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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第四章:観光気分? いいえ、運命のフラグです

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56:アスエリスへの道筋とフラグの影

 酒場の木の扉を押し開くと、むわりとした煙草の香りと、酒に酔った人々のざわめきが一行を包んだ。

 厚い木の床は何十年も踏みしめられてきたのか軋みを上げ、天井近くに漂う煙が燭台の炎に揺れている。

 鼻をつく埃っぽさと酒の香りが混ざり合い、いかにも港町の酒場という雰囲気だ。


 ソーマたちは人々の間を縫うようにして奥のテーブルに腰を下ろした。

 周囲を見渡すと、客の大半は人間やドワーフ、トカゲのような鱗を持つ亜人たち。

 だが、噂の長い耳を持つエルフの姿はほとんど見当たらなかった。


「……落ち着きませんね」


 クリスが小声で呟く。


「まあ、情報を集めに来たんだ。酔い潰れる前に話を聞ければ御の字だろ」


 ジョッシュが肩をすくめて杯を頼む。

 壁に掛けられた燭台の明かりが暗がりをほんのり照らし、酒場のざわめきの中、ソーマは声を潜めた。


「さて、情報は得られるかな……」


 そのとき、隣の席の男がちらりと視線を寄越してきた。

 髭を伸ばし、顔つきは荒っぽいが、目は妙に澄んでいる。

 どうやら常連らしい。

 ソーマは思い切って声をかけた。


「すみません、翠大陸の中心――世界樹がある都アスエリスへ向かう道について、何かご存じですか?」


 男はしばし黙り、酒を一口あおると、口元に皮肉めいた笑みを浮かべた。


「アスエリスだと? ……物好きだな。あそこは人間にとっちゃ住みやすい場所じゃねえ」

「港町以外は……エルフの領域、ってことですか?」


 クリスが恐る恐る尋ねる。


「そういうこった。奴らは徹底して他種族を嫌う。だからこの港町だけは人間や亜人に管理を任せ、あいつら自身は関わろうともしねえ。馬車も定期便もない。……人間にとっちゃ、この町を出た時点で()()だな」


 言葉に合わせ、ソーマの胸がずしりと重くなる。


「……やっぱりか」


 ジョッシュが眉をひそめる。


「じゃあ、どうやって行けっていうんだ?」


 男はニヤリと笑い、指を一本立てた。


「フォレストエルクだよ。あの森を駆ける神秘の鹿だ。認められれば人を乗せてくれるが、ダメなら……歩いて行くしかねえな」

「鹿に……認められる?」


 クリスが小さく首を傾げる。


「そうだ。あいつらはただの獣じゃねえ。森の守り手さ。人の思惑なんざ通じねえ。――心を見抜かれるんだよ」


 その言葉に、三人は思わず顔を見合わせた。

 すると、奥から別の男が声を投げてきた。髭交じりの顔に皺を刻んだ中年で、酔っているわけでもなさそうだ。


「ついでに言っとくがな。森の外れでエルフに出くわすこともある。フォレストエルクに乗っていれば話してくれる事もあるが……気に入らなきゃ、襲ってくるぞ」


 ジョッシュが小声で舌打ちした。


「ったく、やりづらい話ばかりだな」


 ソーマは腕を組み、沈黙の後に短く答えた。


「……つまり、信用されるかどうかがすべてってことか」


「まあ、そう暗くなるな」


 最初の男がにやりと笑って続ける。


「もしどうにもならなけりゃ、アスエリスを目指すのはやめて、南のアスヴェリスに行け。あそこはダークエルフの都だ」

「アスヴェリス……?」


 ソーマは聞き慣れぬ名に眉を寄せた。


「ああ。奴らはエルフとは真逆でな。他種族との交流に積極的で、技術を取り入れるのにも熱心だ。肌の色も違えば、考え方もまるで別物。だが、同じ根を持つ種族だという説もある。……アスヴェリスの女王は気さくでな。人間も受け入れてる」

「……そうか。覚えておくよ。助かった」


 ソーマは深く礼を言い、クリスもジョッシュも軽く会釈した。


 情報を得た三人は、その夜、港町の宿に泊まった。

 個室は埋まっていて三人部屋だったが、小さな木造の部屋は清潔で、ベッドにはふかふかの毛布が用意されている。だが、窓の外から響く波の音や遠くの風のざわめきは、確かに()()()()に来たのだと実感させた。


「……本当に大丈夫かな、明日からの旅」


 ベッドに腰掛けたクリスが、不安げに呟く。


「まあ、心配すんな。俺たちにはソーマがいる」


 ジョッシュは軽く笑って肩を叩いた。

 だが、ソーマは窓の外を見つめたまま小さく答える。


「……フォレストエルクに認められなきゃ進めない。エルフに嫌われれば命を落とすかもしれない。それでも行くしかないんだ」


 胸の奥で、不安と同時に奇妙な高揚感が芽生えていた。

 新しい大陸、新しい種族、新しい出会い。

 危険と隣り合わせであるからこそ、冒険は輝くのかもしれない。


 ランタンの柔らかな灯りが、三人の影を壁に映し出す。

 装備を点検し、手に入れた地図を広げ、明日に備える。

 外の風が窓を揺らし、波音が遠ざかっていく中、一行は静かに眠りへと落ちていった。


 ――翌朝。

 港町はすでに活気に満ち、人々が荷を運び、船が汽笛を鳴らす。

 ソーマたちの視線は、すでに町外れに広がる森へと向けられていた。


 そこから始まる旅路は、誰も知らない困難が待つだろう。

 それでも彼らは進むしかない。


 新大陸の一夜は静かに過ぎ去り、未知の森と神秘の鹿、そして人間嫌いのエルフが待つ冒険の幕が上がろうとしていた。

 エルフと言えば多種族嫌い、ダークエルフも忌み嫌うってのは鉄板ですよね。


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