65:女王の瞳に映るフラグ
白亜の謁見の間は、息を呑むほどの静寂に包まれていた。
女王エーメルの澄んだ声が響くと、空気はさらに張り詰め、周囲のエルフたちの視線が鋭く突き刺さる。
「――面を上げよ」
促されて顔を上げたソーマたちは、その冷ややかでありながらも清廉な瞳に射抜かれる。
ジョッシュがごくりと喉を鳴らし、クリスは思わず胸に手を置いた。
「ソーマ殿一行、であったな」
女王の声は透き通っているのに、重石のように心に響く。
「は、はい」
ソーマは思わず背筋を伸ばした。
その時、女王の傍らに控えていた側近の一人が一歩進み出る。
「陛下、この者たちをこれ以上引き留める必要はございません。異種族と通じているなど、王都の民の不安を煽るだけにございます」
途端に、周囲のエルフたちからも同意の声があがった。
「そうです、女王陛下!」
「異種族など信用できません!」
「ダークエルフの推薦状など持ち込むなど、何を企んでいるのやら!」
ソーマたちを囲む空気が、一気に敵意で満ちていく。
ジョッシュは拳を握り、クリスは怯んだ様子を見せた。
「……!」
ソーマは言葉を探そうとしたが、女王が静かに片手を上げただけでざわめきはぴたりと止んだ。
「……この場では話せぬこともあろう。別の部屋へ移そう」
その一言に、謁見の間全体がざわついた。
「陛下!? そのような――」
「人間ごときに、陛下直々に……!」
反対の声が渦巻く。
だが、女王の瞳が冷ややかに細められると誰も言葉を続けられなかった。
「決めたことだ。異論は許さぬ」
静かな威圧感が場を制し、ソーマたちは護衛の兵に導かれる形で別室へと案内された。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
移動した先は、広すぎず狭すぎもしない、上品に整えられた応接室だった。
厚い扉が閉じられると、外の騒めきは遠ざかり、静寂が支配する。
そこには既に女王エーメルと一人のエルフが待っていた。
女王は玉座ではなく、同じ高さの椅子に腰を下ろし、静かにソーマたちを見つめる。
「……まずは謝罪を」
女王は頭を僅かに下げた。
「えっ……!? 陛下が……」
クリスが目を見開く。
「君たちの依頼――アスヴァル国からの紹介状は、確かにこの王城へは届いていた。だが、私の手元には渡されなかった。部下の判断により、門前払いとされたのだ」
「……」
ソーマは思わず言葉を失った。
女王は静かに続ける。
「異種族を遠ざける。人間を疑い、耳を貸そうとしない。……今の我が国は、そのような空気に覆われている。それは、王である私にとって大きな憂いだ」
その声には冷たさではなく、苦渋が滲んでいた。
「陛下……」
クリスが小さく呟く。
「私は、異種族に抵抗はない。エルフも人間も、根はそう変わらぬと知っているからだ。……だが、民の意識を変えることは容易ではない」
エーメル女王はソーマを真っ直ぐに見据えた。
「君たちには迷惑をかけたな」
「い、いえ……」
ソーマは咄嗟に首を振った。
――この女王は、少なくとも敵ではないと感じられた。
ジョッシュも肩の力を抜き、クリスは安堵の息を漏らす。
控えていたエルフが咳払いをし、話題を変えた。
「それで……陛下。件の世界樹の件について、この者たちに伝えてもよろしいでしょうか」
「……ああ」
女王は表情を引き締め、言葉を紡いだ。
「君たちが見たいと言っていた世界樹。実は、現在異常が発生している」
「異常……?」
ソーマが眉をひそめる。
「世界樹の根元から、蛇の魔物が大量に発生しているのだ」
「蛇……!」
ジョッシュが声を荒げる。
クリスも思わずソーマに視線を向けた。
――やはり、あの旅の途中で頻発した蛇の襲撃は偶然ではなかったのか。
「詳しい原因は未だ不明だ。だが、放置すれば都を脅かすことは間違いない。……だが、世界樹は聖域。いかに君たちといえど、そこに踏み込ませるわけにはいかぬ」
「……」
ソーマは唇を噛んだ。
そこに核心があるのは分かっている。だが、それでも踏み込めない。
「だが、入口の結界の向こうまでは許そう。そこまでならば、調査の許可を出す」
「ありがとうございます……!」
クリスが胸に手を当てて深々と頭を下げる。
「礼には及ばぬ。これが今の私達にできる精一杯なのだから」
女王の声音は硬いが、どこか信頼を含んでいた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
退出の際、ソーマが部屋を出ようとした時だった。
「……ソーマ殿」
背中に女王の声がかかる。
振り返ると、エーメル女王がじっとこちらを見つめていた。
その瞳には、冷たさではなく、どこか懐かしさが宿っている。
「……いえ。なんでもない」
女王は小さく首を振った。
ソーマは戸惑いながらも軽く頭を下げた。
――なぜ、あの人は俺を見て、懐かしそうな目をしたんだ?
疑問を胸に抱えたまま、ソーマは仲間の待つ廊下へと歩みを進めた。
世界樹の謎が、ついに彼らの目の前へと開かれつつあった。
エーメル女王が元勇者パーティーって設定ゼルガンの回想で言ってたからそこまで踏み込みませんが元々は異種族嫌っていたが一緒に旅をして異種族に対する意識が変わったって事で。
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