5:友情フラグは砕けない
ほんのわずかに、期待していた。
もしかしたら、ソーマにもまだ冒険者としての道が残されているのではないかと。
けれど――どうやら、それもここまでと感じた。
「……【栄光の架け橋】から追放されたばかりの俺に、二人を助けられる自信なんて、正直ありません。聖女の卵という世界の希望であるクリスを支えたい気持ちはある。だけど……その力が、俺にはないんです」
何度も、心の中で自問自答を繰り返してきた。
ソーマには、確かに特別なギフトがある。
けれど発動するのはフラグという得体の知れない通知だけ。
要するに、今のソーマは何も持たない冒険者にすぎない。
世界の命運を背負う可能性を秘めたクリスの隣に立てるはずがない。
むしろ足手まといになるだけだ。
――それが、ソーマの結論だった。
「……申し訳ないけど、この話は俺は――」
そう言い切ろうとした瞬間、カルヴィラの声が鋭く飛んできた。
「まぁ待て。一人で答えを出そうとするな。ソーマ君の気持ちは理解した。だが、これは三人の問題だ。そちらの二人の意見も聞かせてほしい」
ソーマはハッとした。
これは彼一人の問題ではなく、三人の未来に関わることだと。
黙っていた二人に目を向けると、沈黙を破ったのはジョッシュだった。
「……ソーマには話した事あるけど、俺とクリスは王都の孤児院に預けられて育った。クリスは聖女の卵、俺は……よくわからないギフト。クリスが冒険者にならざるを得なかったから、俺も一緒に冒険者になった」
言葉を絞り出すように、ジョッシュは続けた。
「……でもパーティーを解散して、正直二人でやっていくのに限界を感じてた。だから今、ソーマが組んでくれるかもって聞いて、本気で嬉しかった。けど……ソーマの話を聞いて迷ってる。俺たち兄妹の事情に、関係ないソーマを巻き込んでいいのかって」
その言葉に、決心しかけていたソーマの心が揺れる。
本当は助けになりたい。
けれど――自分にその力はあるのか?
そんな迷いを抱くソーマに、ここまで黙って聞いたいたクリスが真っすぐな声を投げかけた。
「兄さん、ソーマさん。冒険者を続けたいですか? 『はい』か『いいえ』で答えてください」
シンプルすぎる問い。
だが核心を突いていた。
「それは……でも、クリスには聖女の使命が……」
「理由は後で。今は、続けたいかどうかだけです」
クリスの真剣な眼差しに、思わず本音がこぼれた。
「……続けたい。けど……」
「兄さんは?」
「クリス、お前……」
「兄さん!」
「……俺だって続けたい。でも今のままじゃ――」
ジョッシュの言葉を、クリスは遮った。
「ならもう答えは出てますよ! 三人でパーティーを組みましょう!」
あまりにシンプルな結論。
けれど、心に響いた。
そしてクリスは一歩前に出て、宣言する。
「私からも伝えたいことがあります。……私は聖女の使命なんてどうでもいいんです。ただ、兄さんとソーマさんと一緒に冒険がしたい。それだけです」
息を呑んだ。
「聖女の使命がどうでもいいなんて……」
「私は聖女になれるとも思っていませんし、そもそもなりたいとも思っていません。親に捨てられ、人とまともに話せない私なんかが、ふさわしいはずがない。シオニーさんのように覚悟を持つ人がなるべきです。それに――ギフトが全てだなんて、誰が決めたんですか? 私は……もうギフトに振り回されるのは嫌なんです!」
その叫びに、ソーマの心が大きく揺さぶられた。
(そうだ。俺もギフト【フラグ】に振り回されてばかりだった。けれどギフトを知る前から、冒険者を目指して鍛えてきたじゃないか。ギフトが分からなくても、その鍛錬があったからこそ今までしがみついてこられたんだ……一人では無理でも、この三人なら――)
「……忘れてた。俺も、冒険者になりたかったんだ。孤児院で英雄譚を聞いて、ずっと夢見てた。だから俺も、二人と一緒に進みたい。ギフトがわからなくても、支え合えば何とかなる」
ジョッシュの静かな決意に、ソーマも応える。
「ありがとう、ジョッシュ。俺も……もう一度冒険者を続けたい。今度こそ諦めない。三人で未来を切り拓こう」
その瞬間、小さな光が胸に宿った。
確かな希望だった。
「私たち、世界を救うだなんて言いません。でも――三人で力を合わせれば、ギフトが分からなくても困難を越えられます!」
クリスの言葉に導かれるように、三人は同じ方向を見据えた。
未来はまだ見えない。
けれど今、絆が結ばれたのは間違いなかった。
「……世界の命運がどうでもいい、か。聞き捨てならん言葉だが、三人とも納得したなら良しとしよう」
カルヴィラが半ば呆れながらも、温かな拍手を送る。
それに続いて、メルマも嬉しそうに手を叩いた。
「三人とも、おめでとうございます。これからは私が担当になりますので、よろしくお願いしますね」
「それは嬉しいです! メルマさんの仕事っぷりを見てて担当がメルマさんならってずっと思ってたんですよ」
素直に口にしただけだったが、メルマは固まった。
「……あの、メルマさん?」
「……はっ、す、すみません! つい嬉しすぎて思考が止まってしまいました! 今後は私がソーマさんを末永く担当しますので、どうぞ安心して全てお任せください!」
末永くと言われ困惑するソーマに、カルヴィラが話を切り替えた。
「困らせるんじゃないよ、メルマ。さて……新たに結成したばかりの君たちには、さっそくだがクエストを依頼するつもりだ。ただし今日はもう遅い。明日昼頃に、改めて来てくれ」
「はい。カルヴィラさん、今日はお世話になりました。ご期待に応えられるよう、頑張ります」
三人は深く礼をし、ギルドを後にした。
ジョッシュとクリスは孤児院へ帰り、ソーマは夜風を浴びながら歩き出す。
思えば――パーティーを追放されてから、まだ数時間ほどしか経っていない。
だが、あまりに色んなことが一気に起きすぎて、心も頭ももう疲れ果てていた。
冒険者を辞めてもいいと思った。
ギルドマスターやジョッシュたちに本音を話すだけで、気持ちはぐらりと揺れた。
人に打ち明けるという事はこんなにも心を揺さぶるものだと実感した。
ふと、メルマの事を思い出す。
(同じギフト研究会だったけど、自分のことで精一杯で、まともに話した事もなかったけど、よく視線を感じたなぁ。たぶん俺のギフトが気になってただけなんだろうけど……)
そんな取りとめのない考えを振り払い、俺は魔道通信機を取り出す。
『用事が終わったので今から向かいます。あと十分くらいで着くと思います』
すぐに返信が届いた。
『ソーちゃんお疲れ様! 思ったより早かったけど、お姉ちゃんに会いたくて急いで終わらせたのかな? そうだとしたら、お姉ちゃん嬉しいな♡ ご飯の準備できてるよ。ソーちゃんのこと、ずっと待ってます♡ 愛してるよ♡』
相変わらず過剰な愛情表現だけど、そこに嘘はないのも知っている。
苦笑しながら通信機をしまう。
外はすっかり夜。
人通りの少ない石畳を踏みしめ、ソーマは姉の部屋へ向かって歩き出した。
――ユーサー達に追放され新しいパーティーを組むことになった。
そのことを姉に、どう話すべきだろうか考えながら……
現状主人公パーティーは最終的に4人にしようと思ってますが魔王を倒すのに4人は少ないかもと思い始めました。
先代勇者は5人という設定はなのですがそうすると新たな登場人物の設定を一から考えるのも辻褄合わせるのめんどくせぇと思ってます。
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