45:新しい装備フラグ
激闘の末、融合の女王虫を討ち果たしたソーマたちは、今なお煙の立ち上る戦場跡に佇んでいた。
「……ハァ、ハァ……終わった、のか?」
盾を地面につき、ジェラウドが膝をつく。
彼の額には汗が滴り、荒い呼吸がその疲労の深さを物語っていた。
「ああ。……やっと、だな」
ソーマが重く息を吐きながら、剣を地面に突き立てた。
その刃は、女王の黒血にまみれて鈍く光っている。
「全員……無事……ですよね?」
クリスが肩を上下させながらも周囲を見回し、仲間たちの姿を一人ずつ確かめる。
安堵の吐息が漏れ、目元には光がにじんでいた。
「マジでギリッギリだったわよ……あと一手でも遅れてたら、誰か死んでたってば」
シオニーがその場にぺたんと座り込み、へなへなと力を抜いて笑った。
その笑みには、恐怖と安堵の入り混じった感情がにじんでいた。
「でも……誰も死なせなかった」
ソーマがぽつりと呟く。
それは仲間たちへの誇りと、自らの中に巣食う罪への反抗だった。
「ふは……ぜんぶぶっ壊してやったぜ……」
ジョッシュが大の字になって地面に倒れ込み、空を見上げて笑う。
その目尻には、知らず涙が浮かんでいた。
「さすがソーマくん……ってか。お疲れさん」
アイムが膝に手をつきながら息を整え、ニヤリと笑みを浮かべる。
その目には確かな誇りと、仲間たちへの感謝があった。
「残存する敵影……なし。全域、確認完了……良かった……」
エーデルがようやく緊張を解き、ぐったりと肩を落とした。
それでも視線は、しばらく周囲を見張り続けていた。
「…………」
ユーサーは無言で、女王虫の亡骸を見つめ続けていた。
まるでその死に、意味を探しているかのようだった。
そんな空気の中、ソーマが仲間たちに向き直り、深く頭を下げた。
「ありがとう……みんな。本当に、ありがとう……」
その言葉に、誰もが言葉なく頷いた。
この場に共に立てたことが、何よりの答えだった。
融合の女王は倒れた。
運命を狂わせる死のフラグも、すべて斬り伏せた。
異形たちの残骸が溶け崩れる中、ただ一つ異様な存在感を放つものがあった。
「これ……女王虫の殻、だよな……?」
アイムがゆっくりと近づき、足先でつつく。
カツン、と硬質な音が返り、空気がわずかに震えた。
「他の虫たちは全部ドロドロになったのに……これだけ、完全な形で残ってるなんて……異常すぎます」
エーデルが険しい顔で呟き、殻をじっと見つめる。
女王虫の殻は漆黒に艶めき、まるで何かの器のような完全な対称性を保っていた。
その中心に、未知なる力の気配が微かに残っていた。
「素材として使えるなら、ギルドに回して解析してもらいましょう。何かあるはずです」
エーデルが道具袋から採取キットを取り出し、慎重に殻の一部を削り始めた。
各々素材となる様な部位を取っていく。
刃は容易に通らなかったが、なんとか複数の部位から素材を採取することに成功する。
そしてその過程で、砕けたダンジョンコアの近くに、脈動する心核を発見した。
それはまさに女王虫の心臓ともいえる存在であり、強烈な魔力の塊だった。
「これ……とんでもない魔力密度だ……」
手をかざすだけで皮膚がビリつくような感覚に、ソーマは驚嘆する。
その心核をユーサーに差し出そうとすると、彼は小さく首を振った。
「それは、君が持っていくといい」
ユーサーが静かに言った。
表情には一切の迷いがなかった。
「君の判断と指揮がなければ、誰もここまで来られなかった。これは君の勲章だ」
その言葉にソーマは息を飲み、そして静かに頷いた。
「……ありがとう。大切にする」
「これ、武器に加工したらマジでやばいの出来そうだな」
ジョッシュが目を輝かせて言うと、クリスが笑顔で続けた。
「ゼルガンさんに相談しましょう。こういうの好きそうですし」
女王虫の殻に、心核に、仲間たちの熱がこもったまなざしが向けられる。
「……終わったな」
ソーマが静かに呟いた。
誰も言葉を返さなかったが、その思いは皆、同じだった。
そして、一行は疲労と充足を胸に抱きながら、戦場を後にした。
ヒュッケ村へ帰る――その一歩を、ようやく踏み出した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
村に近づくにつれ、空気が一変する。
焦げた臭い、血の匂い、腐敗した虫の死骸の匂い……そして圧倒的な数。
「……な、なんだよ、これ……」
アイムの声が震えた。
村へ続く道の両脇に、山のように積み重なった虫の死骸。
大小様々な虫たちが、無残な死を遂げて転がっていた。
「ここにも……特別個体が来ていたんだ……それを、全部……?」
クリスが立ち尽くす。
声が震えていた。
そのとき、ソーマの視線が一体の死骸に止まった。
腹が真っ二つに裂け、内側から焼き払われたような虫の亡骸。
その切り口に見覚えがあった。
「まさか……この斬り口……父さん……」
そして、村の門の前。
剣を地面に突き立て、一人の男が佇んでいた。
ソーマの父、ケン。
破れた上着に返り血が滲み、手には戦いの爪痕。
だが、その背中は一切の疲れを見せず、ただ壁のように立ちはだかっていた。
「おかえり」
ケンが一言、言った。
軽く手を振るその姿に、誰もが言葉を失った。
「この数を……一人で……?」
ユーサーが、信じられないというような呟きを漏らす。
「俺たちが戦ってた間……ケンさんは、ずっとここで……」
ジョッシュが感嘆のように言う。
「まるで通す気がなかったんだな、一匹たりとも」
ジェラウドの言葉に、皆が静かに頷いた。
ソーマは、父の背中を見つめながら呟く。
「……俺、やっぱりまだ、全然だな……」
その言葉に、ケンがわずかに振り返り、静かに笑う。
「お前らが、生きて帰ってきた。それが何よりだ。強さってのは、そういうもんだろ」
その一言が、ソーマの胸の奥深くに響いた。
悔しさも、憧れも、誇りも――すべてがそこにあった。
そして一行は、戦いの成果と報告を携え、ギルド本部へと向かう。
ギルドマスターのイルムが全員の無事を見て目を見開き、安堵と驚愕の入り混じった表情を浮かべるのだった――
どんな武器や防具を未来の私が考え着くのか楽しみにしています。
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