7:魔道具説明回(禁断の恋愛フラグは立ちません)
メメさんがギルドマスターの部屋に向かっている間、俺は今夜の寝床について頭を抱えていた。
(……ユーサーたちに会いたくなくて猪熊亭を飛び出したのはいいけど、今夜どうするかなんて全然考えてなかった…… おかみさんには『また笑って迎え入れて』なんてカッコつけたセリフ言ったけど、数時間後にしれっと戻るのは流石にダサすぎるよな……)
新しい宿を探そうにも、ギルドマスターとの面談がどれくらいかかるか分からない。
終わってから探しても空きがある保証はないし、受け付け自体が終わってる可能性もある。
今のうちに探そうにも、『勝手に出るな』と釘を刺されたばかりだし、それもできない。
(……この手はあまり使いたくなかったけど、もう背に腹は代えられない。てか、何より――腹が……減った……)
(ポン→ ポン↗ ポン↑)
俺は懐から魔道具を取り出す。
魔法ギルドによる技術の進歩で、俺たちの生活は昔と比べて劇的に変化した。その象徴が、魔力を込めて使用する“魔道具”と呼ばれるアイテムだ。
かつては戦闘用の武器やアクセサリーが主流だったが、今では調理器具や照明器具など、日常生活に欠かせない便利グッズとして広く普及している。
俺が手にしたのは、携帯型の魔道通信機。遠く離れた人とメッセージのやり取りができる優れモノだ。
昔は固定型でバカみたいにデカかったらしいが、今ではポケットに入るサイズにまで小型化されている。
機種によって機能が異なり、文字のやり取りのみのもの、通話可能なもの、さらには映像通話が可能な高級機も存在する。
俺の持っているのは、姉さんが冒険者になったお祝いにくれたシンプルなメッセージ専用モデルだ。
もちろん機能が少ない分、利点もある。
通話や映像通話機能付きの魔道具は、それだけ魔力の消費も大きくなる。
冒険者である俺たちは、戦闘以外の魔力消費はできる限り控えたい。
まぁ、俺は他の人より魔力量が多いらしいが、スキルで魔力を使えないので宝の持ち腐れ状態だ。
そのため、ユーサーたちの魔道具の魔力チャージ担当にされていた。
俺が今、連絡を取ろうとしているのは、王都の商業ギルドに勤めている三つ上の姉――リンだ。
ギフト【鑑定】を持っており、学園卒業と同時に就職難と言われる商業ギルドへの内定を決めた、いわゆるエリート。
王都で一人暮らし中、未婚、恋人なし。
だから、泊まるくらいは問題ない……はずなのだが。
問題なのは”別の理由”で、できれば頼りたくなかった。
でも、今は選んでいられない。
俺は、魔道通信機にメッセージを打ち込んだ。
『姉さん久しぶり。急で悪いんだけど、今夜泊めてもらうことってできるかな? お腹も空いてて、何か食べられる物があれば助かる。これから用事を済ませてから向かうから遅くなるかもしれない。無理なら気にしないで』
送信─
(……まぁ、この後の用事が終わる頃には返事も来てるだろ)
『ピロン』
(早っ!?)
恐る恐る、姉からの返信メッセージを確認する。
『ソーちゃん久しぶり!元気にしてた?最近アイツらが無茶してるって商業ギルドでも話題になってて、ソーちゃんが巻き込まれてないかお姉ちゃんすごく心配してたよ!でも!連絡くれて嬉しい!お姉ちゃんは元気出たよ!困った時に頼るのは家族だよね!もちろん泊まり大歓迎!ていうか一泊と言わず、ずっといてもいいよ?ソーちゃんのお泊りセットはいつでもOKなように用意してあるし、ベッドは一つしかないけど一緒に寝てもお姉ちゃんは全然平気だからね♡ご飯もソーちゃんの好きなもの作って待ってるから安心して!終わったら連絡ちょうだいね!愛してるよソーちゃん♡♡♡』
(……うわぁ……)
送って数秒でこれ。毎回のことながら、濃すぎる。
姉リンは、重度のブラコンである。
小さい頃はそこまででもなかった気がするが、成長するにつれてその度合いは右肩上がり。
姉が学園に入寮してからは、魔道通信機で毎日1時間の通話が義務のようになり、俺も根負けして付き合っていた。
俺が学園に入った時にはさらに拍車がかかり、『会えなかった時間が二人の愛を強くしたのよ!』ブラコン度にますます磨きがかかっていた。
寮が男女で別れていることに『家族を引き裂く気か』と管理人に詰め寄り、時間を決めて俺の部屋に滞在する許可をもぎ取ったのも今ではいい(?)思い出だ。
俺のギフトが詳細不明と分かった時は、『私が鑑定してあげるから大丈夫!養ってあげる覚悟もできてるから!』なんて言ってくれたこともあった。
……当時の俺は、その言葉にちょっと感動してしまったんだ。
あの頃は、まだ純粋だった。
そんな猪突猛進型の姉を、正直ちょっと苦手ではあるが――嫌いではない。
これが他人だったらいろんな意味で終わってたと思うので、家族で良かったと心から思う。
姉とのやり取りがひと段落した頃、メメさんがギルドマスターの部屋から戻ってきた。
「ソーマさん、お待たせしました。ギルドマスターがお話があるそうです。……あの、顔がちょっと疲れてる気がしますけど……大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫ですメメさん。案内、よろしくお願いします」
どうやら顔に出ていたらしい。
俺はメメさんの後を追い、ギルドマスターの部屋へと向かった。
おかしいな?
最初の予定ではギルマスと話し始めてではこうしようの辺りで終わるはずが怪文書を書き上げてしまっていた。
書きたい言葉は書けたので後悔はしていない。
後「それぞれの」も新しい視点で嫌いではないし「劇映画」も見に行く位には好きですが今年はいつもの孤独を見たい作者です。
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