43:その声は、死亡フラグを断ち切る号令
心臓が跳ねた。
血が逆流するかのような衝撃。
視界がちらつく。
が、脳は凄まじい速度で回転しはじめていた。
敵の数、配置、女王の脈動と魔力濃度。
どれもが、誰かの死へと直結していた。
──いや、違う。
全員が死ぬルートだ。
「……だったら全部、壊してやるよ」
喉から絞り出したような声。
それが徐々に熱を帯びる。
「運命も、死亡フラグも──まとめてな!!」
怒号と共に、ソーマの背後から異様な熱気が爆発的に吹き上がった。
《了解――死亡フラグへの干渉を開始します》
《干渉起動――対象:■■■クイーン》
《構造解析開始……因果ポイントを特定中……》
《提示:生存優先――即時、戦術レベル再構築してください》
その瞬間、ソーマの瞳が赤く光る。
魔力というには異質な、まるで因果律そのものに干渉する光だ。
「……みんな! 一度、後退! 今から俺が指揮を取る!」
指示が響き渡った。
一瞬、戦場が凍りつく。
それまで各々が自由に動き、個の戦力として戦っていた仲間たちが、ソーマの言葉で動きを止めた。
沈黙……
その時間があまりにも長く感じられる。
最初に声を上げたのは、やはりユーサーだった。
「は? おい、命令系統は別にするって最初に決めただろうが!」
ユーサーの怒声が返るが剣を振るう手は止まっていない。
「いいから黙れ! 今だけは俺の指示に従え!」
ソーマの声が戦場を断ち割った。
そこに込められていたのは、怒りでも焦りでもない。
ただ、冷徹なまでの確信と覚悟だった。
静寂──
その緊張を破ったのは、クリスだった。
「元より、ソーマさんのことは信じてます」
彼女は静かに、けれど力強く言った。その瞳は真っ直ぐだった。
「了解、司令官殿!」
ジョッシュが肩をすくめつつ、冗談めかした笑みで敬礼する。
「……なんであんたなんかに……でも、今はそれどころじゃないわね」
シオニーが苦々しく呟く。
だが杖を握る手に力がこもる。
「何とかしてくれるなら、文句は言わないさ」
ジェラウドが言った。
彼の声音は常に冷静だったが、今は確かな希望が宿っていた。
「ケッ……しゃーねぇ。従ってやるよ。あとで文句は言わせてもらうけどな!」
アイムがニヤリと笑ったその顔は、まるで獣のようだった。
「この戦況……何とかできるのなら、頼みますよ」
エーデルの声は淡々としていたが、かすかに震えるまつ毛が、内心の動揺を物語っていた。
「……」
ユーサーは何も言わなかった。
ただ、無言で剣を握りなおした。
全員の意思が、ソーマの一言に集約されていく。
(──ありがとう)
「クリス!結界を張って回復支援! まず全員、一度リセットだ!」
「了解、展開します!」
クリスの中心に結界が展開される。
純白の結界が味方全員を包み、つかの間の休息に消耗していた精神が蘇る。
「シオニー、エーデル。魔力の回復を最優先。攻撃は控えて、魔力回復に集中してくれ!」
「わかりました」
「……仕方ないわね、まったく……!」
二人が素早く後方へと移動し、マジックポーションを飲み呼吸を整えながら魔力の循環を高めていく。
「ユーサー、ジェラウド。後衛の防御補助だ! 特に右側を固めろ、あいつの尾が射線に入る!」
「了解」
「クッ、了解した!」
前線の二人も即座に動く。
金属音が響き、ジェラウドの巨大な盾が展開されると同時に、ユーサーの雷を纏った剣が虫を切り裂く。
「ジョッシュ! 火力集中、女王の腹部を狙え。コア周辺に一点突破してくれ、その後すぐに後退!」
「おうとも! 爆発芸、見せてやるぜ!」
ジョッシュの新スキル炎の魔球が再び虫を巻き込み女王の装甲に無数の傷が刻む。
その瞬間──
「今だ! シオニー、エーデル、撃て!!」
ソーマの指示に、シオニーとエーデルが魔力を解き放つ。
「──凍てつく槍よ…【フリーズランサー】!」
シオニーの杖から、青白い氷の槍が連続で射出される。
空気が凍てつき、女王の関節部へと食い込んだ。
「聖なる槍よ、敵を貫け! 【ホーリーランス】」
エーデルの魔法は静かに、しかし破壊力は凄まじかった。
空から光の槍が降り注ぎ、ジョッシュの爆撃で露出したコアに絡みつくように突き刺さる。
グォオオオオオオオッ!!!!
女王が咆哮し、巨体が仰け反った。
装甲の一部が崩れ、内部から赤黒い体液が噴き出す。
断片だった連携が、一本の糸に通されたようにまとまっていく。
ソーマの声が、皆の心を再び一つに繋いでいた。
その指示には、誰もが抗えないだけの説得力があった。
戦場の空気が、変わった。
たった一人の指揮で、流れが逆転し始める。
(いける……!)
ソーマの瞳に、勝機の光が灯る。
仲間たちの攻撃が、確実に女王の心臓部へと届き始めていた。
「このまま押し切るぞ──!」
だが──
ズガンッ!!
地響きとともに、女王の尾が唸りを上げて叩きつけられる。
弓なりにしなったそれは、雷鳴のような速度で、明確にソーマを狙っていた。
(……俺を指揮官だと認識したか!?)
本能的に、戦況の核を潰そうとする殺意が放たれた。
避けきれない。
「っ──!」
「ソーマさんッ!!」
仲間たちが叫ぶが、間に合わない。
尾の一撃は、音速を超えた殺意の槍だった。
直撃する……
──だがその瞬間。
──バキィンッ!
胸元で、何かが砕ける音がした。
光の粒が、放射状に弾ける。
まるで小さな星が爆ぜたように。
ソーマの胸にかけられていた、小さなお守りが砕け散ったのだ。
アラダさんから受け取ったあのお守りが。
(……いまの……なんだ……!?)
その光の中で、女王の尾の動きが、ほんの一瞬──本当に一瞬だけ、鈍ったように見えた。
(守ってくれた……? 誰だ……?)
仲間たちが駆け寄ろうとする中、ソーマの姿は、砕けた光と煙の中にかき消えていく――
前回とここまでを1話としたら個人的には長く感じましたので分けましたがどうでしょうか?
個人的には戦闘描写を必死こいて追加で考える様になったのでまとめても良かったのではと思いました。
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