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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第四章:観光気分? いいえ、運命のフラグです

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55:揺れる海と揺れるフラグ

 ――船旅、一日目。


「……うぷっ」


 船が波に揺れるたび、ソーマの顔色は青ざめ、胃の奥から込みあげる不快感に堪えきれず、身体をぐらりと傾ける。


「ソーマさん、大丈夫ですか!?」


 隣に座っていたクリスが慌てて手を伸ばした。

 ソーマは片手で口を押さえ、船縁に突っ伏す。

 喉の奥がひっくり返るような気分の悪さに、かろうじて返事を絞り出す。


「……だ、だめだ……これが……船酔いってやつか……」

「無理せず横になっていて下さい……」


 クリスは眉を寄せ、ソーマの背を優しくさすった。

 一方で、ジョッシュはといえば――

 甲板の真ん中で大きく伸びをし、潮風を全身に受けながら豪快に笑っていた。


「ははっ! ソーマ、情けねぇな! ほら見ろよ、この大海原! 新大陸が待ってんだぞ! もっと胸張れっての!」

「……おま……人の気も知らずに……」


 ソーマの呻き声は、無情にも波音にかき消された。

 クリスは両手を胸の前で組み、魔法陣を描く。


「【ヒール】」


 柔らかな光がソーマを包み込み、青ざめていた顔色がみるみる回復していく。


「ふぅ……少し、楽になった……」

「よかった……でも……」


 クリスは唇を噛む。


「船酔いって、回復魔法で抑えても、一時的に楽になるだけで……またすぐにぶり返すんです」

「……やっぱりか」


 ソーマは苦笑し、額の汗を拭った。


「だから気にするな。ずっと看病されても悪いし……」

「気にします!」


 クリスが思わず声を張る。

 頬が赤く染まり、目を逸らしながら小さく続ける。


「ソーマさんが辛そうにしてるのに……放っておけるわけ、ないじゃないですか……」

「……クリス」


 ソーマは胸の奥がじんわり熱くなるのを感じ、言葉を失った。

 そんな二人を見て、ジョッシュはにやにや笑いながら近づく。


「おーおー、青春だなぁ。なぁソーマ、クリスに甘えとけよ。俺は甲板で船員さんに混ざってロープでも引いてくるからよ!」

「……勝手にしてろ……」


 ソーマは弱々しく返し、クリスが慌てて彼の背を支えた。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 ――航海、二日目。

 船旅は想像以上に揺れた。

 だが、船員たちは慣れたもので、荒れた海でも手際よく帆を張り、掛け声を合わせて作業を進めていく。


「ヨーソロー! 波に合わせろ!」

「おい新入り、縄を緩めすぎだ!」


 甲板は威勢のいい声で満ち、活気があった。

 ジョッシュはすでに溶け込み、樽を担いだり帆を固定したりと楽しげに働いている。


「お前、船員やっても食ってけるんじゃねぇか?」

「ははっ! 陸でも海でも力仕事は任せろってな!」


 一方、ソーマは船縁に腰を下ろし、重い頭を抱えながら波間を眺めていた。


「……何かいるな」


 次の瞬間、海面を割って黒光りする魚の群れが跳ね上がった。

 長い吻を持ち、槍のように鋭く突き出して船へと突進してくる。


「スピアフィッシュだ! 持ち場につけぇ!」


 船員の怒号と共に、甲板に備え付けられたバリスタが一斉に唸りを上げる。

 放たれた鉄矢が海魔を次々と貫き、血しぶきが潮風に舞った。


「すげぇ……本当に船に武装してんだな」


 ジョッシュが目を丸くする。


「大陸間の航海では日常茶飯事だそうです」


 クリスがソーマの隣で説明した。


「だから冒険者が出るまでもなく、船員さんたちだけで十分なんです」

「……そりゃ助かる」


 ソーマは安堵の息を吐く。

 今の体調で戦えと言われても、自信はなかったからだ。

 数分でスピアフィッシュは撃退され、海は再び静けさを取り戻す。

 船員たちは笑いながら矢を回収し、血を洗い流し、何事もなかったかのように作業を再開した。


「毎回あんなの出てきたらたまらねぇな」

「でも退屈しなくていいだろ?」

「……俺は勘弁してほしい」


 げっそりした顔のソーマに、クリスは小さく吹き出した。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 ソーマの船酔いは依然として続いていたが、初日のように倒れ込むことは減っていた。

 それでも油断すれば胃の奥がすぐにひっくり返る。


「水、飲みますか?」

「……あぁ、ありがとう」

「パンも少しだけなら食べられるかも……」

「……いや、今は……無理だ……」


 クリスはずっと甲斐甲斐しく世話を焼き、ソーマは申し訳なさと感謝が入り混じった気持ちで彼女を見つめる。


「本当に悪いな……俺ばっかり迷惑かけて」

「迷惑なんかじゃありません」


 クリスは首を横に振り、少し恥ずかしそうに笑った。


「こういうときに支え合うのが……仲間ですから」


 その笑顔に、ソーマの胸はまた熱くなる。


「……ありがとう、クリス」

「な、なんですか……急に」


 クリスが頬を赤く染め、視線を逸らす。

 ソーマは小さく笑みを浮かべた。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 ――七日目。

 航海は順調に進み、大きな嵐も事故もなく――船はついに翠大陸の東岸へと近づいていた。


「おお……見えてきたぞ!」


 ジョッシュが叫ぶ。

 水平線の向こう、濃い緑に覆われた大地が姿を現す。

 高くそびえる山々、そのさらに向こう、霞の中に巨大な影――

 世界樹が確かにそびえていた。

 ソーマは胸いっぱいに潮風を吸い込み、感慨深く呟いた。


「……ついに来たな。アスエリス」


 クリスも隣で静かに頷く。


「本当に……着いたんですね」


 やがて船は港町リオンへと入港する。

 白壁の建物が並び、桟橋には商人や冒険者たちの姿が絶え間なく行き交っていた。

 勇大陸とはまた違う文化と香りに、三人の胸は自然と高鳴る。

 宿に荷を下ろした三人は、情報収集も兼ねて夜の街へ繰り出した。


「やっぱり酒場だろ!」


 ジョッシュが真っ先に提案する。


「情報は酒場に集まるって決まってる!」

「そうですね。土地勘もありませんし……」


 クリスも同意し、ソーマも頷いた。

 三人が酒場の扉を押し開けると、内部は笑い声と楽器の音で賑わっていた。

 木のテーブルには酒と肉料理が並び、冒険者らしき者たちが地図を広げ、声を荒げて議論している。

 その光景にソーマは息を整え、仲間に向き直った。


「さぁ……ここからが本番だ」


 新大陸、翠大陸アスエリスでの冒険が、今まさに幕を開けようとしていた――

 誰かが船酔いするのは鉄板かなと思いまして。


※作者からのお願い


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レビュー返しさせていただきたくて最新話まで読了いたしました! ここまで読み進めて一番感じるのは、物語が章を追うごとにスケールと熱量を増していくこと! 新大陸への旅立ちは、単なる舞台の移動ではなく、こ…
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