67:地下に潜む蛇とフラグ
エルーナに導かれ、ソーマたちは王都の外縁を離れ、森の奥へと足を進めていた。
夜の帳が落ちる頃、森はしんと静まり返り、風に揺れる枝葉のざわめきさえ不気味に感じられる。
「……こんなに暗い森でも、世界樹の根元が近いせいか、不思議と方向を見失わないな」
ジョッシュが低く呟く。
「ええ。あの巨木が中心にあるおかげでしょう。重力のように意識が引き寄せられる感覚です」
クリスもまた杖を強く握りしめ、緊張を隠さずに辺りを見渡した。
やがて、エルーナが足を止める。
古びた巨岩の裂け目、その奥に闇へ続く隙間が口を開けていた。
「ここよ」
エルーナが振り返り、静かに告げる。
「この奥に、地下空洞へ通じる抜け道がある。でも……」
彼女の表情が曇り、言葉が少しだけ重くなる。
「中は狭く、暗く、そして……蛇が好む湿った気配に満ちている。準備はいい?」
「もちろんだ」
ソーマは迷いなく頷いた。
「ここで立ち止まるくらいなら、門前払いされた時に引き返してる」
「お前はほんと引くことを知らねぇな」
ジョッシュが苦笑混じりに肩をすくめる。
「……まあ、そこがいいとこでもあるんだが」
「行きましょう。蛇が相手なら兄さんの炎の魔球が有効なはず。私も準備はできています」
クリスもまた、小さく息をつき、覚悟を固めた。
四人の決意が重なり、彼らは裂け目の奥へと足を踏み入れた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ひんやりとした空気が一行を包む。
狭い岩の隙間を抜けた瞬間、湿った土の匂いが鼻を突き、滴る地下水の音が響いた。
「……ジメジメして気味が悪ぃな」
ジョッシュが顔をしかめる。
「静かすぎます。……魔物が潜んでいる気配がします」
クリスの声が震える。
その直後――
シャアアア……と、不気味な音が四方から響き渡った。
「来るぞ!」
ソーマが声を張り上げる。
闇の奥から、無数の蛇が這い出してきた。
体長一メートルに満たないものから、人の背丈を軽く超えるものまで。
赤く光る瞳が闇に浮かび、鱗は湿った光を反射して不気味にうねる。
「げっ……数、多すぎだろ!」
ジョッシュがバットを構える間もなく、蛇たちは一斉に飛びかかってきた。
「結界展開! 【セイクリッドバリア】」
クリスの結界が展開され、蛇たちが体勢を崩す。
だが、後ろから次々と這い出してきて、数は減るどころか増しているように見えた。
「森と違ってここなら遠慮なくいけるな!火の玉ストレートォッ!」
ジョッシュの炎の魔球が炸裂。
爆炎に十数匹が巻き込まれ、焦げた匂いが立ち込める。
「はっ!」
ソーマはクリスの加速補助を受け、ロングソードを振り抜いた。
鋭い斬撃に数匹の蛇が吹き飛ぶ。
「私も援護する!」
エルーナが弓を引き絞り、矢が蛇の急所を正確に射抜いた。
「おお、やるじゃねぇか!」
ジョッシュが笑みを浮かべ、渾身の一撃で蛇の頭を叩き潰す。
「数が多すぎる……! 全員、下がれ!」
ソーマが叫ぶ。
ジョッシュが炎の魔球を連発し、エルーナの矢が敵の動きを止め、ソーマがその隙を突いて斬撃を繰り出す。
しかし――
「っ……大きいのが来ます!」
クリスが叫んだ。
奥から現れたのは、胴回りが人の胸ほどもある巨大な蛇。
鱗は鉄のように硬く、舌をチロチロと動かしながら威嚇する。
「こいつは俺がやる!」
ジョッシュが吠え、バットを振り下ろす。
鈍い音と共に蛇の頭部を叩くが――鱗に阻まれ、致命傷には至らない。
「チッ……硬ぇ!」
「私のとっておきを見せてあげる!」
エルーナが先程まで使っていたのとは別の矢に集中すると矢に氷が纏われた。
「【氷の矢】!」
エルーナの放った矢が蛇の頭部を凍りつかせる。
「今だ!――弾けろ、【スティングバースト】」
ソーマが魔力を込めた蜂王剣がその氷ごと頭部を粉砕した。
「ふぅ……」
息を整えるソーマ。
「やっぱ連携しなきゃ厳しいな」
「それにしてもさっきの氷助かったぜ!でも魔法使えないんじゃなかったのか?」
ジョッシュが興奮しながらエルーナに問いかける。
「魔法は使えないけど魔力はあるって言ったでしょ?この矢はドワーフの特注品で込めた魔力の属性の矢を放つ事ができるの。数は限られてるからとっておきなんだけどね」
その言葉の直後――
「奥から、まだ来ます!」
クリスが鋭く叫んだ。
闇の奥から、さらに十数匹の蛇が姿を現す。
「止まっててもキリがない! 進むぞ!」
ソーマが叫ぶ。
四人は背を合わせ、進みながら戦った。
ソーマの剣が群れを切り裂き、ジョッシュの炎が道を切り拓き、クリスの魔法が盾となり、エルーナの矢が正確に敵を射抜く。
「下っ! 足元狙ってきます!」
クリスが光弾を放ち、絡みつく小蛇を弾き飛ばす。
「助かった!」
ジョッシュが叫びながら、さらに炎を放つ。
戦いは苛烈さを増し、進めば進むほど蛇の数は増え、不気味な気配も濃くなっていった。
「……血の匂い?」
ソーマが顔をしかめる。
「俺も感じる……嫌な匂いだ」
ジョッシュも同じ違和感に気づいていた。
湿った空気の奥に、鉄のような血臭が漂っている。
(この奥に、もっと大きな……何かがいる)
ソーマは強く息を吐き、剣を握り直す。
「行こう。ここで引いたら、兵士たちの死亡フラグは現実になる。俺たちが止めなきゃ」
その決意に、ジョッシュもクリスもエルーナも力強く頷いた。
こうして彼らは、蛇の群れを撃退しながら――さらに地下深く、不穏な気配の源へと進み続けた。
テンポ重視でサクサク進ませます。
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