52:新装備、試運転のフラグ
ゼルガンさんから新装備を受け取った数日後――
朝のギルドは活気に包まれていた。
革鎧を鳴らしながら談笑する冒険者たち、依頼書を求めて殺到する人の列。
奥のカウンターでは、ペンの走る音と紙を束ねる音が重なって響く。
ソーマたちは列の脇を抜け、受付のメルマも元へ歩み寄った。
「おはようございますメルマさん。新装備を試したんですけど何かちょうどいい依頼、ありますか?」
「ちょうどいい依頼ですか……あ、そういえば」
メルマが一枚の依頼書を取り出し、机の上に置いた。
「新種の虫型魔物ですか?」
ソーマが眉を寄せて書面を覗き込む。
「はい。東のアンジュ村近隣の森に、今まで確認されたことのない虫型魔物が現れています。鉱石のような外殻を持ち、しかも炎を吐くそうです」
「虫が炎って……反則じゃないか?」
ジョッシュが半ば呆れたように言う。
「先月のセクト樹海の件もそうですが、虫型魔物の被害が増えています。しかも――」
メルマの声がわずかに落ちた。
「倒しても、例の報告通り溶けて消えるんです。素材が取れないから、対策を立てられない。危険な相手ですよ」
依頼書の備考欄にはこうあった。
【Cランク】アンジュ村近隣の森に出現した虫型魔物(討伐任務)
→ 炎を吐くムカデ。【カルドムローラ】と名称。挑んだ冒険者は炎弾によって大やけどを負い、撤退。外殻は硬く、隙間以外への攻撃は無効化される恐れあり。高リスク。
「いいな。新装備の試しにはもってこいだ」
ジョッシュの口元に笑みが浮かぶ。
「危険度は高いですけど……きっといけます」
クリスが、抱えていた盾をそっと撫でた。
――こうして討伐依頼は受理された。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
王都から東へ二日。
途中の町で一泊し目的地のアンジュ村で補給を済ませ、さらに半日森の奥へと進む。
足元の土は黒く焦げ、木々の幹には丸く抉れた焼痕があった。
「……まるで大砲を撃ち込まれたみてぇだな」
ジョッシュが焦げ跡を指でなぞる。
「これが炎弾の威力か。正面から受けたら即終わりだな」
ソーマは剣の柄に手を添え、視線を巡らせる。
クリスは女王蜂の鎧から再構成された小型盾―― 蜂王盾を抱え、何度も角度や重心を確認していた。中央の金色の水晶が淡く脈打ち、森の光を反射している。
「この盾なら……守り切れます」
「頼もしいな」
ソーマは短く返す。
その時――
不快な金属音が森を震わせた。
甲殻が擦れ合うギチギチという音、湿った土を蹴り進む無数の脚の音。
茂みを割って現れたのは、全長五メートルのムカデ。
鉱石のように硬い外殻は節ごとに輝き、腹部の奥で赤い器官が脈動している。
カルドムローラが、金属を引っ掻くような咆哮を放った瞬間――
「行くぞッ!」
ソーマが地を蹴る。
足裏に集めた魔力が爆ぜ、風を裂く。
一気に側面へ回り込み、蜂王剣が閃く。
「――貫け、【スティングドライブ】!」
鋭い突きが装甲の継ぎ目を叩く。
甲高い悲鳴が森にこだました。
「キィィィッ!」
ムカデが尾を振り下ろす。
「遅い」
鎧蜂が青白く光り、ソーマの姿が掻き消える。
実際には極限の加速で軌道を外れたのだ。
「今だ、ジョッシュ!」
「おうっ!」
ジョッシュが飛び出す。
彼の足元で、蜂靴が低く唸りを上げた。
一歩で弾丸のような加速、地面を滑るスライディングで懐に潜り込み――
「おらぁっ!」
踵で腹部を蹴り上げる!
《スキル:盗塁 が解放されました》
《スキル:スライディング が解放されました》
「二つ同時に新スキルかよ!最高だ!」
一ヶ月の地道な走り込みが、ついに形になった瞬間だった。
衝撃でムカデがのけぞる。
だがすぐに後退し、腹部が赤く光を帯びる。
「来るぞ、炎弾!」
ソーマの警告と同時に、火球が弾丸のように迫る――
「任せて!」
クリスが蜂王盾を前に出す。
光が水面の波紋のように広がり、炎弾を無音でかき消した。
「まだ来る!」
二発目、三発目、四発目――すべて盾が弾く。
カルドムローラが体を丸め、節を噛み合わせて回転を始めた。
「回転突撃……!」
「もう退かない!」
クリスは蜂王盾に魔力を集中する。
《スキル:セイクリッドシールド が解放されました》
「これは……私にも新しいスキルが!」
次の瞬間、蜂王盾を中心に光の壁が展開され、回転突撃を真正面から受け止める。
腕が痺れ、足元がめり込むが――
「はあぁっ!」
衝撃を弾き返し、ムカデを逆方向に吹き飛ばす。
「ナイス、クリス!」
「今です、ソーマさん!」
ソーマが構える。
蜂王剣が唸り、蜂の水晶核で作られた刃に魔力が宿る。
金色の筋が脈動し、空気が震える。
「――弾けろ、【スティングバースト】!」
一歩で距離を詰め、空間を裂く突き。
装甲の隙間を抜け、心臓部へ到達――
内部で魔力が炸裂し、閃光と衝撃波が走る。
「ギシャァァァアアア!」
絶叫と共に、巨体が崩れ落ちた。
静寂――
焦げた葉がひらひらと舞い落ちる。
ソーマは剣を収め、息を整えた。
ジョッシュは得意げにブーツを見下ろし、クリスは盾を抱き締める。
「……やれるな、これなら」
三人の瞳には、確かな自信と次の戦いへの意志が宿っていた。
魂がこもった装備は、もう一人の仲間――
そう感じながら、彼らは森を後にした。
戦闘で使えるスキルがないソーマを活躍させる為に武器で補正しました。
これで戦闘描写の幅が増えたはずです。
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