70:撃鉄のフラグ、解放の瞬間
黒曜石のような巨蛇がのたうち、空洞全体が揺れた。
地鳴りと共に飛び散る瘴気が肌を焼き、肺を蝕む。
《提示:エルーナのギフトでコア破壊してください》
(やっぱり……鍵は彼女だ!)
ソーマは胸の奥が熱くなるのを感じた。
フラグ解析が示す因果の糸が赤く瞬き、彼の選択を急かす。
「エルーナ!」
剣を握る手に力を込め、ソーマは叫んだ。
「君のギフトは……【銃】だ!」
「じゅ……じゅう……?」
エルーナの蒼い瞳が揺れる。
聞いたこともない単語に、戸惑いが露骨に浮かんでいた。
「この世界には存在しない武器だ……だから君も読めなかったんだ!」
ソーマは荒い呼吸のまま続ける。
「弓とは違う。矢を必要とせず、弾丸を発射し敵を撃ち抜く武器だ!」
「だん……がん……?」
エルーナは呟いた。
「撃ち抜く……矢じゃなくて……だんがんで?」
ソーマは周囲を走り回る視線で探した。
――見つけた。
世界樹の根の断片。
偶然か、それは前世で見たライフル銃のような形に枝分かれしていた。
「これだ!」
ソーマはその世界樹の根を掴み、エルーナの手に押し付ける。
「イメージするんだ。これを銃だと思え! 狙いを定め、弾丸……魔力を一点に凝縮して放つ……君ならできる!」
「私が……?」
エルーナは震える声を漏らす。
「でも……そんなもの、本当に……」
「できる!」
ソーマは断言した。
「君の矢は誰よりも正確だ。その眼と心はもう備わってる。あとは撃ち出す手段を与えるだけだ!」
その言葉に、エルーナの胸が熱く揺れた。
だが次の瞬間、巨蛇が尾を振り下ろす。
「来るぞ!」
ジョッシュが盾代わりのバットを掲げ、咆哮を上げながら受け止める。
「ぐぅっ……! 早くしろ、エルーナ! こっちは長くもたねぇ!」
「クリス!」
ソーマは叫ぶ。
「もう少し時間を頼む! 盾を張ってくれ!」
「はい……! 【セイクリッドシールド】!」
光の障壁が展開され、瘴気の奔流を押しとどめる。
ソーマはその隙に、エルーナの肩を掴んだ。
「いいか……狙いは鱗の継ぎ目だ! とっておきの矢を放つ時のように魔力を込めろ。ただし、弓じゃなく――銃だ!」
「……銃……」
エルーナは世界樹の根を強く握り、震える息を吐いた。
蒼い瞳が一点を射抜く。
「……撃つ!」
瞬間、彼女の掌から光が爆ぜた。
鋭い魔力が弾丸となり、轟音を伴って一直線に巨蛇を貫いた。
ズガァァァン――ッ!
黒曜石の鱗が砕け、肉が裂け、血と瘴気が飛び散る。
「や、やった……! 本当に……通った!」
エルーナの声は驚愕に震えた。
《スキル:魔力弾 が解放されました》
エルーナの視界に走るウィンドウが、鮮烈に光る。
「これだ……やっぱり君のギフトは銃なんだ!」
ソーマが叫ぶ。
「わ、私のギフト……銃……」
エルーナの胸に熱が走った。
だが巨蛇はまだ生きていた。
憎悪に満ちた咆哮と共に、瘴気の津波を吐き出す。
「まだ……終わらせない!」
エルーナは息を荒げ、再び魔力を収束させる。
「今度は属性を込めろ!」
ソーマが声を飛ばす。
「矢に炎や氷を込めてきただろ! 同じように、魔力弾に属性を宿せ!」
「やってみる!」
エルーナは世界樹の根を銃のように構え、瞼を閉じて魔力を練る。
指先に蒼い光が集まり、空気が一瞬で凍りついた。
放たれた弾丸は氷の結晶をまとい、巨蛇の胴体を撃ち抜く。
ギギギギッ――と音を立て、巨体が凍結し動きが鈍った。
「効いてる!」
ジョッシュが吠える。
「動きが止まったぞ!」
「次は……雷!」
エルーナは再び魔力を込め狙いを定めて放つ。
紫電が弾丸に凝縮し、蛇の首筋を撃ち抜く。
ズドォン――ッ!
巨蛇の巨体が痙攣し、吐き出す瘴気が乱れる。
「これなら……!」
クリスが瞳を輝かせる。
「勝機があります!」
だが――巨蛇は狂乱した。
暴れ狂う尾が空洞の壁を砕き、岩片が雨のように降り注ぐ。
「くそっ……! まだ……倒れねぇのか!」
ジョッシュがバットを構えながら血を吐く。
「エルーナ! 続けろ! お前の弾ならこいつを仕留められる!」
「……うん!」
エルーナは頷いた。
その瞳にはもはや迷いはなかった。
銃を模した世界樹の根を胸元に抱き、息を整える。
《スキル:属性弾 が解放されました》
視界に鮮烈な文字が踊る。
ソーマの鼓動が速まった。
(これが……エルーナの本当の力……!)
巨蛇の咆哮が空洞を揺らす。
だが今度は、誰も怯えなかった。
新たな銃火が戦場を切り開こうとしていたからだ――
ネタバレ!
次回大蛇撃破!
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