蜂の力で跳躍する。
「――俺の残りの魔力……全部持っていけ!【スティングフルバースト】!」
――轟爆。
真紅の閃光が奔り、巨蛇の胸部を切り裂いた。
肉が弾け、瘴気が爆発し、その奥に青白く輝くものが露わになる。
「……コアが見えました!」
クリスが叫んだ。
「エルーナ!」
ソーマは振り返り、全力で叫ぶ。
「今だ、撃ち抜けぇぇ!」
「……っ!」
エルーナの瞳に決意の炎が宿る。
即席の銃――世界樹の根を握り、全魔力を注ぎ込む。
「過去の私は……もう要らない!」
蒼光が銃口に収束する。
「撃ち抜くのは……未来のための、魔弾! 私の全部……持っていけぇぇぇ!」
空気が裂けた。
蒼炎の魔弾が解き放たれ、一直線にコアへ突き進む。
――ズガァァァァンッ!!
光の奔流がコアを貫き、深い亀裂を走らせた。
巨蛇が断末魔の咆哮を上げ、天井が崩れ、地面が揺れる。
「……やった、のか……?」
ジョッシュが膝をつき、呟く。
《アストレイ、エルーナ、エルフ兵士たちの死亡フラグが破壊されました》
巨蛇の巨体が崩れ落ち、瘴気が霧散する。
コアは砕け、光の粒となって虚空に溶けていった。
静寂が訪れる。
残ったのは、仲間たちの荒い息と、勝利の余韻だけ。
「……ふぅ……」
ソーマは剣を支えに立ち尽くし、深く息を吐いた。
「……撃ち抜いたな」
「うん……!」
エルーナの頬を涙が伝い、笑みが零れる。
「みんなの力で……未来を繋げたよ!」
崩壊するはずだった戦線は守られた。
最後の死亡フラグは――撃ち抜かれたのだ。
第4章のボス撃破!
※作者からのお願い
投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!
お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。
ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。




