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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第三章:虫の知らせ? いいえ、抗うべきフラグです

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47:別れのフラグの下で

 それは打ち上げ会場の焚き火の前でのことだった。

 はぜる薪の音を背に、ユーサーは一歩、ソーマへと近づく。


「今の君なら、僕の傍にいるのにふさわしい。」


 その声には迷いがなかった。

 静かでありながら、確かな決意が込められている。


「君の視野。判断。そして、心。……僕はもう、それを疑っていない。むしろ、信じているんだ。戦場での冷静な目線、的確な指示。誰よりも()に向き合う姿勢……それを、僕の傍で振るってほしい」


 言葉のひとつひとつが、焚き火の火の粉のようにソーマの胸に染み込んでいく。


 ソーマは目を見開いていた。

 ──予想もしていなかった。

 かつて自分を()()したその男が、こんな風に声をかけてくるなんて。

 けれど、目の前のユーサーに偽りはなかった。

 静かに、真摯に、彼は()()()()()と向き合っていた。


「もちろん、そちらの二人も――クリスティーナも、ジョシュアも。一緒に来てくれて構わない」


 クリスとジョッシュが、思わず顔を見合わせ、小さく息を呑む。

 アイムは、驚きつつも笑みを浮かべていた。


「……ユーサー、本気か?」

「本気だよ。ソーマはもう、僕たちについて来れなかった過去の彼じゃない。この地を救った英雄の一人だ。……君たちが見ただろう? あの戦い。誰より冷静で、誰より……命に対して誠実だった」


 ユーサーの言葉に、近くにいた仲間たちが静かに頷く。


「……まぁ、正直複雑だけどね。勇者パーティーに聖女は二人もいらないし。でも、ユーサーがここまで言うなら……悪くないかも」


 シオニーが苦笑まじりに言い、エーデルが微笑む。


「王都に戻って、また一緒にやれたら……嬉しいです、私も」

「ソーマ、お前の戦術には助けられた。俺は歓迎する」


 ジェラウドが短く、だが力強く言う。

 ユーサーは、焚き火の影を踏み越え、さらに一歩近づいた。

 焚き火の光が、ユーサーの瞳にちらつく。


「どうだろう? 僕たちと共に――再び【栄光の架け橋】へ。そして、共に魔王と戦ってくれないか?」


 静寂が落ちる――

 風が草を揺らし、焚き火がぱちりと鳴る。


 空には、満天の星。

 夜の闇が全てを包む中で、ソーマはゆっくりと口を開いた。


「……ありがとう。ユーサー。そして、みんな。……本当に、嬉しい」


 ソーマの声は震えていなかった。

 むしろその瞳には、確かな強さが宿っていた。


「でも……俺は、もう別の道を歩き始めたんだ。あの日、【栄光の架け橋】を追放されて……一度は、自分を見失いかけた。でも……今は違う。俺は、自分の選んだ道を信じている」


 そして、ソーマは微笑んだ。


「だから……その申し出には、応えられない」


 その場に、冷たい風が吹き抜けたような気がした。


 けれど――


 ユーサーは目を細めると、少しだけ、肩の力を抜いたように笑った。


「……そうか。ソーマらしい答えだな」


 寂しさと、どこか誇らしげな想いが混じったような笑み。


「でも、後悔するかもしれないぞ」


 その背中に向かって、ソーマは静かに返す。


「それでも、俺が選んだ道だから」


 ユーサーは何も言わず、くるりと踵を返して歩き出す。

 仲間たちもそれぞれに想いを胸に、ユーサーの後に続いた。

 夜は静かに更けていった――


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 翌朝――

 薄い朝靄の中。

 馬車の前で、旅の準備が進められていた。

 ソーマは、少し離れた場所に立つユーサーの姿を見つけた。


「……もう行くのか?」

「ああ。僕たちは飛竜便で王都に戻る。ギルドへの報告もあるし、今後の調整もね」

「……そうか」


 何を言えばいいのか、わからなかった。

 ユーサーとの距離は、あまりにも遠くもあり、近くもあった。

 そんなソーマの肩に、ぽんと手が置かれる。


「道は違えど、目指すものは同じだ。……また、きっとどこかで会おう」

「……ああ」

「それと――」

「?」

「ソーマの気が変わったら、待っているよ。……一度きりの誘いだなんて、言わない」


 ソーマは、小さく笑った。


「……ありがとう、ユーサー」


 飛竜便の方向へ向かって去っていくユーサーたちの背中が、朝日に照らされていく。


「……さて、俺たちはのんびり帰るか」


 ジョッシュが伸びをしながら馬車に乗り込む。

 クリスも頷いて隣に腰を下ろす。


「ここ最近は忙しかったですし、少しのんびりしても……罰は当たりませんよね」

「だな」


 ソーマは振り返らずに、最後にもう一度だけ南の空を見上げた。

 そして、馬車の後部に腰を下ろす。


 馬車は静かに、ガタゴトと音を立てながら動き出す。


 王都への帰路――

 それは、ひとつの終わりと、新たな旅の始まりを告げる道だった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


【???視点】


 同時刻、セクト樹海の奥深く……


「……なぜ、ひるんだ?」


 フードを被った人物が、ただ一人、ぽつりと呟く。


 ネストクイーン。

 彼が造り上げた最高傑作が、あの少年――ソーマの前で()()を覚えた理由とは?


「……あの草は本来、虫型魔物には効果がない。だが……融合体であるがゆえに、生態バランスが崩れ、神経系に逆作用した……? そんな都合のいい話があるか……!」


 言葉とは裏腹に、彼の声は震えていた。


「いや……あれは草の問題じゃない。なにもかもあのソーマとかいう人間のせいだ! ……ソーマ。()()……? まさか、いや……だが、もしあれが……!」


 その名を口にした瞬間。

 彼の中で築いてきた()()が音もなく崩れていくのを感じた。


「……別の大陸にいる連中にも、忠告しておかねば。今はまだ、()と対峙するべき時ではない」


 そう呟き、彼は静かに、森の闇に溶けるように姿を消した。


 誰にも知られることなく、密かに動き出す、新たな陰謀。

 その足音は、まだ遠く……しかし、確実に近づいていた。

 これにて第3章完!

 今章も毎日更新する事が出来ました。

 第4章も毎日更新目指しつつ今後もついてきていただけたら幸いです。

 それにしてもユーサーがこうなるとは私も思わなかったです。

 色々書きたい事は活動報告にて書かせて頂きます。


※作者からのお願い


投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。


ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。

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