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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第四章:観光気分? いいえ、運命のフラグです

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49:走り出すフラグ

 王都に戻った翌朝、まだ日も高くない時間帯に、ソーマたちは静かに動き出していた。


「……行こうか。まずは、ゼルガンさんのとこからだな」


 肩に荷を背負い、ソーマが静かにそう呟く。

 言葉の端々に決意と、どこか焦燥にも似た鋭さがにじんでいた。

 その背中を見ていたジョッシュとクリスも、無言で頷く。


 セクト樹海での死闘。

 異形の女王との戦いは、ただ任務をこなした、などという軽いものではなかった。

 あの恐怖と緊張の中で、命の重みを知った。

 まだまだ足りない。

 もっと強くなければ、次はきっと、誰かが死ぬ。


 その確信が、ソーマたちの胸に炎のように灯っていた。


 ゼルガンの鍛冶屋は、いつものように無骨で質実剛健な外観をしていた。

 分厚い鉄扉と煉瓦の壁、煙突からはモクモクと黒煙が上がっている。

 しかし中に入れば、鉄と火の匂いに満ちた空間には、不思議な温もりがあった。


「おう……ソーマ。無事だったか」


 奥でハンマーを振るっていたゼルガンが、手を止めて振り返り、その奥の鋭い目が、ふっと柔らいだ。

 年季の入った顔に浮かんだ笑みは、ほんのわずか、だが心底安堵しているのが伝わってきた。


「はい。ただいま戻りました、ゼルガンさん」


 ソーマは深く一礼し、懐から丁寧に革袋を取り出す。


「これを見ていただきたくて……セクト樹海で倒した異形の女王の素材です。甲殻、羽根、針……それと、中心にあった水晶体のような核も」

「ほう……」


 ゼルガンは無言で袋を受け取ると、手のひらで慎重に中身を確認した。

 その瞳が一瞬だけ鋭くなり、まるで獲物を見定める猛禽のようになる。


「……こいつ、ただの魔物じゃねえな。……異常な意志を感じる。作られたもの……か?」

「……はい。自分もそう感じました。以前、ゴブリンのダンジョンで感じたのと、同じ()()がありました」


 ソーマの声には確信があった。

 ゼルガンは黙って頷き、袋を脇に置くと、腕を組んでソーマたちを見据えた。


「なるほどな……厄介な何かが動いてるという訳か。だが、面白い。作る価値がある」

「……作っていただけますか?」

「ああ。で、どんなものを作って欲しい?」


 ソーマはひと呼吸置いて、静かに口を開いた。


「俺には、剣と鎧を。もっと強く、速く、そして――迷わず振れるような剣を。鎧は……魔力の耐性を持ちつつ、できるだけ動きやすくして欲しいです」

「なるほど……この針と水晶体を鍔と芯材にすれば、強度と柔軟性を両立できそうだ。鎧には羽根の素材が軽量化に役立つだろう」


 ゼルガンの表情が職人のそれへと変わっていく。

 目の奥に火が灯ったように、創造への情熱がにじんでいた。


「無茶な注文だが――燃えるな」

「……お願いします」


 ソーマが頭を下げると、今度はジョッシュの方を向いた。


「次は俺の番か?」

「そうだ。ジョッシュには、特注のブーツを作ってもらいたい。普通のじゃなくて……靴底から、針のような突起を出せるようにして欲しい」

「ほう、仕込み靴か。蹴りに使うだけじゃなく……踏ん張りの補助にもなるな?」

「はい。特に()()時に必要なんです。もちろん、突起は出し入れできるように。常時出てたら使い物にならないので」


 ゼルガンはニヤリと笑った。


「何に使うのかわからんが面白い注文だな」


 そして、クリスの方へ視線を向ける。


「お嬢さんは?」

「小型の盾をお願いします。戦闘では足手まといにならぬよう、最低限の防御を……自分で守れるようになりたいんです」


 ゼルガンはしばらく三人を見つめたあと、ゆっくりと頷いた。


「……いい目をしている。その装備に命を預ける覚悟、見せてもらった」


 そう言うと、手に持っていた設計用の炭筆を握りしめ、背後の作業机へ向かった。


「一ヶ月はかかる。だが、それ以上のものを仕上げてやる。手は抜かない。命を預ける装備ってのは、そういうものだ」

「……ありがとうございます!」


 ソーマたちは深く頭を下げた。

 その背中に向けて、ゼルガンはポンと手を振った。


「待ってる間、己を鍛えておけ。その目が曇ったら、渡す装備も腐るからな!」


 笑みを浮かべるその横顔に、どこか父のような温かさを感じながら、三人は鍛冶屋を後にした。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 そこからソーマたちが向かったのは、冒険者ギルドの裏手にある訓練所だった。

 石畳の広場には、木製の人形や障害物が並び、今日も数人の冒険者が剣を振るい、技を磨いている。

 ソーマはジョッシュを片隅の空いたスペースに連れて行き、真剣な表情で言った。


「ジョッシュ。そろそろ、次のステップに進んでもらう」

「……次のステップ?」

「野球ってのは、ただ打つだけじゃない。投げるだけでもない。走る事も大事なんだ。今日はそれを叩き込む」

「……走る?」

「そう。野球における走塁技術は、戦場でも大いに生かせるはずだ。間合いを制し、隙を突き、逃げ道を作る。そこを補ってもらう」


 ソーマは地面に線を引き、39メートルほど離れた位置にもう一本の線を引いた。


「ここから、あそこまで。一塁分の距離だ。全力で走れ。合図と同時にスタートだ」

「了解! よっしゃ、やってやる!」

「――今だっ!」


 ソーマの声と同時に、ジョッシュが地面を蹴る。

 その動きは勢いがあったが、足の運びに無駄が多く、まだ重心も高い。


「もっと腰を低く!足幅を狭くして、腕を大きく振れ!」

「わかった、次は修正する!」


 二度、三度、四度――繰り返すうちに、ジョッシュの動きは目に見えて洗練されていく。

 重心を落とし、足の回転が滑らかになり、スタートの爆発力も増していった。


「……いいぞ、ジョッシュ。その調子だ!」

「へへっ、学園時代を思い出してきた!走るってやっぱ気持ちいいな!」


 夕焼けが訓練所を赤く染める頃、ソーマたちの汗は大地に落ち、確かに新たな何かを形作っていた。

 ソーマはその姿を見つめながら、そっとつぶやく。


「これが……俺たちの()()()()の始まりなんだ」


 そう、まだ始まりにすぎない。

 新たな戦いに挑むために、ソーマたちは――今日、また一歩、進み出した。

 重いコンダラ試練の道を~

 あの歌詞のシーンにローラーを引かせてるのが悪い。


※作者からのお願い


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